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埼玉栄で共に過ごした6年間…直前負傷の主将「頼むぞ」、託された副将「キャプテンのために」

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埼玉栄高の主将DF渡邉宰(3年)と副主将MF福島健太(3年)

[11.4 選手権埼玉県予選準々決勝 昌平高3-0埼玉栄高 駒場]

 6年間を過ごしたチームで迎えた最後の大舞台、キャプテンマークを巻いてピッチに立っていたのは副キャプテンだった。たった4日前までディフェンスリーダーを務めていた頼れる主将は、普通に歩くこともままならない状態でベンチから戦況を見守っていた。

 絶対王者の昌平高戦を4日後に控えた10月31日、埼玉栄高の主将DF渡邉宰(3年)はトレーニング中の接触で左すねを負傷した。初めは「厳しい感じではあったけど、試合には出るつもりだった」。だが、プレーできるコンディションまで回復させることは難しく、「100%の状態ではないので、みんなに試合を託す」という決断をすることになった。

 その時、副主将のMF福島健太(3年)は「これはちょっとヤバいな……という気持ちになった」。2人はチームでも数少ない埼玉栄中からの同級生。共にプレーするようになって6年目の冬、互いにチームを引っ張る重責を担って迎える最後の大舞台だったが、一緒にピッチに立つことができなくなった。

 それでも渡邉は仲間を信じた。「怪我をした時、みんなが『今度は俺らがお前を助ける番だから。信じてくれ』と言ってくれた」。そんな励ましを受けた渡邉は「こいつらならやってくれる」とチームのまとめ役をこれまでどおりに遂行。「正直プレーしたい気持ちはある」と悔やむ気持ちを抑えつつ、昌平戦に臨む選手たちを「頼むぞ」と送り出した。

 試合は前半7分に先制点を奪われるなど、序盤から苦しい展開を強いられた。それでも「球際で強く行くのは意識している」という福島を中心に、「キャプテンのためにも走らないといけない」と運動量を発揮。相手指揮官が「縦に運ばれるシーンで怖さがある」と評した攻撃も見せつけた。しかし、前半終了間際と後半に1点ずつ奪われ、最終的には0-3の敗戦となった。

 ベンチで敗戦を見届けた渡邉は試合後、キャプテンとして過ごした1年間を振り返った。「結果は負けてしまったけど、こいつらを信じた後悔はない。シーズン当初と比べて、プレーも人間性も大きく変わってくれた」。試合後のミーティングでは「ありがとう」と声を掛け、王者相手に果敢に挑んだ仲間たちをねぎらったという。

 一方の福島は「本当に申し訳ない気持ちで……」と気丈に振る舞う相棒の姿に、無念な気持ちがあふれ出た。これが6年間で最後の大会。「中学校の頃は最後の大会が終わっても、まだ高校があると思っていた。でも、これでサッカーを一緒にできることはなくなっちゃうので悲しいです」と寂しさばかりが口をついて出た。

 それでも取材の最後に、2人にとってのひそかな目標が垣間見えた。というのも、2人は共に関東の大学に進学を志望しており、順調に合格することができれば、お互いに対戦する可能性があるというのだ。「(CBとボランチでは)マッチアップはしないと思うんですけど、試合の流れで戦うこともあると思う。そうなれば楽しみですね」。その言葉を口にした時、福島の表情がようやくやわらいだように見えた。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2017

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