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「関西U-16~Groeien(育てる)~」は若手審判も「育てる」。岩本毬花さんの目標は男子が試合後に「ギュッと握手をしてくれる」レフェリング

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「関西U-16~Groeien(育てる)~2017」で笛を吹いた岩本毬花主審

「関西U-16~Groeien(育てる)~」では、U-16年代の選手、指導者の育成と共にユース審判など若手審判のレベルアップにも取り組んでいる。8月24日、25日に三重県伊勢市で行われた集中開催で目を惹いたのが、2級審判ライセンスを持つ岩本毬花さん。昨年、20歳の誕生日を迎えたばかりの女性審判の期待のホープだ。

 元々は女子サッカー選手。小学生年代の指導者をしていた父親と、先にサッカーを始めた妹の影響で、小学校4年生からボールを蹴り始めた。幼少の頃は外で遊ぶことが嫌いな女の子だったというが、すぐさまサッカーの魅力にハマり、中学でも男子の中に交じって、プレーを続けた。審判のライセンスを取得したのは、中学1年生の頃。当初は、「父のチームで、手助けができれば」という思いで、4級ライセンスを取得したが、三重の強豪・津工高に進学したタイミングで転機が訪れた。

 過去に1級審判を目指していたという津工サッカー部の藤田一豊前監督から、「在学中に2級を目指そう」と声をかけられ、津工史上初の女子サッカー部員になった。ただ、週末の試合で笛を吹くのではなく、「選手と同じメニューをこなせば、審判に必要な体力がつく」という藤田前監督の考えから、日々のトレーニングは男子と同じメニューを実施。規定により、公式戦には出場できなかったものの、BチームやCチームの練習試合で男子に交じってプレーし、出番がない時は主審を担当した。高校3年生の秋には無事、2級ライセンスを取得し、全日本少年サッカー大会でも主審を務めたが、当時は審判の道を本格的に歩むつもりはなく、ただ仲間と一緒にボールを追いかけているのが楽しかったという。

 高校卒業後は、一般企業に就職。平日は仕事に励む傍ら、「サッカーに携わっていたかった」との理由で、休日に審判を続けていたが、仕事と試合がバッティングすることも多く、掛け持ちは難しかった。そんな彼女に2度目の転機が訪れたのは、一昨年の6月。日本クラブユース選手権(U-15)の東海予選で主審を務めた際に、三重の街クラブ「FCアヴェニーダソル」の代表に声をかけられた。他愛もない会話を交わす中で、自らの悩みを打ち明けた所、「それなら、うちの会社に転職すればいい」と誘われ、代表が経営する運送会社への転職が決定。現在は、2トントラックに乗って、三重県内への商品配送を行う傍ら、週末以外に平日にも試合があれば有休を使って、笛を吹く。

 周囲のサポートや薦めもあって、現在は主審として生きていく決意も強まった。目下の目標は、女子1級ライセンスの取得。全国で50人ほどしかいない狭き門だが、主に中高生の主審やなでしこリーグの副審を務めつつ、昨年と今年はインターハイの女子サッカー競技で主審を務めるなどして、チャンスを伺っている。この日も、カテゴリーと共に上がる試合スピードに慣れるため、昨年に続きグロイエンの審判に自ら名乗り挙げたという。

 審判としてのモットーは選手が怪我なく、試合を終えること。「男子の試合で審判をして、私のジャッジがダメな時は握手してくれない選手がいるんです。だから、試合を終わって皆がギュッと握手をしてくれると、ちゃんとできたのかなってホッとするんです」。試合後にそう笑う姿には、まだあどけなさも残るが、試合を裁く姿には頼もしさも感じる。グロイエンで可能性を覗かせた選手と共に、彼女の今後も楽しみだ。

(取材・文 森田将義)
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