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“Play fire, Play ice”。「月まで走れ!」の関西大一は倉田、井手口のアドバイスを胸により熱く、より冷静に戦う

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関西大一高のトレーニングに日本代表MF井手口陽介も参加

「月まで走れ!」。09年度の全国高校サッカー選手権大会で3回目の全国大会出場だった関西大一高(大阪)は鹿島高(茨城)、八千代高(千葉)、藤枝明誠高(静岡)を破って当時国立競技場で開催されていた準決勝まで進出。準決勝で青森山田高(青森)にPK戦の末に敗れたものの、試合終了間際の2連続ゴールで同点に追いついて見せた関西大一は、横断幕に記された「月まで走れ!」のモットーとともに、観客の記憶に残るようなサッカーを展開した。

 関西大一は翌10年度も全国8強進出。その後、激戦区・大阪の選手権予選を突破することはできていないものの、文武両道の進学校は15年、16年のプリンスリーグ関西でいずれも5位に入るなど関西地域の戦いで存在感を示し続けている。

 今年の選手権予選は準々決勝で敗退。大学受験を控える3年生が引退したことでチームはすでに1、2年生へと代替わりしている(11月時点)。それでも、新主将のMF前田篤志(2年)や司令塔のMF芝元今日平(2年)、1年生の強力FW百田真登、馬力ある突破が武器のMF大平武人(2年)、GK乾巧人(2年)、SB三宅克弥(2年)、MF堤奏一郎(1年)ら力のある選手を中心に新チームも期待大。11月22日には、プリンスリーグ終盤戦で上級生相手に戦う関西大一の1、2年生のAチームメンバー25人が、『NIKE ACADEMY TOKYO supported by JYD』のトレーニングセッションを受講した。

『NIKE ACADEMY TOKYO supported by JYD』は昨年スタートした「継続的な日本サッカーの発展のために、さらなる普及や次世代選手の育成を促進することを目的としたプロジェクト、『JFA Youth & Development Programme(JYD)』」事業の一環。天候はあいにくの雨となったが、イングランドサッカー協会(FA)の国立フットボールセンターを拠点に活動中の『NIKE ACADEMY』の日本版、『NIKE ACADEMY TOKYO』による“世界基準”のトレーニングを選手たちは体感した。

 この日のトレーニングテーマは“Play fire, Play ice”。オープニングセレモニーで『NIKE ACADEMY TOKYO』の小島直人ヘッドコーチは選手たちに向けて「熱い気持ちと冷静さ、賢さを追求していくところの練習を考えている。熱いだけでも、冷静なだけでもダメ。両方を意識して欲しい」というメッセージを送り、約2時間のトレーニングを実施した。

 選手たちは2対2や6対6の練習などに臨み、スペースの使い方やボールを受ける際の身体の向き、相手の逆を取ったり、DFのチャレンジするタイミングなどを学んでいたが、自然とテンションは高まっていた。それもそのはずで、この日はいずれも日本代表のMF倉田秋(G大阪)とMF井手口陽介(G大阪)が特別コーチとしてトレーニングの一部を指導。選手たちは現役日本代表2選手から直接声もかけられながら、熱心にトレーニングを行っていた。

 2対2のトレーニングで井手口と対峙する機会を得たFW百田は「ボールに行く圧、プレッシャーは違うなと感じましたし、これを全員が意識してやれたら、攻撃も守備も強くなると思いました」と振り返る。また、G大阪ジュニアユース出身のMF芝元は「井手口クンは自分がジュニアユースの頃、ユースにいました。入れ替わりで練習をやっていて見学とかさせて頂いていたんですけれども、その頃からフィジカルがとても強かった。きょうも僕ら相手でも本気に近いくらいにやって頂いて、身体の重要性などを感じました」とトッププレーヤーの凄さを体感していた。

 そして、MF前田主将は倉田から掛けられた言葉が印象的だったと口にする。「『1対1でボールを受ける時にパターン化している』、と。『もっと想像してアイディア出して行ったらいいよ』というところは、(きょう)僕もみんなと同じことをやってあんまり上手くできていなかった」と反省。そして『NIKE ACADEMY』のトレーニングを受講した感想として「なるほどな、と気付かされることが多くて、今まで自分がやってきたことと、自分の上手く行っていない時のプレーに繋がる部分もあった。毎日の練習の積み重ねが一番大切。きょう教えてもらったことをすぐ忘れるとかじゃなくて、それをずっと全員が落とし込んで選手権へ向けて1年間頑張っていきたい」とコメントしていた。

 心は熱く、頭はクールに。これは日本代表選手たちも実践していることだ。「何人かはいい感性を持っていると思いました」と関西大一の印象を語った倉田は、「ちょっとした頭のクールさを出せればもっと良くなるかなと。(1対1や2対2で)プロだったらあんな簡単には前を向けない。サイドに張っているだけでなく、逆に行って見ようとか自分でもっと考えてできればいい。(みんな同じような動きをしていたので)頭を冷静にして違うアイディアを出せるようになればもっと良くなるかなと思います」とアドバイスを送っていた。

 一方、井手口が指摘したのは、トレーニングではもっと熱く、激しくプレーするということだ。「練習の時は熱く、でいいと思うんですよね」と語った井手口は選手たちに向けて、「練習から自分の力を出し切る。100%の力で守備の選手が来たら、攻撃の選手も上手くなると思うし、攻撃の選手がガンガン仕掛けて来たら自然に守備の選手も上手くなると思う。毎日競争すれば、みんな上手くなると思うので、毎日気を抜かずにみんな一生懸命やってもらえればと思います」と日常から熱く、ピッチで100%出し切ることを求めていた。

 トレーニングを終えて関西大一の高坂雄一郎顧問は「実際に日本のトップの選手に入って頂いて、立っているだけで雰囲気ありますし、ボール受ける様子とか見て選手たちは感じるものもあったみたいです。貴重な時間を頂けたと思います」と語り、悪い意味で謙虚過ぎるという選手たちがこの日のトレーニングをきっかけに変わることを期待した。「(大阪の戦い、またプリンスリーグ関西は)格上の相手ばかりなんですけれど、その中で自分たちはもっとやれるんだ、こういう強豪チームを倒してもっと先へ行くんだとなってもらいたい。(倉田、井手口に指摘されたように)熱い気持ちだったり、そのために何が足りていないということを考える上で冷静な頭も必要」。

 “Play fire, Play ice”。関西大一の「月まで走れ!」のモットーはどこにも負けない熱い心を持っているからこそ実現できるものだ。前田は「気持ちとか、そういう技術とかではない面、走りとかで他のチームに負けないように。技術だけじゃなくてそういうところで勝っていきたい」。来年へ向けて走り始めた関西大一は26日のプリンスリーグ関西でインターハイ8強の京都橘高(京都)を3-1で撃破した。現役日本代表選手から直接掛けられた言葉を胸に、今後も日々成長を遂げること。そして、試合ではより熱く、より冷静に戦い、目標達成に繋げる。

(取材・文 吉田太郎)

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