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「自分はちゃんと成長できているのか…」 福岡DF冨安健洋、ストイックな18歳の葛藤

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アビスパ福岡DF冨安健洋

「DAZN×ゲキサカ」Road to TOKYO~Jリーグで戦うU-20戦士~Vol.6

 アビスパ福岡の下部組織で育ったDF冨安健洋は16年にトップチームに昇格すると、シーズン中盤からレギュラーの座を奪取し、チームになくてはならない存在へと成長した。東京五輪世代が中心となる年代別代表でも守備の要の一人として存在感を高める男は、初の世界大会を経験した今、何を思うのか――。

できることができなくなる
メンタルがプレーに与える影響は大きい


――5月のU-20W杯では全試合フル出場を果たしました。ご自身にとって、どういう大会になったと感じていますか。
「決勝トーナメント1回戦のベネズエラ戦(延長●0-1)で負けてしまいましたが、“やれている”感覚もあった中での敗退になりました。“まだやれるんじゃないか”という感覚を残したまま大会を終えてしまったので、本当に悔しかった。ただ、チームとしては“やれている”という感覚がありましたが、個人的には手応えよりも課題を多く感じた。U-20W杯は自分にとって初めての世界大会だったので、メンタル的な問題もあったと思いますが、“できる”と思っていたことが思った以上にできなかったし、思い通りのプレーができませんでした」

――特にどういう部分で思い通りのプレーができなかったのでしょう?
「ビルドアップは自分の課題としていた部分でしたが、特にウルグアイ戦では相手がプレッシャーを掛けてきて、かなりパスミスがあり、世界レベルのプレッシャーの中で自分はビルドアップができないと痛感させられた。(CBでコンビを組んだ中山)雄太くんなんかは、相手がどれだけプレッシャーを掛けてきても落ち着いていなして、ボールを運んでいました。自分もあれくらい余裕を持ってプレーし、攻撃のスイッチが入るような効果的なパスを出せれば、もっと上のレベルに行けると思うので、今後も課題として取り組んで少しずつレベルアップさせていきたいです」

――ウルグアイ戦でのミスは、相手のプレッシャーが速かったというのが一番の原因?
「いや、メンタル的なものだと思っています。できることとできないことは練習でも試合でも変わらないと思いますが、メンタルの状態が悪くなるとできないものが増えてしまう。いつもだったらできることができなくなってしまうことで、やっぱりメンタルがプレーに与える影響は大きいと感じました。南アフリカとの初戦の前半も良くなかったけど、後半はあの大会で唯一自分のプレーができました。良いプレーができて迎えたウルグアイ戦でしたが、どこかフワフワしていたことでミスをしてしまったと思うし、それにプラスして相手のスピードやプレッシャーが違ったということがあります」

――今おっしゃったように、南アフリカ戦の後半は相手攻撃をはね返し続け、内山篤監督も「苦しい時間帯のMVP」と評したように圧巻のプレーを見せました。
「楽しかったですね、あのときは。4試合やった中で南アフリカが一番マークにつきにくく、前半は相手の2列目からの飛び出しに対応し切れずにピンチを招く場面もありました。けど、後半はボール保持者の状況をしっかり見て、ロングボールを蹴られたらラインを下げることが徹底できて、相手の先手先手を取れて対処できたと思います」

――その中でも守備ではどのような課題が残りましたか。
「大会が終わって改めて感じたのは、PA内でゴールを守り切る力、最終局面でのパワーの出し方というのがまだまだ足りないということ。自分はディフェンスの選手なので、やっぱりまずは失点しないことが一番です。『ゴールを死んでも守り抜く』『何が何でもやらせない』という集中力や予測、感覚もあると思いますが、最終局面でいかに守り切れるかが大事だと感じました」

――ただ、メンタルが整っていれば、南アフリカ戦後半のようなプレーができると実感できた。
「メンタルの状態によってプレーが左右されるんだと実感できたのは、大会が終わってからでした。確かに南アフリカ戦の後半のプレーは自分のプレーができたと思いますが、ベスト4に入った3チーム(ウルグアイ、イタリア、ベネズエラ)を相手にしたとき、自分のプレーはできなかったので、まだそのレベルなのかなと感じますね」

――世界を体感して、またあの舞台に立ちたいという気持ちも強くなったのでは?
「当然、世界を相手にまた戦いたいし、世界に出ていきたい気持ちがあります。ただ、まだそのレベルには達していないとU-20W杯で痛感させられたので、まずはそのレベルまで成長させなければいけません」

海外への気持ちが一気に強まった
2年前の衝撃を受けた試合


――中盤に最終ラインといろいろな位置でプレーしていますが、ここで勝負したいというポジションは?
「監督から与えられたポジションでプレーするのが自分の役割なので、今は特にここで勝負したいという気持ちはありません。いろいろなポジションを経験して、そのポジションの良い部分を吸収しながら成長していければいいし、どこでもプレーできるように極めていくのが一番良いと思っています」

