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「つなげなかった」久御山、松本監督が定年迎える来季はより“久御山らしく”:京都

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久御山高の松本悟監督は「もっともっと久御山らしさを出して、来年ここに戻ってきます」

[11.18 選手権京都府予選決勝 京都橘高 1-0 久御山高 西京極陸上]

「今年の久御山はちょっと違う」。それに気が付いたとき、脳裏にはOBであるFW山﨑雅人(現金沢)の言葉が浮かんできた。「俺らの時代にはサイドチェンジなんて考え自体がなかった。ショートパスとドリブル、それが久御山のスタイルやから」。

 2010年度の全国高校選手権で準優勝、もしくは2015年の全国高校総体でベスト16という成績を残した際、久御山高はその独特かつ魅力的なスタイルも含めて注目を集める存在だった。土のグラウンドで徹底して技術と駆け引きを磨き上げるチームは、全国の強豪を前にしても個人技とコンビネーションを融合させてジャイアントキリングを何度も実現させていった。

 そんなチームが、今年はロングパスを取り入れた。「準優勝で立ち止まってたらあかん。俺も成長していかんとな」と話す松本悟監督は、選手たちの特徴を考えた末にサイドチェンジや前線への大きな展開を容認した。

 今年の3年生たちは中学時代につなぐサッカーをしていない選手が多い。主将の中村禄郎(3年)も「前線に能力の高い選手がいたので、ロングフィードを蹴りこむ攻撃が多かった」と振り返っている。もちろん久御山に来たからには伝統のスタイルを継承すべく、日々のトレーニングに励んできた。

 だが、過去のチームと比べて、どこか物足りなさも感じていたのかもしれない。スペースを突く速さを持つFW明神大志(3年)や競り合いに強い大型FW木村開成(3年)らへロングボールを送り込んで相手のラインを押し下げることで、目指すべきスタイルを発揮しやすくするという試合もあった。いい意味で「今年の久御山はちょっと違う」という戦いを演じてきた2017年だった。

 高校総体予選では京都橘に1-2の僅差で敗れたが、その大会で優勝チームをもっとも苦しめたのは彼らだった。京都橘の選手も「久御山ペースだった序盤に失点していたら、わからなかった」と認めている。そして今大会、決勝という大舞台で再び対戦したが、結果は0-1。リベンジは果たせなかった。

 試合後、松本監督は前半の戦い方を敗因にあげた。「相手を怖がって長いボールを蹴ってしまった。もう少しパスをつなげれば攻める場面が作れて、ギャンブルのような形ではなく久御山らしく得点を奪えたんじゃないか」。後半に先制点を奪われてからは準決勝の京都学園戦で逆転ゴールにつながった4トップ気味の攻撃的布陣に切り替えたが、それも「今更つなぐのは難しいので、ドリブルで運べる選手を入れた」(松本監督)という狙いで、最後まで相手を切り崩す連動性を発揮できずに試合終了を迎えている。今年のチームの特徴が、決勝という大舞台で悪い方向に出てしまったのだ。

「この子達の良さは勝気なところ。そこで(重圧のかかる大舞台で)落ち着かせることができなかった。“つなぐか、蹴るか。半々の状況でどちらを選択する?”となった時に、蹴ってしまう。試合中に反省させられました。そうさせてしまった選手に申し訳ないし、小中学生の見本になるサッカーをしたかった」と話している。1年生からレギュラーとして活躍してきたMF小森優輝(3年)も「チームとしてつなぐことができなかったのは後悔している」と振り返った。ただし、今年1年の取り組みに後悔はない。「選手の長所を伸ばそうとやってきたし、足元も成長できた」(松本監督)と胸を張る。

 37歳で松本監督が赴任した当初、久御山という名前はサッカー界でほとんど知られていなかった。ある大会で関東へ行った際、渡されたネームプレートに『久御山/ひさごやま』と書かれていたこともあったという。「その時は(国士舘大学で後輩の)山本昌邦が怒ってくれたけど・・・(笑)」と懐かしそうに振り返る時代から、現在は多くのサッカーファンに知れ渡る存在となった。Jリーガーも輩出しており、現在はベルギーで活躍する日本代表MF森岡亮太は自身のツイッターアカウントに今でも久御山高のキャッチフレーズである『キミは君らしく』の言葉を記している。

 松本監督は指導を受けた選手はもちろん、高校を中退した生徒からも街で10数年ぶりに会った際に「悟先生、一度飲みに行きましょうよ!」と誘われるような、愛される存在だ。そんな京都の高校サッカーを牽引してきた男も現在58歳。2018年度で定年となり、監督の座は若い世代に託すつもりだ。今でもオフにスペインへ自費で渡って様々な知識を学ぼうとするなど向上心は衰えていないが、「若い指導者が出てきた。楽しみですよね。彼らが指導する機会を奪いたくない」という思いを持つ。

 残されたのは、あと1年。「今大会で決勝まで試合ができて、2年生と1年生もすごく勉強になったはず。この悔しさを受け継いで、もっともっと久御山らしさを出して、来年ここに戻ってきます」(松本監督)とラストイヤーを見据えている。チームを去る小森も「1・2年生は久御山らしさを出せる上手さがある。俺たちができなかった京都一を達成して、全国でも暴れて欲しい」と後輩たちへエールを送った。

(取材・文 雨堤俊祐)
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