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中央大FW矢島輝一、今季絶望の大怪我も…「答えはひとつ」のぶれない想い

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太鼓の前で仲間の戦いを見守る矢島

 中央大のFW矢島輝一(4年=FC東京U-18)は今年2月末から3月にかけて行われた全日本大学選抜のドイツ遠征中に左膝前十字靭帯損傷の怪我を負い、全治約8か月と診断された。大学ラストイヤー、ユニバーシアード競技大会などでの活躍も期待されるなか、今季中の復帰は絶望となった。

 ボールを蹴ることもままならない現在は、中央大の応援を牽引。仲間をスタンドから鼓舞している。左膝に装具を着け、太鼓のバチを強く握り締めて戦う90分。トップチームのリーグ戦のみならず、Iリーグでもその姿勢は変わらない。「太鼓を叩きすぎて、今は6つも豆があって、めっちゃ痛いです」と少し誇らしげに右手を広げる。

 負傷したのはドイツで行われた全日本大学選抜の紅白戦。すぐさま向かった現地の病院で「膝の骨折」と診断が下ったが、帯同していたドクターの「骨折ではないと思う」との判断で別の病院へ。「左膝前十字靭帯の損傷」と診断された。帰国せずにチームへの帯同を続けたが、「怪我をしたという実感も最初はなかったのですが、でも皆がサッカーをやっているのを見ると苦しかったですね」と振り返る。「遠征中は同部屋が三笘(筑波大・三笘薫)で。耳栓をして寝ていたので気がついてないと思いますけど、部屋ではずっと泣いてました」。

 日本へ帰国後、3月29日に手術。「人生初のオペで、麻酔から覚めてからめっちゃ痛かったです。痛み? たぶん弱くて(笑) ナースコールを押しまくったんですけど、そういうものだよという感じで(笑)」。退院後はトレーナーから「あまりグラウンドに来なくていいよ」と気遣われたが、ネガティブになっていると思われたくなかったため、気丈にグラウンドへ足を運んだ。しかし「サッカーを見るとやっぱり何もできないし悔しい……」ともどかしさは募った。

 入学当時から自分たちの代でタイトルを獲ろうと誓い合った同級生たちとの最終年。かける思いは強かった。加えて、古巣・FC東京から2年連続となる“特別指定”の話もきていたタイミングでの負傷。「自分がこの先どうやって進んでいくのか楽しみだったところから、一気に何もなくなってしまった。悔しいというよりも、怖いとか不安とか、そっちの方が大きかったです」。

 それでもFC東京U-18時代から応援を続けてくれているサポーターからの言葉が矢島を奮い立たせた。先が見えなくなった未来への不安、再びボールを蹴ることへの恐怖。「思うことはたくさんあった」なかで、サポーターからもらったFC東京のエンブレム付きの横断幕。そこには“結局、何を考えても答えはひとつだろ”と記されていた。

「きっとそれは“目指すところはトウキョウだ”というところにつながっていると思ったので。それを見たときに、へこんだりネガティブになっても、そこはぶらさずにやろうと。ネガティブにならないのではなくて、例えネガティブになった時も、もう一回必ずそこを見れるように。トウキョウを目指すという、そこだけはぶらさないようにしようと思ったんです」。自分のなかにあった一本の芯が太くなったことで、気持ちが少し楽になった。

 小学校低学年時、味の素スタジアムで見たFC東京に魅せられて、スクールへ通い、FC東京U-15むさし、FC東京U-18とキャリアを重ねた。トップ昇格は叶わずに中央大へ進学したが、クラブへの想いは変わらない。「プロになるというよりも、FC東京でサッカーがしたいですし、そこで愛されたいというのが一番」と口にするとおりだ。昨季のJ3ではFC東京U-23のクラブ史上J3初ゴールとなるメモリアル弾を決めたものの、トップチームでゴールネットを揺らす日まで、歩みを止めるわけにはいかない。

「大学サッカーが無理になったら、プロ最初のキャンプに100%できるようにとドクターの人と相談もしているので、そこに向けてしっかりやっていきたいです。満足はしていないですけど、本当に1、2、3年生までである程度の結果を出して、得点数は取れていたので、アピールはできていたから良かったと思います。それがなかったら今は恐ろしい状況だったなと……」

 年明けのキャンプに照準を合わせていくが、矢島は今やるべきことは目の前の仲間のために、戦うことと強調する。「一番はキャンプに合わせていくことですけど、今は学生スポーツの“ここ”にいるので。応援だったり、自分にやれることをしたい。サッカーが出来ない分、そういうところに力をかけて大丈夫なので、少しずつですけどやっていきたいです」と仲間たちへの献身を誓った。

 大怪我を負ってからの日々は「相当、泣きました」と言うが、ここから巻き返す。トップ昇格できなくても、自力で夢を引き寄せた。転んでも躓いても、その度に立ち上がってきた。起き上がった数だけ強くなり、たくましさは増した。ピッチへ戻る日は、プロとして初めてピッチへ立つ日。そのプレッシャーは計り知れないが、矢島は必ずやり遂げる。

(取材・文 片岡涼)

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