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怪物FWが怪物DFに? 三国ケネディエブスがCBへ大胆コンバート

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CBでの挑戦をスタートした青森山田高三国ケネディエブス

[6.19 東北高校選手権決勝 青森山田高 3-0 尚志高 岩手県営運動公園陸上競技場]

 ビックリコンバートだった。青森山田高の元U-16日本代表候補FW三国ケネディエブスが6月16日から19日にかけて行われた東北高校サッカー選手権大会においてCBへと本格的に転向。大会初戦でDFとして公式戦初先発を果たすと、決勝までの4試合をCBとして戦い抜いた。

 これまでも相手のパワープレー対応などで試合終盤にストッパーとして入ることはあった。192cmの長身は“防空要員”として十分に計算できるからだ。高円宮杯プレミアリーグEASTの市立船橋高戦などで実際にそうした起用もあった。

 だが、試合終盤にスポットでCBに入るのと、スタートからCBとして入るのではまったく違う。三国も「最初は難しかった」と笑うが、この驚きのコンバートは監督命令というわけではない。「自分から言いに行った」結果だった。

 言いに行ったのは春休みの遠征の途上だった。「このままFWをやっていてもプロになれないと思ったし、何かを変えたかったんです」と言う。黒田剛監督を始めとする首脳陣の回答は「そこまで言うなら、やってみろ」。春からCBとしてのトレーニングが始まった。

 CBは小学校3年生くらいまでやっていた記憶があると言うものの、戦術的な対応を含めたCBとしての動きは「完全な素人」(正木コーチ)。DF小山内慎一郎主将にCBの心得を聞きに行ったり、OBの日本高校選抜DF橋本恭輔(現新潟医療福祉大)にも、電話でディフェンスラインのアップダウンのタイミングなど動き方について質問攻めにしたと言う。「本気でDFとしてやるつもり」と言うように、一つの手本と観たボアテングの動画を何度も観るなど個人的な努力も続けてきた。

 迎えた東北大会は「DF三国ケネディエブス」が公式戦で起用できるレベルなのかが問われる戦いだった。「前に跳ね返すヘディングのほうが得意」という武器は最終ラインで確かに生きて、準決勝までの3試合は「インターセプトも結構上手くいった」(三国)という手ごたえのあるプレーを見せた。

 ただ、決勝の尚志は小さな選手がドリブル勝負を挑んでくるような展開が多く、苦戦を強いられるシーンも目立った。また正木コーチが「行くところと行かないところの判断」を課題に挙げたように、不用意に飛び込んでピンチを招くシーンもあった。

 それでも、全体としてはDFとしての“可能性”も十分に感じる内容だった。長身に加えてリーチの長さは確かな武器で、ゴール前でも足を伸ばしてシュートブロックに対応できる点は確かな強みだ。

 判断に加え、後方からのビルドアップも課題だが、「ロングキックは新しい蹴り方を練習している」と言うように、こちらも修行中。昨年は夏に右足半月板を負傷して長期離脱を余儀なくされ、高校サッカー選手権も応援に回らざるを得ず、「悔しかったし、うらやましかった」という悔恨を残した。それだけにリベンジを誓った今季、出場機会が限定される現状を打破するために、DFへの転向を望んだ。

 もちろん、DFだからポジション奪取が簡単だとは思っていない。むしろCBの難しさを実感する中で、小山内や蓑田広大の両CBの壁の高さも分かってきた。だがそれでも、「今年中に二人を食ってポジションを奪う」という目標は外さない。AチームではFW兼用CBとなりそうだが、正木コーチは「駆け引きのところが課題だったので、CBの心理を知ることがFWでのプレーにも生きてくる可能性はある」と別の期待も込めながら、三国ケネディエブスの進化を待ちたい考えだ。

「192cmの体は教えて伸ばせるものではないし、身体能力も持っている。日本サッカーの宝になり得る選手」(正木コーチ)であることは間違いない。DFとしてのタレントがあるかは未知数のところもあるが、本人が自ら望んだチャレンジである。青森山田にとっても、この男の成長は今後の大きなカギとなりそうだ。

(取材・文 川端暁彦)
●【特設】高校総体2017

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