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尚志、後半の変わり身でシーソーゲーム制す!

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2回戦に駒を進めた尚志高(福島)

[12.31 全国高校選手権1回戦 尚志高4-2ルーテル学院高 駒沢]

 逆転、再逆転とスコアが目まぐるしく変わった一戦は、尚志高(福島)が後半の3ゴールでルーテル学院高(熊本)に勝利。1月2日の山梨学院高(山梨)との2回戦にコマを進めた。ルーテル学院は一度は逆転してみせたものの自慢の走力が後半に活かせなかった。

 県予選無失点で堅守との評価が高い尚志の守備を、ルーテル学院が破った。前半12分、尚志FW渡部公平(3年)にPKで先制を許した後の27分、主将でもあるDF島津玲斗(3年)がFK。このボールにMF谷本玲弥(3年)が頭で合わせて同点とすると、さらに36分、左サイドからFW伊藤連(3年)、MF三上宗一郎(2年)と中央につないだボールに最後はFW永田紘基(3年)が合わせ逆転に成功する。

 1点ビハインドで折り返すことになった尚志のロッカールームでは仲村浩二監督の檄がとんだ。

「悪くはないけれど繋いで安全にいこうという感じがした。サッカーをせずにカッコつけてる。スライディングなど泥臭いプレーをしろ、と。帰って来た時にユニフォームが破れてたり、どろどろになっているぐらいでないと、試合に出られないサブの選手たちに失礼だと言いました」

 もともと、最悪のパターンは想定していた。MF高橋大河(3年)、FW井上真冬(3年)をベンチスタートにすることで「ビハインドになってももう一回盛り返せるプラン」(仲村監督)で試合に臨んでいた。

 すると後半は尚志はチームが変わったかのようにアグレッシブに。後半開始から高橋が入ると5分、右CKから主将のDF進藤雅也(3年)がヘディングで押し込んだボールのこぼれ球を自ら蹴り込んで同点に。さらに10分から投入さた井上が23分、同じく右CKからヘディングシュートを決め逆転に成功した。

「力の差を痛感した」というのはルーテル学院・小野秀二郎監督の率直な印象だ。

「前半は相手もやや緊張していたかイージーなミスもあり、球際の競り合い、ヘディングの争いもうちがやや有利だったと思います。ですが後半になって相手が息を吹き返した。自分たちは持ち味の運動量をいかすべき後半でいかせませんでした」

 尚志は後半29分にも井上のアシストから渡部が4点目を決めて試合を決定づけた。

 仲村監督は「プリンスリーグ最終節から選手たちの本気度が変わった」という。プリンスリーグ東北最終第18節のベガルタ仙台ユース戦。尚志は前半に2点をリードしながら逆転負けを喫した。「それから精神的にも伸びた。これまで逆転されてからまた逆転することはありませんでしたから」(仲村監督)。

 一つの敗戦が時にチームを大きく成長させる。ひょっとしたらルーテル学院にとって、この一戦がそれにあたるかもしれない。

「一時的にではあっても追いついて逆転できた。そのリズム、ゴールに向かう攻撃を80分間、大きな波を作らずに展開できるようになれば」(小野監督)というように、収穫は少なくなった。

 この日の両チームの対戦は、互いに震災の爪痕を大きく残す県同士の対戦でもあった。

「選手権に臨むどのチームも思いは強い。我々はプレッシャーをあえて乗り越える気で臨みましたが…。選手たちは最後まであきらめずによくやってくれました」(小野監督)。

 この痛みを伴う現実が、初戦からアグレッシブで持ち味を出し合うような試合展開と無関係だったとは思えない。仲村監督も言った。「福島のみなさんに勇気と元気を届けたい」。尚志の最高成績は東日本大震災のあった2011年度のベスト4。当時の気持ちを、今一度振り返るきっかけにこの試合がなったら――。この試合の後半の変わり身のように、さらなる尚志の勇姿が今後見られるのではないか。

(取材・文 伊藤亮)

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