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「W杯ってスゲーな」から16年…初の“大舞台”目指すMF宇佐美貴史「とにかく出たい」

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日本代表MF宇佐美貴史

 今季、アウクスブルクから期限付き移籍でデュッセルドルフに加入したMF宇佐美貴史。出場機会が限られた時期もあったが、シーズン終盤には4試合連続ゴールを記録するなど、28試合8得点の記録を残してチームの1部昇格、2部優勝に大きく貢献した。好調をキープしたままロシアW杯前、国内最終戦となるガーナ戦に臨む日本代表に選出されたアタッカーに胸の内を聞いた。

アウクスブルクに残っていても
W杯への可能性は広げられないと思った


――5月30日に行われるガーナ戦に挑む日本代表メンバーに選出されました。
「身の引き締まる思いです。今まで以上に、さらにここからだなと思っています。所属クラブでの勢いをそのまま代表に持ち込みたいですね。充実したシーズンを過ごせた自信やエネルギーを、代表チームにそのままぶつけることができればと思っています」

――今季はアウクスブルクからブンデス2部のデュッセルドルフに期限付き移籍しましたが、カテゴリーを移すことに葛藤はありませんでしたか?
「ちょっとだけありましたね。多少はやっぱり。サッカー選手は皆、カテゴリーを落とすときはどんなときでも、少しは葛藤があると思います。ただ当時は、自分の中に芽生える葛藤を優先できるような状況ではなかったし、アウクスブルクに残っていてもW杯への可能性は広げられないと思ったので、そんな葛藤はすぐに捨てられて、あっという間に移籍は決断できました」

――初めてのブンデス2部の舞台で、今までとは違う成長を感じることもあったと思います。
「アウクスブルクで1年間やってきたサッカーは本当に守備的で、どちらかと言うと、攻撃的なプレーや自分自身のストロングポイントを押し出していけるサッカーではなかった。守備に走らされ、そこから前に出て行き、前に出て行ったらまた戻っての繰り返しで、ボールなしでシャトルランをしているような状況でした。でも、ブンデス2部でも守備はしっかりやらないといけないのは当然で、そのときに守備で足を引っ張らないだけの基盤ができていたことに気付かされました」

――アウクスブルクで自然と身についていたものが、今季発揮されたということですね。
「具体的な話でいうと、相手のSBが上がってきてもウチのSBに受け渡さない。日本だと受け渡すことが多いから、サイドハーフのポジションはほとんど変わらないけど、SBは絶対に上がってくるし、ウチのSBは相手のサイドハーフを見ないといけないので、絶対に僕がついていかないといけない。相手のパスの出し手の顔が上がったときに、自然とパッと首を振って周囲を確認するとか、裏に蹴られて一発で持っていかれないようにするとか、ドイツでの守備の仕方が自然とできるようになっていた。そこで違いを作られないことができると試合にも使われ出すし、それができてこその攻撃になる。攻撃ができての守備ではなく、まずは守備があっての攻撃という考え方をウチの監督は持っていたので、そこで穴を作らずにやれるようになっていたのは一つ成長したポイントだと思います」

――開幕直後に途中出場が多かったのは、守備面で監督の信頼を得られていなかった?
「いや、そこはシンプルにコンディションですね。コンディションも自分自身が悪い状態であることは、コンディションが良い状態にならないと分からないものなんだと改めて認識した。最初のハーフシーズンもコンディションは悪くないと思っていたし、良い状態だと思っていたけど、そこからなかなか練習や試合のパフォーマンスが上がらなかった。何か流れを変えないといけないと考え方を少し変えたところもあり、それが良い方向に働いてコンディションが良くなったときに、最初のハーフシーズンは全然コンディションが良くなかったんだなと感じられた。だから、コンディションを上げていけば、もしかしたら今の状態も良くなかったと感じられるかもしれない。そう考えると、コンディションをどう調整すべきかは本当に重要なことだと思います」

――シーズン途中にヘルタ・ベルリンから原口元気選手が加入しましたが、チームへの影響をどう感じましたか。
「両翼が武器になったと思う。僕自身もチームの中で武器という立ち位置でやらせてもらえていたけど、逆サイドでボールを収めてくれたり、個で打開できる選手がいると、右サイドもだいぶ楽になる。どちらかのサイドでしっかり収めることを両サイドができたことは、チームの強みに間違いなくなった。そこで、もし元気くんがいなかったらと考えると、あそこまでチームに機動力が生まれなかったし、チームが機能する感覚ではなかったと思います」

――今年に入ってからはゴールという結果も残し、最終的に8ゴールをマークします。
「サイドでプレーをしていて、最終的に8ゴールというのは得点数としては悪くないと思うけど、決定機を決めていれば二けたは100パーセントいっていたと思う。まあ、たらればを言っても仕方ないんですけどね」

――デュッセルドルフへは期限付きでの加入していますが、来季はどこのチームでプレーしているのか、今描けているイメージはありますか。
「いや、もう分からないっす、僕もどこにいるのか分からない。2か月先、3か月先にどこにいるのかが分からない状態ですね(笑)。でも、そういう状況には慣れている部分もあるので。もしかしたら違うチームでプレーしているかもしれないし、残留して同じチームでプレーしているかもしれない。それは今は分からないです」

