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スペインでのさらなる飛躍を誓う柴崎岳「攻めて、成長したい」

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「アンブロ」とアドバイザリー契約を締結したMF柴崎岳

 スペイン2部テネリフェで過ごした濃密な半年間を経て、MF柴崎岳は新たなステージへと踏み出そうとしている。チームの1部昇格こそ果たせなかったが、異国の地で確かな足跡を残し、着実にその評価を高めた。今月3日にはデサントの「アンブロ」ブランドとアドバイザリー契約を締結。「アクセレイター プロ」という新たな“武器”とともに挑む新シーズンを前に、25歳のMFを直撃した。

高校時代から習慣化していた
自分で考える力


 最初に履いたスパイクの思い出は、いまから20年前のことだ。柴崎岳の故郷、青森県には『タケダスポーツ』というスポーツ用品店がある。ある日、柴崎少年は親と一緒に店を訪れ、記念すべき人生初の一足を手にした。

「5、6歳の頃でした。どのスパイクだったかは忘れましたけど、初めてスパイクを買ってもらうことができてとにかくうれしかったですね」

 それ以来、サッカー人生の中で何百足ものスパイクを履き、それぞれの年代で足跡を残してきた。全国に名を知らしめた青森山田での活躍。プロとして挑んだ、鹿島アントラーズでの日々。そして2017年、その舞台はスペインへと変わった。テネリフェでの半年間で、柴崎はチームメイトが履くスパイクも近くから目にしてきた。

「今回、アンブロと契約して、これから履かせてもらうことになる『アクセレイター』は、日本のものづくりの良さが出ていると思います。このスパイクはすごく質が高い。作っている人も生粋の職人さんという感じで、すごく真面目な人が多いし、靴に対してのこだわりは自分とは比にならないくらい。スパイク作りにかけている人たちの力の結集で、すごくいいものができあがっていると思う。国内で企画から制作までやっているスパイクだから、グローバルモデルとは種類も違います。日本人が日本人のために考えた、日本の技術が結集された、いいスパイクだなと」

 柴崎は今でも自分のスパイクは自分で丁寧にケアをする。当然、テネリフェには用具係がいるけれど、彼は自分のスパイクはあまり触らせなかったという。それは革の感触やフィット感を重視する、彼のこだわりでもある。スパイクをいたわるように丁寧に扱うのは、中学、高校の頃からの習慣だった。高校時代を、彼はこう振り返る。

「中学でも高校でもそうだけど、だれかに言われてやるよりは、何かを自発的にやることがすごく大事。練習面でいうと、自分で考えてトレーニングすることです。あとは、自分の自己分析もとても大事になる。なぜ試合に出られないのか、逆になぜ試合に出られているのか。自分の長所、そして短所はどこなのか。そういうことを、しっかりと客観的に把握することが大事だと思います。そこからどういうトレーニングをするべきかにつながってくるので。僕は自分で考えてやったり、コーチに“この部分を鍛えるトレーニングがしたいんです”と伝えたりしていました。何でも人に聞く、というのもいいけれど、自分で考えてやることを大事にしていましたね」

スペイン移籍当初の苦労も
「疲れるけど楽しい時期だった」


 スペインでプレーしたい――。当時描いていた夢はやがて現実となり、スペイン2部のテネリフェで半年間を経験した。柴崎は昨季、鹿島でJリーグを1シーズン戦い、その後にクラブワールドカップで決勝まで進み、休むことなくスペインへと渡った。コンディションを崩したこともあり、試合に出るまでには予想よりも時間を要した。加入当初のことを彼はこう振り返る。

「スペインに来たばかりでうまくいかないこともあり、試合に出られないこともありました。でもあれは必要な時間だと思っていた。無駄なことではないんだろうなと。あの頃、試合に出るために練習している毎日が勝負でしたね。一つひとつアピールしていって、それで認めてくれて、途中から試合に出るようになった。今思えば、その作業も楽しかったです。試合に出続ける楽しみをあらためて感じましたし、自分の地位、立ち位置が確立されていく前の、疲れるけど楽しい時期でした。今ではあれを経験してよかったと思います」

 テネリフェのマルティ監督は柴崎を急がせなかった。「ガクには他の選手にはないものがある」と言い、昇格に向けて鍵となる終盤戦に照準を絞った。コンディションが整うのを待ち、いざ抜擢すると、終盤戦は最後まで11試合連続で先発起用。この期間、特に5月以降の柴崎のパフォーマンスはスペイン内で賞賛を受け、その知名度と評価は大きく上がることになる。連続先発の最後の試合は、ヘタフェとのプレーオフ決勝。テネリフェは1点差で、1部昇格を逃した。

「試合後、チームメイトは泣いていました。今までにしたことない経験でしたね。もちろん僕も残念ですし、悲しかった。でも僕はあくまでも途中から入ってきてチームの手助けをしたという存在ですし、中心は彼らなんです。彼らのように泣きはしなかったけど、なんとも言えなかったです。 

 試合翌日、テネリフェに帰ったら空港でたくさんファンが待っていて、声援をかけてくれたんです。あの地元ファンの熱さは特別なのかな。島だし、マドリードみたいに都会でもないし、いくつもサッカークラブがあるわけじゃないから、地元感は強い。半年間でそれを感じました」

クラブ、そして日本代表
見据える来季のビジョン


 半年間で、日常生活やピッチの上でのスペイン語は問題なくこなせるようになった。街を歩き、外で食事をした。

「テネリフェには美味しいスペイン料理屋もあるし、和食もあったし、困ることはなかったです。食べたいものを食べて、ゆっくりしたいときは部屋で作って食べたり。やっぱり日本よりは時間はある。練習以外の時間が長いし、周りに日本人の友達がいるわけでもないから、その時間にスペイン語を勉強したりして」

 来季、どこでプレーすることになるのか、現時点では未定だ。当然ながら、希望はスペイン1部でのプレーだ。来シーズンについてのビジョンを、柴崎ははっきりと持っている。

「守りに入るんじゃなく、毎年何かしら攻めて、成長していきたい。来季もそういう年にしたいなと思います。プロ1年目から、毎年成長していきたいと思い続けているし、そうなってきていると思う。自分の置かれた状況でいいプレーをしたいですね。クラブや日本代表、どこであれ自分のいいプレーをしようと思うし、自分が求められる場所で、全力でプレーしようと思う。日本代表も、選ばれたらやるだけです」

 テネリフェでの活躍もあり、柴崎に注目するスペイン1部のクラブは多い。攻めて、成長していく――。そう強く語った柴崎の未来が、今から楽しみになってきた。

(取材・文 豊福晋)

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