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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第51回:小兵の「頑張る源」(流通経済大:森永卓)

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流通経済大MF森永卓(写真中央)

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

「やばいなと思いましたもん。本当に変わらなかったですよ」

 少し恥ずかしそうにキックオフ前のセレモニーを振り返ったのは、流通経済大のMF森永卓だ。卓越した技術と個人戦術で一目置かれている選手だが、身長153cmと小柄だ。エスコートキッズの小学生と並んで集合写真を撮ったとき、背の高さが変わらなかった。

 体は小さいが、ピッチでは小さくない存在感を示す。関東大学リーグの第9節、順天堂大との上位対決は、開始早々に失点して重い立ち上がりになった。押し込まれてロングパス頼みになる中、中盤でパスを呼んで相手を引き付け、素早くボールを離して攻撃にリズムを与えたのが森永だった。後半に警告を受けたために交代で退いたが、小さくとも十分に脅威となっていた。

 元々、流通経済大柏高時代も高円宮杯U-18プレミアリーグの制覇に貢献するなど実績を挙げており、実力はある。ただ、昨年までの流経大はロングパスからの二次攻撃を得意とするスタイルでアピールは、難しかった。

「監督の頭の中(メンバー構想)に自分は入っていないと思ってしまって、アピールするとかじゃなく違う方向に気持ちが行った。試合に出られないなら、もういいやとなってしまった」と苦境に悩んでいた。昨年10月にはプロ入りの夢を諦めて指導者を目指そうかと思うとも話していた。

 しかし、今の森永は、できそうか、できなさそうかという苦しい計算から吹っ切れており「ラスト1年は、個人でどのチームに行きたいとかじゃなくて、とにかく頑張る。それで、最後に何かあれば良いなという感じ。今は、チームでタイトルを取ることが目標。次節は累積警告で出られないけど、出るときと同じように練習からやっていきたいです」と言い放った。

 心境の変化の背景には、ラストイヤーの覚悟だけではなく、1人のプロ選手の活躍があった。「頑張る源は、柏レイソルの……」という言葉に続いたのは、MF中川寛斗の名前だった。身長155cmでJリーグ史上最小だが、今季3得点を挙げて活躍。ヘディングで2点を決めている。

「試合前にはプレー動画を見ています。あれを見たら、オレも頑張ろうと思いますよ」

 小柄な選手には、小さくない困難やコンプレックスが付きまとう。だからこそ、成功例はひと際大きな刺激になる。中川に刺激を受けた森永がプロ入りの夢をかなえるならば、また別の選手に勇気は受け継がれる。山椒は、小粒でもぴりりと辛い。小兵の意地は侮れない。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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