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「久保くん」の時期はもう過ぎた…U-20日本代表FW久保建英、成長の軌跡

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U-20日本代表に飛び級招集されたFW久保建英

 小学校6年生の時にバルセロナU-12の一員として“来日”し、多くの観衆の前で技術と頭脳、勝負強さを見せ付けた時から、天才少年「久保くん」は日本のサッカー界にとって早くも特別な存在になっていた。ただ、そのころのイメージが少し引きずられ過ぎているとも感じている。

 U-20日本代表の主将、MF坂井大将(大分トリニータ)は昨年末に行われたU-19日本代表合宿で、初めてFW久保建英と対面した時のことを、「最初は『わあ、本当に“久保くん”だあ』という感じだった」と笑って振り返る。久保自身はU-19代表の面々について「TVで見てきた人たち」と形容していたが、坂井を始めとするU-19側からに言わせれば、「それはこっちのセリフだ」という感じだったに違いない。

 実際に接してみれば、もはや「久保くん」と呼ぶような幼い選手でないのは明らかで、年長の先輩たちもすぐにこの15歳に対するイメージを改めていった。アルゼンチン遠征、東京合宿、そしてドイツ遠征と招集を重ねる中で、「久保くん」ではなく、一人の仲間として認められていった。「早く引き上げた方がいいと思った」という内山篤監督の言葉通り、この半年間でその成長速度は明らかに増している。そのプレーにしても言動にしても、もはや少年のそれではない。

 そんな15歳の久保をU-19(現U-20)のカテゴリーに引き上げる。常識的にはあり得ないような可能性について、内山監督が考え始めたのは昨年3月のことだった。福岡県で行われたサニックス杯国際ユース大会において、久保は「U-17」日本代表に招集された。15歳の選手が2階級上のチームに入るというのは、これは十分に抜擢だった。このカテゴリーで遜色なくプレーし、高校年代トップクラスのチームとも渡り合う久保を見ながら、指揮官は自身のチームである「U-19」まで久保を引っ張り上げることを考えるようになったと言う。

 実際、内山監督は、このU-17カテゴリーの選手であるGK大迫敬介(広島ユース)、GK若原智哉(京都U-18)、DF橋岡大樹(浦和ユース)、FW中村駿太(柏U-18→青森山田高)といった選手を飛び級で候補メンバーや正メンバーに招集している。そのため、同カテゴリーで結果を出した久保の抜擢が視野に入ってくるのは「自然なことだった」と言う。同時に、単なる“お客さん”として呼ぶ気は毛頭なかったようで、「呼ぶなら戦力になると思えた時に」ということも考えていた。決断のタイミングはJ3リーグにステップアップしてプレーする久保の様子を視察した時。久保自身はこの招集を「純粋に驚いた」と振り返っているし、日本サッカー協会内でも時期尚早ではないかとの異論もあったそうだが、内山監督は「問題なく通用するという自信があった」と言う。

 3月のドイツ遠征を通じて明らかになったのは、久保が紛れもなくU-20代表の戦力になったということ。出場4試合全てで得点かアシストを記録したというだけでなく、周りを生かして自分も生きる久保の“らしさ”が随所に見られた。20歳の選手たちも自然と久保を認めてボールを預けて走るし、久保が生きるパスが供給されるようになっていた。少し前まであったお客さんの雰囲気は消え、すっかりチームの一員である。

 技術と判断力のベースの高さに加え、フィジカル面でも着実な成長を遂げてきたからこその適応(あるいは進化)だったが、それを支えているのはメンタル面の力もある。輪の中に割って入る力とでも言えばいいのだろうか。3月初旬に行われたU-20代表の東京ミニ合宿では、1泊2日の初日に行われた紅白戦でチグハグなところも出てしまったFW小川航基(ジュビロ磐田)とのコンビネーションについて、その夜には小川も驚くほどの積極性で話し合う姿勢を見せてしっかり修正。翌日の練習試合では鮮やかに結果を出してみせた。こうした積み重ねがあっての、今回のメンバー入りである。周りからお膳立てしてもらった得たものではなく、紛れもなく久保が努力の中でつかみ取ったものだ。

 輪の中に入っていき、そこで自分を表現し、同時に相手を理解する力。恐らくバルセロナに渡った時もそうだったろうし、帰ってきてFC東京U-15むさしに加入した時もそうだった。また中学3年生でFC東京U-18に引き上げられて高校3年生に囲まれてプレーするようになった時も、J3リーグに呼ばれた時も、それぞれの場所で物おじすることなく自分を表現する形を見付けてきた。一貫した強さ(あるいは柔らかさ)をそこに見ることができる。

 来たるU-20W杯に15歳の選手が挑むことを「異例」と表現するのは簡単なのだが、U-20日本代表に合流してから久保が見せてきた順応性とクオリティー、そして残した結果を思えば、極めて自然なチョイスというほかない。周りのレベルが上がれば上がるほど、それに合わせるようにプレーを進化させてきた久保がU-20W杯という舞台でどんな進化を見せていくのか。義務教育課程を終えて6月に16歳となる久保は、いよいよプロ契約も可能になる。このU-20W杯は、久保が大人のサッカー選手になる以前の、最後の時間となりそうだ。


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