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「それが『加藤拓己という人間』なので」 初戦敗退後、山梨学院エースが見せた美学と決意

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世代屈指のストライカーFW加藤拓己を擁したが、1回戦敗退に終わった山梨学院高

[12.31 全国高校選手権1回戦 山梨学院高1-2米子北高 ニッパツ]

 うつむく者、立ち尽くす者、地面に膝を付く者、倒れ込んで天を見上げる者――。悲劇の逆転負けを喫した山梨学院高(山梨)の選手たちが多種多様な仕草を見せるなか、世代屈指のエースFW加藤拓己(3年)はただ一人、足早にセンターサークルへと向かって整列していた。表情に険しさこそあれど、大げさな悲しみは見られない。ただそこには、「加藤拓己という人間」としての美学があった。

 負傷で出場できなかった昨年度を経て、初めて臨んだ全国選手権の舞台。U-18日本代表という肩書き、世代屈指のストライカーという名声、そうして向けられてきた世間の注目を裏切らない働きは見せつけた。米子北高との1回戦に臨んだ加藤は前半23分、左サイドからのFKを頭で合わせ、今大会初ゴールを記録。さらに味方から寄せられるロングボールをことごとくキープし、最前線で攻撃の起点を作り続けた。

 敗戦後、そんなエースの奮闘について安部一雄監督は「今年のチームは『加藤が何とかしてくれる』と頼りすぎてしまった。もっと引き出しがあれば……」と悔しそうに話した。しかしその一方で、加藤は自らに敗因を求めた。「自分たちが決め切れていれば勝てたので、攻撃陣の責任。とくに自分に責任があります」。過度に理解を求めない淡々とした口調からは、嘘のない想いが表れていた。

 そんな主将の責任感の強さは、ピッチ上での振る舞いにも見て取れた。最後の最後に見せた冒頭の場面は、その最たるもの。その理由を尋ねると「ほとんどのキャプテンはチームメートを立たせに行くし、それがよくあることだと思うんですが、自分は率先してやって見せるほうだった。だから真っ先に整列をした」と説明してくれた。

 もちろん、悔しさがなかったわけではない。「いまも悔しさを押し殺して泣かないようにしています。それが強さなのか分からないですけど、それが『加藤拓己という人間』なので。自分はそれを演じているだけなのかもしれないですが、チームを引っ張っていくうえで、自分は一番先にやろうと思ってきた」。そんなリーダーとしての美学が、彼を突き動かしていたという。

 とはいえ、取材対応中、その声が湿り気を帯びてくる場面も二度ほどあった。一つは「全校応援」を繰り広げてたスタンドに話が及んだ時。夏に前十字靭帯を負傷し、応援団長を務めた藤井威司紀(3年)について述べ、「アイツとはいつも一緒にいた。チームを別の形で引っ張ってくれて、その思いに応えられなかったのが一番情けない」と素直な感情があふれ出た。

 もう一度は、「人生の中で一番の分岐点」となった3年間を経て、早稲田大での次のステージに話が及んだ時。「あと4年間、しっかり大学で人間としても磨き上げて、プロへの道を切り開けるように努力して、もっともっと良い選手になって、Jリーガーに、W杯の舞台に……とやっていきたい」。強い言葉の裏には、悔しさを必死で乗り越えようとする気持ちが垣間見えた。

 悔しいからこそ、前に進まなければならない。「高校みたいに取り上げられることもなくなって、名前も売れなくなって、静かに成長していくんだと思いますけど……」とネガティブな展望を口にしたのは、4年間で自らを追い込むという覚悟の表れか。「いつかJリーグに内定したという時に、『あの時の加藤か、あの時よりパワーアップしているな』という選手になって帰ってきたいです」と今後の決意を見せ、高校サッカー生活に区切りをつけた。

(写真協力『高校サッカー年鑑』)

(取材・文 竹内達也)

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