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選手権優勝後、イングランド遠征中も成長続けた青森山田がラストゲームを4-0快勝!!

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遠征最終戦を勝利で終え、記念写真に収まる青森山田高イレブン

[1.20 練習試合 青森山田高 4-0 ストラカンFF セント・ジョージズ・パーク]

 高円宮杯プレミアリーグ優勝チームとしてイングランド遠征中の青森山田高(青森)は現地時間20日午後、スコットランド代表監督のゴードン・ストラカン氏が経営する地元クラブのストラカン・フットボール・ファンデーション(以下ストラカンFF)とトレーニングマッチを行い、FW鳴海彰人(3年)の2ゴールと左SB三国スティビアエブス(3年)、交代出場の左SB中山純希(3年)のゴールによって4-0で快勝した。16年度にプレミアリーグと全国高校選手権の2冠を獲得している青森山田はこれがイングランド遠征最終戦。会心の勝利で遠征を終えた。 

 青森山田の黒田剛監督が初優勝を果たした選手権後に嬉しそうに語っていたのは、選手たちが選手権決勝まで謙虚に学んで、成長しようという姿勢を貫いた点だった。同監督によると、選手権直前の時期は選手たちが「学べなくなる時期」なのだという。伝えられたことが頭にも、身体にも入ってこないような時期。だが、今年の3年生たちは選手権期間中も、指揮官が認めるほど貪欲に人の話を聞き、学び、成長し続けて2冠を達成した。その青森山田はこのイングランド遠征も“ご褒美旅行”ではなく、学ぶ機会、成長する機会に。遠征に参加した全18選手で戦い、2日前の“プロ予備軍”ナイキアカデミー戦(0-0)を上回る内容で快勝を収めた。

 今回、青森山田の指揮を執った上田大貴コーチは言う。「(外国人との)フィジカル、パワー、サイズの差に対して、持ち前の身体を寄せる、競るタイミングで例え一発目の競り合いで負けたとしても、次に工夫してやれるというのがゲームの中で見られたのが良かったと思います」。試合中に自分たちで対応して流れを傾けたことに加え、遠征期間を通して、最大の特長である明るさを持って日本と海外との環境の違いに順応していった選手たちを讃えていた。主将のMF住永翔(3年)は「学習しないといけないところがたくさんあった。ここだったら相手の足が出るのかとか、一回一回学びながら、もっとこうしようとか、もっとパス遠いところで受けようとか、もっとアングルつけようとか、試合の中でもコーチングを通じてできた」。個々が厳しく声を掛け合いながら、刺激しあい、チームとして、個人としても印象的なプレーを見せた。

 すでに全ての公式戦を終えている3年生たちにとってはこれが青森山田での“ラストゲーム”。4-5-1システムの先発はGKが坪歩夢(2年)で4バックは右SB小山新(3年)、CB橋本恭輔(3年)、CB工藤聖人(3年)、左SB三国。中盤は住永をアンカーにトップ下が住川鳳章(3年)と佐々木快(3年)、右MF永島卓徒(3年)、左MF嵯峨理久(3年)、1トップは鳴海が努めた。

 序盤は相手の組織的なパス回しの前にボールを奪いきれないシーンがあった。選手たちはストラカンFFからナイキアカデミー以上の強さを感じる部分もあったという。それでも距離感良く守る青森山田は球際でも怯まず、前向きにボールを奪うシーンが増加。そしてスペースを活用した攻撃でビッグチャンスを作り出す。7分、嵯峨とのコンビで左サイドを打開した三国のラストパスから鳴海が1タッチの右足シュート。14分にも右サイドの小山が斜めに入れたグラウンダーパスを鳴海がスルーし、マークを外した嵯峨が右足シュートを打ち込む。

 いずれも相手GKの好守に阻まれたが、前半半ば頃からは個でもDFを剥がす住永と住川の2人を中心にワンツー、3人でのパス交換などグラウンダーのパスワークとオープンスペースへの配球で強敵を翻弄して見せる。そして失っても前線からの連動した守備によって高い位置で相手ボールを引っ掛けたほか、工藤の守備範囲広い守りや橋本のカバーリングも光る青森山田は27分、右サイドで見事なインターセプトを見せた佐々木が持ち込んでクロス。これを中央から外への動きでマークを外した鳴海が頭で決めて青森山田が先制した。