“あのゴール”で新しい引き出しを
開けられたような感覚が残っている


――W杯は世界中から注目を集める大会ですが、そこで自身の価値を高めたいという思いもあると思います。
「自分の価値を高めたいという考えはないですね。ピッチ上でプレーしてチームに貢献していれば、その結果、そういうものは上がっていくものだと思う。自分自身の価値を上げるとか、自分自身の名を世界にとどろかせたいというモチベーションは一切なくて、ただプレーでチームに貢献したいと思っています」

――W杯に出場することになれば、初の大舞台になります。W杯という舞台をどうとらえていますか。
「欧州チャンピオンズリーグとW杯という2つの大きな大会がありますが、W杯は4年に1度しかないので注目度も抜きん出ているし、クオリティーもやっぱり抜きん出ていて、間違いなく世界でトップのサッカーの祭典だと思っています」

――初めてW杯を意識したのは?
「2002年の日韓大会ですね。98年のフランス大会のときは、僕はまだ6歳だったのでまったく覚えていなくて、物心がついてしっかり見て、初めて触れたのは2002年です。テレビではW杯のことばかりやっていたじゃないですか。僕は小学生だったけど、試合したときに対戦相手にはベッカムヘアの選手がいたり、蹴れもしないのにロベルト・カルロスのFKのモーションを真似して蹴る選手もいました。スタジアムに行って直接触れることはなかったけど、身近でW杯の熱を感じられたし、そこで『W杯ってスゲーな』って改めて思って、ここに出たいと思った」

――日本代表の監督がバヒド・ハリルホジッチ監督から西野朗監督に代わりました。本大会直前での指揮官交代は、選手として難しい部分もありますか。
「それはないですね。ホッフェンハイム在籍時には1年で監督が4回代わることもあったし、アウクスブルクでもシーズン途中に監督が代わった。ドイツでは4チームでプレーしていますが、8人の監督から指導を受けています。変わる戦術に対応できているか、毎回監督にハマってしっかりプレーできているかは別にして、監督が代わることに対しては心構えができていて、監督が代わることには慣れっこです。僕ら選手もいつ選手でいられなくなるか分からない世界だと思うし、そういう世界にいる自覚は持っています」

――西野監督からはプロ1年目から2年半指導を受けており、人柄やサッカー観を知っていることはプラスに働くのでは?
「美学や哲学をしっかり持っている監督だし、そこを知ってはいますが、それは大してメリットではないと思う。というのは、当時のガンバと同じようなサッカーをするのであれば、僕にメリットがあると思うけど、まだどういうサッカーをするのか分からない。どういうフォーメーション、どういう戦術でやるのか分からない状態なので、選手全員が横一線でスタートしている状態だと思います」

――トップ下での起用も検討しているようですが、ポジションへのこだわりはありますか。
「昔は持っていたけど、こだわりはなくなりました。トップ下が好きで、サイドで出るなら左がいいと思っていたけど、本当に今はどっちでもいい。左でも右でも、真ん中でもいいですね。今シーズンは右で出るようになって、『あっ俺ってキック、こんなに蹴れんのや』って思ったんですよ。割と狙ったところに良い弾道で蹴れるので、漠然とキックはうまいと自覚していたけど、右で出たときにボールを持てることが多くなってクロスやシュート、パス、プレースキックとキック全般に関して、自分の武器だと再認識できました。ただ、今もトップ下が好きですけどね」

――W杯で世界を相手にした際のゴールのイメージはどう湧いていますか。
「今季の最終節となったニュルンベルク戦でヘディングで決めた感覚は、僕自身なかなか持っていなかった感覚でした。あのときは確実にボールが来る予感がしたし、2列目気味から入って相手CBの間でヘディングができた。一番ゴールを奪いやすく、ディフェンスが守りにくいところに入って行ってゴールを決める感覚を、しっかりと形として出せたのはすごく良かった。あの状況でもヘディングで決めることができるという、自分自身の新しい引き出しを開けられたような感覚が残っています」

――世界と戦うために不可欠なスパイクですが、こだわりを教えて下さい。
「めちゃくちゃありますよ。日本にいるときは履き心地と軽さにこだわっていたけど、それにプラスして、ダッシュしてからの急激なストップやシュート時の軸足がソールの後ろの部分でどれだけ止まれるか、グッグッとグリップできるかという3つには強くこだわっています。妥協したくないので、結構注文はさせてもらっていますよ」

――相棒となるプレデターの印象はいかがですか。
「今季の前期履いていたスパイクから、後期はプレデターに変えましたが、僕はプレデターを履き始めてからパフォーマンスが上がったんですよ。ドイツのピッチは下でグリップが効かないとサッカーができないくらいの感じだけど、ミックスというポイントのものを履いていますが、それだとしっかりピッチに刺さって、足裏で噛めるんです。なおかつ軽いし、機動力もあるので、ぜひサッカー少年、高校生にはプレデターを履いてほしいですね」

――プレデターとともに世界に挑むことになりますが、W杯への思いを教えてください。
「とにかく出たい。現状は、まだロシア行きが決まったわけではないので、今はここから始まるくらいの感じで自分自身も思っている。W杯に行けることが決まってから、その先のことは考えようと思っているので、とにかくまずは出てプレーしたい。そこで、世界を相手にしてもやれるということを証明するプレーを見せたいし、自分のストロングポイントである技術をその舞台でも示してチームに貢献したいですね」

(取材・文 折戸岳彦)

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