――当然、ボランチとCBではボールを保持したときの意識も変わると思います。
「最終ラインでプレーするときはボールをドリブルで運ぶことを意識していて、その場で回すだけでなく、運びながら相手を引き付けてパスを出すことにチャレンジしています。ボランチのときは360度、全方向からプレッシャーが掛かるので、パスを受ける前に相手と味方の位置やスペースを確認して、ワンタッチで出すことを意識しています。それと、井原(正巳)監督からサイドチェンジも求められているので、そういう部分も出していこうとしていますね」

――自分のこのプレーを見てほしいという部分は?
「強いて言うなら、ボールを奪うことに関してはストロングポイントだと思っているので、そういうプレーはドンドン見せたいですが、まだまだ一試合でボールを奪う回数は少ないので増やしていきたいというのが本音です。それと、ボールを奪った後に前に出て行くプレーはもっともっと見せていきたい部分ですね」

――U-20W杯で感じた課題とともに、やるべきことが多いですね。ただ、そういう壁を越えていくことで自身の成長も実感できるのではないでしょうか。
「いや自分の成長って感じないんですよ、プロになってからの変化もほとんど感じません(笑)。例えばサイドチェンジとかなら日によって蹴れたり、蹴れなかったりで安定しないし、常に『もっとやれるんじゃないか』『自分の力をすべて出し切れていないんじゃないか』と思いながらプレーしていることが多いので、逆に『今、自分はちゃんと成長できているのかな?』『本当に自分は大丈夫なのかな?』という焦りの方が強いです」

――ストイックですね。
「どうなんですかね。サッカー選手って皆、そうなんじゃないですか。ストイックなのか分かりませんが、満足することはないと思います」

――去年はJ1を経験しましたが、成長スピードを上げるには上のカテゴリーでプレーする必要性を感じましたか。
「今年J2で戦って、J1とJ2の違いを最初の2、3試合で感じたし、年代別代表で集まってプレーするときも、J1でプレーしている選手には余裕があると感じるので、J1でプレーした方がより成長できるだろうなと思いますが、自分は海外に行きたい気持ちがあります」

――海外に行きたいと思うきっかけは?
「2年前(15年11月)の海外遠征でU-18イングランド代表と対戦して1-5で敗れましたが、本当に衝撃を受けた試合でした。パスのスピードや判断のスピードが速すぎてついていけず、あのときの相手は日本とは違い過ぎた。その差を少しでも埋めるために、海外でプレーしたい気持ちが一気に強くなりました。海外に行ってみて、日本とは違う環境で生活してみたら、違ったものが見えてくるのではないかという気持ちが自分の中にはありますが、もちろん海外のトップリーグのトップチームにいきなり行けるとは思っていません。スタートは下のカテゴリーでもいいので、環境を変えるというのは選択肢の一つとして持っています」

東京五輪に向けて
ゼロからやらないといけない


――U-20日本代表のチームメイトであるMF堂安律選手が、オランダのフローニンゲンに移籍したことは、相当刺激になるのでは?
「正式に発表が出る前に話は聞いていましたが、律は行くべきだったと思います。PSV(オランダ)からもオファーがあったと報道され、その時から『海外でやりたい』という話はしていたし、U-20W杯での活躍ですからね。海外に行くだろうと思っていたし、一緒にプレーしていて違ったものを持っていると感じていたので、フローニンゲンで活躍してほしいです」

――ただ、堂安選手が海外に移籍したことで、自分にもチャンスがあると実感できたのではないでしょうか。
「自分もU-20W杯でアピールして海外に行くのが理想だと思っていましたが、うまくアピールできずにチャンスを無駄にしてしまいました。なかなか理想通りにはいかないと感じたし、逆にU-20W杯で思っていた以上にできなかったことが多かったので、まで海外に挑戦するのは早いんだなと思いました」

――3年後の東京五輪は目指すべき場所の一つだと思います。
「日本で開催される五輪の年に出場資格があるなんて、かなり運が良いと思うし、絶対にメンバーに入りたい。U-20W杯ではメンバーに選んでもらいましたが、これから監督も代わってフラットな状態になると思うので今は危機感しかない。U-20W杯でインパクトを残せなかったので、またゼロからやらないといけないという気持ちが大きいです」

――リオデジャネイロ五輪でトレーニングパートナーを務めたことも、大きな経験になったのでは?
「五輪を迎えるための準備段階を一緒に過ごせたので、『五輪で絶対に勝つんだ』という雰囲気を肌で感じられました。それを体感できた自分たちは、同世代の選手に伝えていく役目もあると思うので、そういう部分はしっかり伝えていきたいですね」

――最後に現時点で見据えている目標を教えて下さい。
「できるだけ早く海外に行きたいけど、このままでは行けないのは分かっているし、あくまで理想でしかありません。今は、ジュニアユースから育ててもらった福岡がJ1昇格できるように戦い、その中で個人的に理想に近づけるように努力して成長していきたいと思っています」

(取材・文 折戸岳彦)


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