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流れ変えたピッチ上の采配、筑波大MF鈴木徳真「上手くはまった」

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MF鈴木徳真はキャリア初の日本一に笑顔

[12.18 全日本大学サッカー選手権(インカレ)決勝 日体大0-8筑波大 駒場]

 ひとつの判断が試合の流れを変えた。筑波大は全日本大学サッカー選手権(インカレ)で日本体育大に8-0で快勝し、13年ぶりの優勝を果たした。立ち上がりこそ押し込まれていた筑波大だったが、前半15分過ぎに潮目は変わった。そこにはボランチ二人の的確な判断があった。

 試合序盤、前線から果敢に相手へ食らいついた筑波大だが、なかなか相手を捕らえることができず。ボールを奪いにいっては日本体育大の選手たちにいなされ、押し込まれては崩された。

 後手を踏むなか、前半10分過ぎにダブルボランチのMF鈴木徳真(2年=前橋育英高)は“相棒”であり先輩のMF吉田直矢(4年=川崎F U-18)へひとつの提案をする。「一回ラインを組んでから、相手にボールを回させて。縦パスを入れてきたところ、相手が焦れてきたところでカットして攻めましょう」。同じように感じていた吉田は、ピッチ上の残る9人へ伝えていった。

 「まだいくな!」。ダブルボランチからの指示は浸透する。すぐに相手へ食らいつくのではなく、前へボールをつける瞬間を狙った。全員が同じ意識の下で連動した。筑波大の守備に慌てた相手はミスが続き、ボールを失うシーンが目立ち始める。逆に筑波大はショートカウンターから決定機を重ねた。ボールを保持する時間が増え、流れは変わっていった。

 徐々に攻勢を強めると前半28分にMF西澤健太(2年=清水ユース)が先制点。前半を3-0で折り返し、後半には5点を追加。終わってみれば劣勢だった序盤が嘘のような大勝となった。

 鈴木徳真は「(あの采配が)上手くはまって。僕らのなかではボランチとして、ピッチのなかでのいい采配だったと思う。そこは気持ちがいいというか、間違っていないというか(判断が)合っていたなと思います」と胸を張る。

「そこからゲームも落ち着きましたし、ボールもいい形で取れましたし、チャンスになる回数も増えた。健太が1点目を取りましたけど、ベストな形だったんじゃないかなと思います」

 ピッチ上での判断は、一歩間違えればチームが大きく崩れる可能性もあった。一人でも連動できなければ、数的不利となり、失点につながる可能性もあった。まさに紙一重。鈴木徳は「ただ単に仲間を信頼することができたのがありました」と“判断”を下せた理由を明かす。ピッチ上でもすぐに共通意識を持って戦えるという仲間への『信頼』と『自信』がボランチ二人の采配を生んだ。

 筑波大の小井土正亮監督は鈴木徳と吉田のダブルボランチを「阿吽の呼吸というか、お互いに助け合うし、良さを引き出そうとやっている状況。彼らに“もっとこうしろ、ああしろ”とは、今シーズンを通して一度も言っていないくらいに、自分たちでやってくれる。手の掛からない選手たちでありがたい」と評する。自立した選手たちは、この日も自分たちの手で試合の流れを引き寄せた。

 前橋育英高3年時の2014年全国高校選手権で準優勝に泣いた鈴木徳にとっては、待望の戴冠。「嬉しいの一言。僕のサッカー人生で日本で1位というタイトルは一度もないので。この勝利は素直に嬉しいですし、スコアも8-0と離せたので、完封できたのはすごく嬉しかった」と笑顔をみせる。それでも再び日の丸を背負う日、そして世界を見据えるMFは満足しない。

「何をやれば、1位になれるかの基準ができました。そのなかで今後は他のチームも対策を考えて、僕へプレッシャーが来る形も変わると思う。これから先、自分が臨機応変にできるように。それ以上のパフォーマンスを出さないといけない。試合が終わって、ロッカールームで落ち着いてからは、これからまた楽しみが増えるんじゃないかと考えました」

 ファイナルを終えたばかりのMFは、早くもこれから先に待つ戦いへ思いを馳せた。この日本一は、ここから駆け上がっていく上での序章に過ぎない。

(取材・文 片岡涼)
●第65回全日本大学選手権(インカレ)特集

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