 その後も、組織的な崩しに加えて永島の身体を張ったボールキープや三国の突破力も活かして決定機を作った青森山田だが、33分に三国の突破から鳴海が迎えたチャンスは左ポスト。トリックFKでも決定機を作ったが、2点目を奪うことができず、1-0で前半を終えた。その青森山田は後半開始から坪、小山、工藤、佐々木、永島に代えてGK飯田雅浩(1年)、右SB新井健太郎(3年)、CB新村隆司(3年)、左SB中山純希(3年)、左MF小堀雄大(3年)を投入。三国を右MFへ上げて、嵯峨がトップ下の一角に入った。

 青森山田は後半9分、ショートパスを繋いで相手の守りを広げると、縦パスを嵯峨が上手くコントロール。最後は鳴海が振り向きざまにシュートを決めて2-0とする。さらに19分、鳴海が約40mのループシュートをポストに当てると、20分にはその鳴海に代えて、膝のケガによる長期離脱から今回のイングランド遠征で実戦復帰したFW黒田凱(3年)を投入。そして24分、住川とのパス交換から三国が右足で決めて3-0とした。

 守備面では大きく入れ替わった最終ラインを橋本が上手く統率。危険なシーンを一人で潰していたことも印象的だったが、チームを盛り上げていたのは交代出場組だった。小柄な右SB新井がインパクト十分の声を発し続けたと同時に、対人、空中戦でも奮闘。また小堀と中山が相手のカウンターを2人で挟み込んで阻止するなど好プレーを見せる。38分には左サイドから攻めて最後は中山が利き足と逆側の右足でフィニッシュ。これがゴール右隅へ決まり、4-0となった。

 青森山田は新井や黒田をムードメーカー役に元気と組織力で相手を圧倒。互角の展開だった序盤から最後は完全に相手を飲み込んだ。4点目を奪った直後には1年時の負傷の影響からマネージャー業を務めてきた伊藤翼(3年)を前線へ送り出す。青森山田の選手たちはチームを陰で支えてくれた伊藤や黒田にボールを集め、ともにプレーすることを心から楽しんでいるように映った。41分には失点のピンチもあったが、新村と中山が2人がかりのシュートブロック。交代出場組を含めて、相手をPAへ入れない守備、ゴールを隠す守備を貫徹し、坪と飯田の両GKも終始安定していた。そして90分間を無失点で終了。組織で相手の個を上回り、鉄壁の守備を見せ、元気で相手を圧倒するなど、プロ入りしたGK廣末陸(3年)やMF高橋壱晟(3年)不在の中で“らしさ”を存分に表現した青森山田の快勝だった。

 青森山田は試合中、聞いている側が心配になるほど選手間で厳しい言葉をぶつけ合っていた。守備の遅れや、判断ミス、決定機での技術ミスなどのシーンで容赦なくチームメートから怒声が飛んでいた。その声もチームの成長に欠かせないものだった。住永は「人にコーチングするということは自分もやらなきゃいけない。人に言っているだけで自分は何もやっていないのでは言われている側も気持ち良くないですけど、言う側がやれば、言われている側も『コイツが頑張っているならコイツの話を聞くしかないな』となる。人に言うのは自分もやらないといけない責任が出てくるけれど、そういうことがこのチームは全員ができてきた。それが成長に繋がっていると思います」。負けず嫌いの選手が非常に多いというチームは仲間から指摘されたことに対して奮起し、直後に『どうだ』と言わんばかりの好プレーを連発。好循環を維持したまま、「選手権後」も負けずにシーズンを終えた。

 上田コーチは「本当にラストゲームだし、このチームでこの仲間とやれるのも本当に最後だし、この先この仲間が全員集まるかというとその機会はないと思うので、その中で100パーセント戦いながら楽しもうと送り出して、それがゲームにしっかり出ていたので良かったと思います」と評価。一方で今後、対戦相手のストラカンFFが見せていたようなトップスピードでのプレーや、個での怖さを身につけていくことを求めていた。国内2冠王者にも課題はある。イングランド遠征を経験できたからこそ得た「学び」を卒業する3年生や、1、2年生たちは日本へ持ち帰り、今年の青森山田の選手たちらしく、またそれを成長に繋げる。

(取材・文 吉田太郎)

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