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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:二回り目の“千両役者”(FC琉球・播戸竜二)

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FC琉球FW播戸竜二は北九州戦で2年8か月ぶりとなるゴール

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「こうやって試合に出れて、サッカーをやれるというのは本当に幸せやし、改めて38歳で『また青春してる』って感じやな。20年やって、また二回り目みたいな感じやし、『還暦迎えて、もう1回』みたいなね」。プロの門を叩いたのは18歳。それから20シーズンに渡って、歩みを止めることなく走り続けてきたストライカーは、そう言ってニカッと白い歯を見せた。その笑顔、まさに千両役者。播戸竜二は今、沖縄の地で“二回り目”のキャリアを謳歌し始めている。

 J1通算325試合87得点。J2通算52試合20得点。Jリーグの舞台で107ものゴールをこじ開けてきた播戸が、プロ21年目となるシーズンを迎えたのはJ3のFC琉球。ただ、カテゴリーのことを問われても、明確な答えが返ってくる。「『J3やからどう』とか、『J2やから』『J1やから』とかはあまり関係ないかな。それはJ1でやれたら一番いいけど、もうこの年齢やし、こうやってカテゴリーが落ちてくることはしょうがないことで。でも、そこならそこでやれることがあるし、チームと成長しながらやるということには変わりないから、目の前に試合があって、優勝という目標があって、それに向かってただひたすら頑張るみたいな、ホンマシンプルにそれだけ」。J3優勝。この唯一の目標達成に向かう、播戸の2018年が幕を開ける。

 ホーム開催となった開幕戦は後半41分からの途中出場。琉球サポーターへのお披露目を済ますと、アウェイのミクスタに乗り込んだ第2節のギラヴァンツ北九州戦は、残り30分でピッチへ登場する。その役者ぶりを見せ付けたのは後半29分。西岡大志が右から上げたクロス。播戸の体が宙を舞った。「ちょっと速くて、マイナス気味のボールやったけど、じゃあ、どの角度で、どの体勢で、どこに当てて、どこに流し込むというのは、もうだいたい体が覚えてるから」というヘディングは、左スミのゴールネットへ美しく吸い込まれる。一目散にベンチ方向へ走り出す11番と、彼を中心にできた喜びの輪。「やっぱり久しぶりのゴールで、勝ち越しのゴールやったし、みんな喜んでくれたから、なんか嬉しかったね」と振り返る一撃は、リーグ戦に限って言えば実に2年8か月ぶりとなるゴール。これが決勝点となり、琉球は開幕連勝を飾ることに成功する。

 試合後のこと。ミックスゾーンへ最後の最後に出てくるあたりにも、“主役感”が滲み出る。「この間、ジャンボ(大久保哲哉)が群馬で点取っていて、J3最年長ゴールみたいな感じやったから、『アレ、これオレが決めたら(最年長に)なるんちゃう?』と思って。どうなんかな?なるかな?」と記者陣に逆質問。「なるんじゃないですか」という回答を受け、「じゃあ最年長記録や(笑)」とご満悦。小気味いい語り口はどこにいても変わらない。

 この日の北九州では、いわゆる“黄金世代”に当たる本山雅志もスタメン出場。相手の決勝ゴールにも「クオリティ高かったですよね」と素直な感想を口にした同級生のプレーを見て、播戸も想う所が少なくなかったようだ。「モトが出ているのを見て『やっぱモトっぽいな』と思うこともあれば、『ああ、ちょっと衰えたな』と思うこともあれば、それはもうみんなやから。試合前も『おい、モト無理すんなよ!』という話をしたら、『いや、無理していこうよ!あともう長くないからさ』とか言ってたから(笑)、ああいうのも『なんか凄くいいな』って思って。まあ長くないのは確かやけど、こうやってその中でもやれることはあるから、それをやっぱり見せていかなあかんし、下に繋いでいかなあかんと思うし、そういう仕事もあるかなと思いますね」。同級生にもらった新たな刺激と最年長記録、そして勝ち点3を携えて、播戸はミクスタを後にした。

 それから4日後。“最年長記録”は自らによって早くも塗り替えられる。第3節はホームのガイナーレ鳥取戦。後半27分からピッチに登場した播戸は、その8分後にスタンドへ歓喜の渦を巻き起こす。今度は左から徳元悠平が上げたクロス。「『来い来い』というよりは『お、来た!』みたいな感じやったから、とっさにバッと反応して、しっかり当てて、という感じで」合わせたヘディングは、そのままゴールネットへ飛び込んだ。北九州戦同様の勝ち越し弾。それでも、チームは後半アディショナルタイムに失点を許し、勝ち点2を失う格好に。タイムアップの直後。「最後の最後で決められて悔しさしかなかった」播戸の厳しい表情が強く印象に残った。

 9日間に詰め込まれた3連戦の3試合目。第4節のザスパクサツ群馬戦はアウェイゲーム。この日も播戸はベンチからのスタートとなる。前半9分に富所悠の直接FKで先制した琉球だったが、ゲームリズムは群馬に握られる時間が続く。リードして折り返したハーフタイム。来たるべき出番に備え、ボールを蹴る琉球の選手が散らばったグラウンドの中に、38歳の姿はなかった。

「一応“中”で体を動かしながら、最後に選手が出る前にはロッカーにいて、オレが前半思ったことと、後半に向けて思うことをみんなに伝えてた。もしそれで言ったとしても、『いや、そういうのは言わんといてくれ』とか『それは自分たちの仕事やから』というのはこのチームに全然ないから。スタッフもいろいろな意味で受け入れてくれている所があるから、オレとしても言いやすいし、話もしやすいし、みんなも素直やからそれで聞いてくれるしね」。すべては勝利のために。チームを取り巻く雰囲気の一端が、この話からも窺える。

