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「東京五輪への推薦状」第37回:天然で図太く、スケールも大の市船守護神・長谷川凌

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市立船橋高GK長谷川凌

 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 父はバスケットボール選手、母はバレーボール選手。「高さ」を強く求められる二つのスポーツのハイブリッドな遺伝子を引き継いだ息子は、そのどちらのスポーツも選ぶことなくサッカーの道を歩み始め、やがてゴールの門番という天職を見出すこととなった。その男の名は長谷川凌市立船橋高の190cm守護神である。

「人に言われてするのが好きじゃないんです」

 両親と異なる道を選んだ理由を問われた長谷川は、そう言って苦笑いを浮かべた。父からはバスケを、母からはバレーを薦められた記憶はある。ただ、「そういう性格みたいです」と、違う道を選んだ。天邪鬼(あまのじゃく)。市立船橋で指導に当たってきた伊藤竜一GKコーチも、入学当初の長谷川について「とにかく頑固で自己主張ばかり。聞く耳を持たないところがあった」と笑って振り返る。

 ある種の欠点ではあるが、角度を変えて見れば「GKとしての長所でもある」(伊藤GKコーチ)。つまり、「主張できない選手はいつまで経っても主張できないが、彼は最初からそこはできた」からで、それはGKにとって不可欠の資質でもある。ただ、コミュニケーション能力は“主張する”一辺倒では成り立たない。伊藤GKコーチは時に叱咤し、時に突き放しつつ、時に我慢もしながら、長谷川に“聞く力”が備わるのを待った。

 昨秋から正GKへ大抜擢を受ける。ポテンシャル的には春先からポジションを奪う可能性も十分にあったのだが、メンタル面の変化を待ってからの起用だった。

「彼の成長にとって、待った時間が良かったのだと思う。以前から能力はあったけれど、失点したら周りのせいにして終わりという選手だった。でもいまは自分にミスがあったと感じたときは、『悪い、いまのは俺のミスだ』と言った上で、『でも次はこうしてくれ』と自分の主張をできるようになった」(伊藤コーチ)

 抜擢されてからは「得意じゃなかった」足元の技術を使ったビルドアップなどを着実に改善させてきており、何よりチームを背負う責任感も出てきた。一方で、資質としか言いようのないモノもあらためて見せている。先日の船橋招待U-18でもそうだったのだが、失点に繋がるミスを冒してあとのプレーの質がまるで落ちないという点だ。優れたGKに欠かせない、“折れない心”というメンタル面の資質である。守護神にあえて厳しい言葉を贈り続ける朝岡隆蔵監督も、その打たれ強さについては「本当に天然で図太い」と舌を巻く。

 長谷川が市立船橋へ進路を定めたのは、小学校6年生のときにMF和泉竜司(現・名古屋)、GK積田景介(現・琉球)らを擁したチームが全国制覇した大会を観たときだった。奇しくもその年、長谷川は中学年代の進路を探す中で受けた順蹴フットボールアカデミーのセレクションにおいて、「GKなら合格だぞ」と転向を薦められ、天職と出会うこととなった。それから6年を経て、次は長谷川が市立船橋のユニフォームを着て夢を与える側に回る。

 同時に鉄の意志を持つ守護神は「高卒でプロに行く」という明確な目標も胸に抱く。今年2月に参加したナショナルGKキャンプ以来、U-18日本代表入りも一つのターゲットになった。そこで競ったGKたちはいずれも巧者だったが、「自分が勝てる部分もある」という手ごたえも得た。190cmの長身を活かしたハイボールの処理とダイナミックなセービング、持ち前の胆力も生きる1対1。自信のあるプレーはさらに磨いていきつつ、同時に「ビルドアップとか、全体のアベレージをもっと上げたい」と足元の技術なども上げていく。

 一つのイメージはある。高卒ルーキーでいきなりJリーグでスタメン出場を続ける二人の先輩、原輝綺(現・新潟)と杉岡大暉(現・湘南)の姿はいまも鮮烈に残っている。新チームになってからは「いかにあの二人に頼っていたのか、二人に守られていたのかを痛感させられた」と言う。だが逆に、あの二人のように後輩たちを引っ張って「守れる」選手になれば、自ずと進む道も見えてくるというもの。天然で図太い、堅守市船の守護神は「ヘタクソなので、頑張るしかない」と言って、元より高い視線をさらに高くしていた。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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