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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第58回:元プロの胸で輝く119番のエンブレム(東京消防庁:小泉訓)

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東京消防庁サッカー部に所属する小泉訓

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 名門校のタイガージャージではないし、レプリカが販売されるプロのユニフォームでもない。しかし、左胸に119番のエンブレムが付いたユニフォームも、サッカーへの愛と挑戦を十分に証明してくれる。なるべく強くて、自分の良さを生かせるチームに入る。それが、サッカーに夢中な若者の道筋だ。

 前橋育英高から鹿屋体育大に進み、全日本大学選抜を経験した小泉訓徳島ヴォルティスと契約するまでは、目指す道を進んで来た。しかし、出場機会は少なく、2年でけじめをつけた。引退後、1年間の勉強期間を経て消防士になった。今は、消防車の運転手として火災現場に仲間を送り届け、自らも消火活動を行っている。そして、 東京消防庁サッカー部の一員として、プレーを続けている。

 彼が出場した第46回全国自治体職員サッカー選手権大会を取材に行った。会場の運営を手伝っていた高校生に試合の感想を聞いてみたが、苦笑いを浮かべていた。若者の目には、エリートのピラミッドしか映らない。強いJユースや高校へ進み、大学かプロへ。その先に広がる代表、欧州、Jリーグ……。小泉もプロを引退したときに、サッカーは辞めるものだと思っていた。しかし、この世には様々なチームや大会が存在する。東京消防庁は、都内の消防士の選抜チームだ。各署にチームがあり、年に2回は都内の消防署の対抗戦が行われているという。その中で競技意欲の強い者が東京消防庁のチームに所属して、東京都社会人2部リーグや自治体職員選手権を戦っている。

 若い頃の俊敏さやスタミナがなくなっても、プレーはできる。ただし、サッカーで稼ぐのでなければ、なるべく強くて、自分の良さを生かせるチームは望めない。元プロでも、高校でレギュラーになれなかった選手とプレーすることになる。葛藤を消化した小泉は「初めは、変なプライドや意地がありました。味方に対して『なんで、そんなにボールが止まらねえんだよ』って思ったこともあります。でも、やっていくうちに、サッカーをできるということだけで幸せだと感じるようになりました」と振り返る。独りよがりな考えを捨てず、現実に歩み寄らなければ、仲間は得られない。逆を言えば、向上心やプレーレベルだけでなく、サッカーを続けるために本当に必要な物を学びとれば、きっと仲間を得続けることができる。消防士の元プロ選手は、言った。

「ピラミッドの裾野は広いんだぞと知ってもらえたら、素晴らしいですね」

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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