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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:“33人”の3年生で目指す日本一(山梨学院高・小林友也)

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東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 山梨学院高を束ねるキャプテンの心の中には、ある大切なチームメイトの存在がある。かつては同じ寮で寝食を共にし、サッカー漬けの日々を送っていたものの、転校を余儀なくされた“アイツ”。決勝ゴールを叩き出した小林友也が一目散に駆け寄ったスタンドには、「まだチームメイトだと思っている」“アイツ”の姿があった。

 2年ぶりに臨む全国大会の初戦で岡山学芸館高を1-0で下し、2回戦へと駒を進めてきた山梨学院。「この大会に入る前は本当に自信をなくしていて、チーム状況的にも自分の状況的にもナーバスになる時間が多かった」と話すキャプテンの小林も、1つの勝利がもたらす自信や勢いを感じながら、尚志高と対峙する駒沢陸上競技場のピッチへ向かう。東京出身の小林にとっては「地元の友達や後輩とか、小学校時代にお世話になったコーチや監督も見に来てくれていた」という、言わば“ホーム”のようなスタジアム。自然と気合も入る。

 後半に先制を許したものの、今大会のラッキーボーイ的な存在になりつつある1年生の宮崎純真が同点ゴールをマーク。そして後半26分に小林の元へ千載一遇のチャンスが訪れる。左サイドから森田和樹が入れたクロスを、中央で収めた小林はGKの位置を見極めながら丁寧にゴールネットへ流し込む。「自分のキャプテンマークには、スタンドにいる3年生のメッセージが入っているんですけど、点を決めた時に一番に駆け付けたのがスタンドだったので、あの仲間たちと一緒に喜びを分かち合えて良かったです」と笑顔で明かす小林。結果的に決勝点となる彼のゴールで歓喜に沸いたチームメイトと共に、本当はこの日のピッチに立っていてもおかしくなかった“アイツ”の姿もスタンドにあった。

 クォン・ジュンソク。現在は東京朝鮮高に通う高校3年生は2年前、小林を含めた多くの新入生と共に山梨学院の門を叩き、サッカー部に入部する。「ずっと寮に一緒に住んでいて、いつもメシも一緒だし、グラウンドが近いので自主練とかもやったりするサッカー漬けの毎日」と小林が表現したような日々を仲間たちと送る中で、2年生に進級すると少しずつBチームのゲームに出場したり、Aチームの遠征に帯同したりしていたが、夏休みに行われたある試合で頭部を強打してしまう。いくつかの病院を回っても「再びサッカーをするのは難しいのではないか」という診断が続く中、幸いにも何とかサッカーを続けることはできたものの、その条件は都内の病院への定期的な通院。山梨での生活を継続することは難しく、ジュンソクは10月に東京朝鮮高へと転校することになる。「全国で山梨学院と対戦する」というモチベーションをパワーに変え、長いリハビリを経た彼は3年生になると、チームの中でも欠かせない戦力として躍動する。それでも全国総体の出場は叶わず、ラストチャンスの選手権予選も準々決勝こそ自らの決勝弾で延長戦を制したが、準決勝では駒澤大高に0-2で敗北。思い描いた再会の“夢”は実現することなく、ジュンソクは高校サッカーに別れを告げた。

 2017年1月1日。山梨学院が練習していたグラウンドをジュンソクが訪れる。「大会前も色々と連絡を取っていて、昨日もグラウンドに来てくれていたので、一緒に尚志対ルーテル学院の試合を見たりしました」と小林。ブランクはあっても、同じチームメイトだという気持ちは変わらない。実は山梨学院のベンチの中にはジュンソクの“個人持ち”ユニフォームが飾られているそうだ。もちろんそれは山梨学院時代のそれ。小林は「自分たちの学年は“アイツ”も入れて33人いたんですけど、『33人全員で日本一を獲ろう』ということで、“アイツ”もまだチームメイトだと思っているので、そういう形でやっています」と説明する。

 1月2日。駒沢陸上競技場の青く染まったバックスタンドに、ジュンソクは応援団の一員として加わった。「今でも自分をチームの一員として考えてくれているので本当に嬉しいですし、先生方もスタッフの方も、父母の皆さんもOBの方々もいつも声を掛けて下さるので、大げさかもしれないですけど『大きな家族』みたいです」と感謝を口にするジュンソク。仲の良い小林がゴールを決めて駆け寄ってくる姿を目の前で見つめていた彼は、もちろん3回戦もスタンドから声援を送るつもりだ。相手は自らにとっても高校生活最後の試合で対峙した駒澤大高。きっと応援にも力が入ることだろう。「選手権という誰もが憧れる舞台で試合ができた幸せを、胸を張って自慢して欲しいし、そこで得た教訓をこれからの糧にして、お互い頑張っていきたいですね」とジュンソクは“チームメイト”にエールを送る。

 色々な人の想いを背負って、キャプテンマークを巻きながらピッチを走り続ける小林。彼にとっても3回戦は因縁の試合になる。実は中学から高校に上がる際、駒澤大高からも勧誘があった。迷った末に山梨学院を選んだそうだが、まさかそんなチームとこの大舞台で対戦する日が来るとは夢にも思わなかったはずだ。しかも、大会有数のセンターバックとして注目を集めている駒澤大高の佐藤瑶大は、小学校時代から市の選抜で共にプレーした間柄。「今日もアイツらがピッチに入る前に自分が通路を通っていたら彼がいて、拳をバンと『頑張れ』みたいな感じでやりました」と話した小林は続けて、「どっちに行った方が正解だったのか、その答えが自分の中で明日出せると思うので、結果として出したいですね」と楽しそうに笑った。“33人”の同級生で臨む最後の選手権。山梨学院を牽引するキャプテンには、“33人”での日本一がおぼろげながら確実に見え始めている。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務し、Jリーグ中継を担当。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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