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「東京五輪への推薦状」第47回:名門街クラブで殻破りつつある「世界規格」の超大型SB、加藤慎太郎

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三菱養和SCユースの超大型SB加藤慎太郎

 2020年東京五輪まであと3年。東京五輪男子サッカー競技への出場資格を持つ1997年生まれ以降の「東京五輪世代」において、代表未招集の注目選手たちをピックアップ

 武器のない選手は世界で戦えない――。タイプ的には少々異なる部分もあるU-20日本代表の内山篤監督とU-17日本代表の森山佳郎監督、そしてU-18日本代表コーチにして、リオ五輪代表のコーチでもあった秋葉忠宏氏が3人そろって、口にした言葉だ。図抜けた何かを持っている選手が欲しい。代表チームの指導者は、いずれも同じ結論にたどり着くのだ。

 同時にA代表のハリルホジッチ監督からも言われていて、かつてオシム氏からも同様の指摘をされたというのが、世界的な傾向でもあるサイドバック(SB)の大型化だ。もちろん、長友佑都(インテル)が欧州のトップリーグで長く戦えていることが象徴するように、小柄な選手がダメだと単純化して言うべきではない。ただ、相手チームとの駆け引きもある中で、大型SBがA代表監督の選択肢にあることは重要だろう。内山監督は「東京五輪に向けてもそこは重要になってくると思っていた」と積極的に大型SBの発掘を行っていたが、その下の世代でも探していく必要があるだろう。

 その意味で「面白い」選手が東京都の名門街クラブ、三菱養和SCユースにいる。

 存在を強く意識させられたのは今年の春休みに行われたフェスティバル、イギョラ杯だった。西が丘サッカー場で行われた試合で、190cmの偉容を誇る選手が右サイドを疾駆している。ファーストインプレッションは「あれ? こんなに速いんだ」。大きなストライドからグイグイと加速してサイドを駆け抜けていく。それほど器用な印象はないが、目を惹くのは間違いない。ハーフタイムに秋葉コーチが「あれは何者ですか? 面白くないですか?」と聞いてきたのだけれど、その感覚はすごくよく分かった。確かに、面白い。

 秋葉コーチが存在を認識していなかったのも無理はない。加藤慎太郎は昨季までは主軸と言える選手ではなかったからだ。

「1、2年生のときは全然Aチームに絡めてなくて、つらい2年間でした。でも『今年やれなきゃ、本当にダメだ』とも思っていて、(イギョラ杯のころは)レギュラーを奪ってやろうと本当に気持ちが入っていた」(加藤)

 使われなかった理由について、加藤本人は「メンタル的に弱いところがあったと思う」と分析する。その上で新チームに切り替わるタイミングでコーチ陣に「自分の何が弱点なのかを直接言ってもらった」と、自分の弱みをハッキリさせることをスタートラインにした。指摘はいろいろあったと言うが、その一つがヘディングである。190cmの長身を持ちながら、うまくボールに当てることができず、武器になっていなかった。基礎的なヘディング練習にあらためて継続して取り組みつつ、競り合いに対する自分の意識も変えていった。

 体格を買われてCBとして使われることの多かった加藤だが、2年生のときにBチームで本格的にSBへコンバートされていた。「スピードには自信があるし、結構走れるほうだと思う」という個性を買っての転向だが、これは意外なほどにフィットした。まだまだサイドの守備で粘りを欠いてしまう一面はあるものの、春先に比べるとその点でも着実な進歩を見せている。日進月歩の中で、代表スタッフからもあらためて注目される選手になってきた。首位・川崎フロンターレU-18を沈めてみせた9月10日のプリンスリーグ関東第12節では、加藤がニアサイドへ動き出しながらのジャンプヘッドを鮮やかに決めて勝利に大きく貢献。「ずっと地道にやって来た成果が出せた」と喜んだように、「弱点」と言われた要素を徐々に克服しつつある。

 実は三菱養和というクラブ内での加藤への評価は元から低くなかった。三菱養和巣鴨ジュニアユースの生方修司監督は「上のレベルに行けるタレントだと思っていたし、プロを狙える選手だと思っていた」と言う。大型選手は時間がかかることも多いので、加藤自身が殻を破って自分の力で伸びてくるのを待っていたという。高校3年生までかかったのはちょっと誤算だったかもしれないが、まだまだ遅くはあるまい。

 来年からは熱烈なラブコールを送っていた関東の強豪大学で技を磨くことになるが、本人の中でも目指すステージは明確だ。「大学で筋トレもしっかりやって体を作り直しながら、絶対にプロへ行く選手になりたい。年代別代表も自分の知っている選手がたくさん入っていて、もちろん意識しないことはない。最終的にそういうところまで行ければ」と力を込めた。

 まだまだ未完の大器には違いない。「弱点」が消えたわけでもないし、世界で戦うには明確な武器が必要であるのと同時に、明確な「弱点」もあってはいけないのだ。大学の4年間でどこまでその弱みを消して強みを押し出せる選手になれるかどうかということになるわけだが、今年1年の成長速度を思えば、決して可能性のない話ではないだろう。

執筆者紹介:川端暁彦
 サッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』元編集長。2004年の『エル・ゴラッソ』創刊以前から育成年代を中心とした取材活動を行ってきた。現在はフリーランスの編集者兼ライターとして活動し、各種媒体に寄稿。著書『Jの新人』(東邦出版)。

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