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[新人戦]新生・前橋育英の初陣は苦戦も前向き。“努力の世代”は「自分たちは最初からできない方が良い」

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前橋育英高は後半に4得点。交代出場のFW森隼平は15分に右足シュートを決めるなど2ゴールを奪った

[1.14 群馬県高校新人大会2回戦 前橋育英高 5-1 太田高 前橋育英高高崎G]

 新生・前橋育英が、公式戦初勝利――。第96回全国高校サッカー選手権で初優勝した前橋育英高の新チーム(1、2年生チーム)が14日、平成29年度群馬県高校サッカー新人大会2回戦で太田高と対戦。新チーム初陣となる一戦を5-1で制し、吉井高と戦う3回戦(1月20日)へ進出した。

 全国高校選手権決勝(8日、埼玉)での歓喜からわずか6日で迎えた新チーム初戦。新人戦用のメンバーで練習したのは、前日13日の1日だけだったという前橋育英にとって、前半を1-1で折り返すなど苦戦した試合は“気づき”の多い80分間だったようだ。この日は前橋育英の入学試験が実施されたために、学校長を務める山田耕介監督は不在。指揮を執った櫻井勉コーチは試合後、Aチームの選手としてピッチに立つ決意が足りていないことなどを指摘していた。

 初陣のメンバーは、選手権決勝で劇的決勝点のFW榎本樹(2年)がコンディション面を考慮されて欠場したが、選手権準々決勝、準決勝で好プレーを見せたMF秋山裕紀(2年)や、全国のピッチを経験しているDF若月輝(2年) 、FW高橋尚紀(2年)、FW室井彗佑(2年)らが先発。GKは山口瞬(2年)で右SB若月、CB府川宙史(2年)、CB岡本悠作(2年)、左SB森賢太郎(2年)。中盤は秋山と鏑木瑞生(2年)のダブルボランチで右SH高橋優斗(2年)、左SH小栗秀哉(2年)。2トップは高橋尚と室井がコンビを組み、キャプテンマークは選手たちの判断によって若月が巻いた。

 前橋育英は前半2分にスルーパスで抜け出した小栗がGKとの1対1を迎えたが、これを太田GK高橋龍太朗(2年)にストップされると、その後もボールを支配して長短のパスで相手を押し込みながら得点することができない。

 太田はプレッシングが速く、球際でもファイト。特に自陣ゴール前で良く身体を張り、自由にシュートを打たせない。逆に19分にはMF荻野雅也(2年)のインターセプトから10番FW花本大地(2年)がクロスへ持ち込むなど、荻野とMF今井亮裕(2年)のダブルボランチを起点とした速攻から攻め返して見せる。

 前橋育英も秋山の展開からSB森が決定的なラストパスを通したり、存在感放つ高橋尚のチャンスメークなどからゴールに近づいたが、太田は粘り強い戦い。それでも35分、前橋育英は府川のロングフィードから小栗が好トラップして抜け出す。そして、GKとの1対1から右足で先制点を流し込んだ。

 だが、その直後、ビルドアップのところでミスが出てしまい、太田FW花本に同点ゴールを許してしまう。1-1で迎えたハーフタイム、前橋育英の櫻井コーチが選手たちに伝えたのは気持ちの部分のみ。「自分たちの出番が来たんだから、あとは自信を持ってやればいい」「もっと怖れず、元気を持ってやってくれ」。先輩たちではなく、自分たちの代でのゲーム。これはプレッシャーのためか、自信を持って戦うことのできていなかった選手たちに自覚を促すメッセージだった。

 前半に力を出しきれなかった選手たちを交代させる厳しさもあった。後半開始からCB吉田和暉(2年)、MF須田晃輝(2年)、FW森隼平(2年)が同時投入され、前橋育英は変化する。落ち着いて相手を見ながら攻撃するシーンが増え、攻撃の迫力、攻撃から守備への切り替えのスピード、崩しのコンビネーションも高まった。すると、立ち上がりの15分間で3ゴールを奪う。

 7分、左サイドを秋山、森賢、高橋尚のコンビネーションで打開すると、高橋尚の左足クロスをファーサイドの高橋優が頭で合わせて勝ち越し。10分には森賢の縦パスでDFの背後を取った高橋尚が右足シュートを決めて2点差とする。さらに15分にもDFのクリアミスを突いた森隼が独走し、右足でゴール。太田FW二見友晴(1年)にPAへ抜け出されるなど課題もあったが、CB府川が高さを発揮するなど後半を無失点に封じた前橋育英は22分にも小栗の右足シュートのこぼれを森隼が決めて5-1で勝った。

 気迫を欠いたり、“普通”の試合をしてしまえばどこが相手でも苦戦してしまう。先輩たちと、自分たちは違うことを改めて実感した。不満の残る、悔しい内容に終わった前橋育英だが、この初陣を選手たちは前向きに捉えている。若月は「(主力の多くを残していた)去年の先輩たちは最初から出来すぎていた。(もちろん、)それもいいとは思うんですけれども、自分たちは最初からできない方が、みんなが地道に努力して頑張れると思う。努力を怠ったりしたらどんどん落ちていくと思う。去年のチームとは全然違うとみんな分かっていると思う」

 櫻井コーチも「この学年は頑張れるチームなので、(下から)上がって行った方が良い」とコメント。1年時のRookie Leagueでは1学年上の先輩たちが優勝を逃したのに対し、彼らは優勝しており、この日出番の無かった選手にも個性のある選手たちがまだまだいる。ポテンシャルは今年も高いだけに“下から”積み上げて行くだけ。山田監督はすでに選手たちが慢心することがないように引き締めたようだが、選手たちは現状の自分たちの力を理解した上で、先輩たち以上の努力をしていく意気込みだ。

 可能性がある以上、目標は先輩たちを超えることだ。秋山は「去年の先輩たちが決勝で勝つ姿をみんな見ていたので自分たちも負けないように、常日頃努力して行けたらいいと思っています」と語り、高橋尚は「先輩たちは先輩たちなので、自分たちの世代の前橋育英を作っていくしか無いと思っています。(努力を欠かさなければ先輩たちを) 必ず越えられると思います」。選手権2連覇、そして先輩たちが達成できなかったインターハイ優勝とプレミアリーグ昇格も目標。“最強世代”超えを目指して、前橋育英は努力を続ける。

(取材・文 吉田太郎)

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