 後半23分。播戸がベンチに呼ばれる。「今日も1-0で出る時に、『もう1点行くんだ』という所で送り出すとそういうサッカーを、2-0になると、今度は2-0のサッカーを理解して、だいたいベンチで思っていることを彼が具現化して、チームをコントロールしてくれる」と厚い信頼を口にしたのは琉球を率いる金鍾成監督。「常に監督とは会話もしているし、オレも思うことは結構伝えているし、監督もそれに対してリスペクトしてくれるからね。この年齢になって、良い信頼関係を築けている監督とやれるのは幸せやし、『さらにチームの力になりたいな』とか『この監督の力になりたいな』と思うから、サイクル的には凄く良いサイクル」と指揮官との関係に手応えと感謝を感じている播戸が、おなじみのランニングフォームで緑の芝生へ走り出す。

 後半34分。琉球のチャンス。富所がエリア内へスルーパスを繰り出すと、鋭く反応したのは11番。「『届くかな?追い付くかな?』と思ったら、案外オレが速かったんか、相手が遅かったんかわからへんけど、オレが先に触れて、後ろの声も聞こえたから、ちょっとコケながら」懸命に落としたボールを、枝本雄一郎がゴールネットへ流し込む。「ゴールももちろん嬉しいけど、監督もああやって20分、30分と時間を与えてくれる中で、個人としてもどういうふうにチームを持って行ったらいいか、というのを考えながらやっているし、そういうのんも含めてアシストがああやってできたのは凄く良かったし、それでまた勝てたのは良かったかなと思う」と話す播戸のアシストで追加点を手にした琉球は、そのまま2-0で白星を奪取。第4節終了時ではあるものの、首位へと浮上することになった。

 勝利に沸くアウェイゴール裏で、“カチャーシー”を踊りながらサポーターと喜びを共有する播戸。思い起こせばミクスタの試合後。ヒーローインタビューを終え、1人で向かったアウェイゴール裏でも、自身の代名詞とも言うべき『1、2、3、バーン!』を何度も繰り返し、“カチャーシー”を舞う播戸の姿があった。その姿、まさに千両役者。「もちろん自分が楽しいからやっているのもあるけど」と前置きしながら、「やっぱり選手は行った所、行った所で愛されなあかんから。それでサポーターも選手もお互いを高めていってというのが一番やから」と続けた言葉に、20年近い現役生活で培われたプロ意識が垣間見える。

 もう1つ。この日の試合後で印象深い光景があった。誰もいなくなったピッチ上。カクテル光線に照らされながら、たった1人でひたすらクールダウンを繰り返す。一歩、一歩。自らの体と対話するかのように、一歩、一歩。そのことについて尋ねられた播戸は、「浸ってたね。『今日も良い仕事したな』みたいな(笑)」とおどけながら、その一連に籠められた自らの想いも明かしてくれた。

「昔、エスパニョールに(中村)俊輔がいた時に、スタジアムに試合を見に行ったのよね。結局俊輔は出れへんかったんやけど、試合が終わってからずっと1人で走ってたのよ。やっぱああいうのを見て、『凄いなあ』って思ったね。ああいう所が、今でも彼が現役でやれてる理由やと思うし。だから、オレはもちろん自分のことを考えてああいうふうにケアはするけど、もしアレをどこかで見てる選手やったり、この試合のボランティアをしている高校生だったりが見て、何か感じてくれたら、それは1つオレが下に繋ぐことかもしれへんし、そういうのも選手としては大事なことかなと思う」。

 その言葉を聞いて、ふと藤吉信次を思い出した。ヴェルディ黄金期のムードメーカー。とにかく明るいキャラクターが印象的な選手だったが、指導者になった数年前に当時のことを伺うと、こう話してくれた。「僕はサッカーに対しては凄くマジメなんです。だから、外からどう見られても構わなかったんですよ。チームメイトはみんなわかってくれていたので」。播戸もあるいはパブリックイメージとして、藤吉に連なるキャラクターの系譜上にいるのかもしれない。ただ、きっと周囲の人間は、彼の努力もマジメさも十分にわかっているはずだ。だからこそ20年以上も第一線で、プロサッカー選手として生き抜いてきたのだ。本人はきっと、それを肯定することを恥ずかしがるのだろうけれど。

 38歳。プロ21シーズン目。それでも、前へ前へと走り続けることを止める気持ちは、さらさらない。「18歳でプロの世界に入って、20年やって、最初から試合に出ること、ゴールを決めること、J1でやること、いろいろな大会で優勝すること、代表に入ること、ある程度やってきて、それでまた試合に出れへんようになって、ベンチも入れへんようになって、また新しく“もう1回転”みたいな感じやから、本当に心若くやれてる。カテゴリーとかホンマ関係なく。また試合に出るためにとか、監督に信頼してもらうためにとか、チームメイトから信頼されるように頑張る、みたいな。ホンマ純粋な気持ちでサッカーやれてるから、凄い幸せやね」。

 ふざけているようで、マジメ。柔軟なようで、頑固。ベテランでいて、永遠の若手。一言では表現し尽くせない稀有なキャラクター。千両役者を地で行く播戸竜二の“二回り目”には、果たして何が待っているのか。果たして何を成し遂げてくれるのか。我々もそれが今から楽しみでならない。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」


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