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[女子選手権]自分たちのサッカー貫いて――十文字、初の日本一!

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後半16分、十文字は村上真帆がゴールを決め歓喜が弾ける

[1.8 全日本高等学校女子サッカー選手権大会決勝 十文字1-0大商学園 ノエスタ]

 ともに初の選手権決勝進出となった大商学園高(関西2/大阪)と十文字高(関東3/東京)の対決は後半のゴールを守り切った十文字が初優勝を飾った。

 前半から十文字が球離れを早く、ハードワークがウリの大商学園のチェックをかわし中盤を制する。「最後なので自分たちのサッカーをやろうと。攻撃の入り口を広げて1人1人ボールを持つ時間を短く。そこからサイドに展開するのがうちのサッカー」と石山隆之監督が言うように、ダブルボランチのMF鈴木紗里(3年)とMF源間葉月(3年)がサイドへボールを散らし、左サイドのMF蔵田あかり(2年)と右サイドの松本茉奈加(3年)がスピード豊かに大商学園ゴールへ詰め寄る。

 中盤のコンタクトから逃れ、十文字の全体が押し上がる格好になったが、大商学園も最終ラインと守護神GK西村清花(3年)が踏ん張る。「我慢する時間が長くなると思った。両サイドと中盤の起点を抑えてサイドの裏を狙いたかったが、そこまで持ち込めなかった」と語る大商学園の岡久奨監督は、前半の選手たちの踏ん張りを讃えた。だが、反転攻勢に出られない理由があった。「ラインを上げたら裏をやられるので」。それほど十文字の両サイドを中心としたスピードは脅威だったということだろう。前半のシュート数が十文字5本、大商学園0本という記録が、勢いの差を物語っている。

「コンパクトにボールを保持できた。でも、ボールを保持していながらセットプレーを入れられて負けるのはよくあるパターン。それが一番イヤだったけれど、最後の試合なので信じるしかなかった」(石山監督)の思いが通じたのが後半16分。源間がボールを中央のMF村上真帆(3年)につなげる。「前日練習でファー側のゴールが見えたのでシュートを打ったらバーに当たったシーンがあって。同じようなケースだったので、今日は決めたいと打ったら決まった」。卒業後は早稲田大でサッカーを続けるキャプテンが、ロングレンジから利き足とは逆の左足を振り抜く。「GKが前に出ていることは、前の試合の映像を見ていてわかっていた」という予想通り、弧を描いたシュートはGKの頭上を越えゴールイン。これが決勝点になった。

「意外なところでシュートを打つし、両足で蹴れる。ヘディングも弱いけど競る。前からあんなに守備をするやつはいない。背中で見せるキャプテンが、苦しいところで決めたりしてくれるので嬉しかった」と石山監督は村上を賞賛するが、本人は「自分たちの流れができていて心にも余裕ができていた。だから周りが見えたのでシュートが打てた。これが慌てていたら前にボールを持ち込もうとしていたかもしれない。準々決勝、準決勝は負けたら終わりというところでビビリになって自分たちのサッカーができなかったけれど、決勝は最後なのでプレッシャーがあってもボールを回していこうと話していました」と、良い流れを作っていたチームを賞賛した。

 失点した大商学園も後半最後の20分は攻勢に転じた。「あのゴールは止められないと思う。点を決められてからチャンスはあった」(岡久監督)。後半22分からはケガでスタメンを外れていたMF矢野粧子(3年)を投入してでも打開を図ったが最後まで1点が取れなかった。岡久監督は素直に十文字との差を認める。「差を縮めることはできたと思うが勝ち切るまではできなかった」。十文字は攻勢にさらされても落ち着いて対処できるだけの経験があった。チームは関東リーグやなでしこチャレンジリーグ参入戦なども経験。十文字学園のチームを小学校から大学まで複数作り、地域に根差したクラブチームも作るなど、石山監督が中高の同好会発足から21年間で広げてきた十文字サッカーの歴史の賜物が決勝の終盤で活きたといえる。まさに宿願の日本一を達成した。

 大商学園の選手たちで印象的だったのは、試合終了のホイッスルの瞬間、誰もピッチに突っ伏しなかったことだ。潔く整列に向かう姿は凛々しかった。このことについて、キャプテンのFW久保田晴香(3年)は、「めちゃ悔しかったですけど最後までサッカーができて幸せだということ。自分たちが勝つということは、逆にそこで負けてしまうチームもたくさんいる。そういうチームに対して失礼になると思ったので最後は胸を張ろうと思いました。特にみんなで話したわけではないですが、みんな無意識にそういう気持ちになったのでは」と語った。岡久監督も「力を出し切ったので。悔しいですが清々しいです」と胸を張る。ファイナリストの両校は明暗は分かれたものの、サッカーに対して真摯な取り組みが見て取れる点は共通していた。

写真協力『高校サッカー年鑑』
(取材・文 伊藤亮)

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