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「東京五輪への推薦状」第40回:“MF的なFW”ではなく、ストライカーとして勝負、進化する逸材、町野修斗

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興國高戦、後半17分に同点PKを決めた履正社高FW町野修斗

 2020年東京五輪まであと4年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 大型センターフォワードの日本人が育ってこない――。こうした嘆き節は各所で聞かれる。原因としてよく言われるのは「もとより体の小さい東洋人だから」ということだろう。ただ、大阪・履正社高の平野直樹監督はこうした見方を真っ向から否定する。理由はシンプルで、「韓国では育ってきているでしょう」と。

「我慢が足りないだけでしょう。韓国では大型選手を、ちょっと欠点があっても我慢して使っている。韓国はデカいFWもそうやって育てているんです」(平野監督)

 かつてG大阪ユース監督時代に日本人らしからぬスケール感を持つMF稲本潤一(札幌)を育てた名伯楽の言葉だけに説得力もあるというもの。少々鈍重だったり、プレーの幅が狭かったり、戦術的に機能させづらい選手であっても、スケール感のある大型選手を大事に使っていく。平野監督のポリシーに導かれるように、一人の大型ストライカーが伸びてきた。日本高校サッカー選抜の一員として先の欧州遠征にも参加していたFW町野修斗だ。

 中学時代はボランチやトップ下でプレーしていた町野がグッと伸びてきた身長のことも加味されてFWにコンバートされたのは1年夏のこと。左右両足のどちらが利き足かすぐに分からない両足キックの精度の高さやボールタッチの柔らかさ、ボランチ経験者らしさを感じさせる追い越してくる選手を使う感覚の良さなどを武器にFWとして着実にステップアップしてきた。当初は“MF的なFW”のイメージも抜けなかったそうだが、ゴールへのこだわりを求められる中で徐々に点取り屋としても開花。「FWとしてゴールというのは外せない」と本人も強く意識しながらプレーするようになっている。

 5月14日に行われた高校総体大阪府予選6回戦(中央トーナメント1回戦、ベスト16)では、難敵・興國高を相手に2得点。憎らしいほどに落ち着いたPKでの1点目も見事だったが、チームの3点目となる2ゴール目は圧巻だった。ペナルティーエリアの左サイドをドリブルで持ち出し、角度のない位置から左足を一振りすると、弾丸のようなシュートがGKのニアハイを破ってゴールの天井に突き刺さった。「ひざ下が長いから大振りでなくともああいうキックをスパッと蹴れる」と平野監督も感嘆する一発は、履正社の決勝点となった。

 両足から繰り出すロングキックによる左右への展開力など中盤の選手として考えても魅力的な武器があり、実際に高校選抜ではトップ下でプレーしていた。ただ、平野監督は「あとから後ろに下がっていくことはできるけれど、ストライカーとしての感覚は今しか養えない。185近くあって、両足蹴れて、柔らかさもあるなんて選手はそうそういないから」と、現時点では最前線での起用にこだわる。最もプレッシャーの厳しいポジションで鍛え抜き、その上で次のステージの指導者へこのタレントを託したいという考えだ。

 何より今は本人がストライカーとしてのプレーに意欲的。高校選抜では同い年のFW安藤瑞季(長崎総合科学大附高)のボールを受ける前の動き出しの巧みさに刺激を受け、改善に取り組んでいる。「平野先生を日本一の監督にしたい」と語る次代の大器が今年どこまで伸びていくか。あらためて期待しておきたい。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。
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