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日本代表に重要なのは“施設”と“高地”!?成功体験に基づいた準備とは

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2010年W杯。岡田ジャパンはスイスで直前合宿を行った

 ロシアW杯登録メンバー前、最後のテストマッチであるガーナ戦に向けた日本代表27選手が発表された。21日からは国内合宿もスタートし、W杯への機運は高まっている。
いまから16年前、日韓W杯日本代表のコーチとして史上初の決勝トーナメント進出に貢献した山本昌邦氏が、“準備”の重要性を説く。


日本代表はロシアのクラブチームのひとつ、ルビン・カザンの施設をロシアW杯でのベースキャンプとして使用する。発表当時、技術委員長を務めていた西野朗現日本代表監督は、施設の充実ぶりを強調していた。ベースキャンプ地の重要性とは――?

 4年前のブラジル大会と比べて、会場間の距離がかなりコンパクトになったのがロシア大会の特色のひとつです。一番遠いソチからサンクトペテルブルクまで約2時間半で移動できます。

 大会中の日本のベースキャンプ地は、どの会場にも1時間くらいで行けるカザン。ロシア1部リーグに所属するルビン・カザンの施設をまるまる借りることができたのは、大きなアドバンテージと言えるでしょう。グループリーグの組み合わせ抽選会の後だと各国争奪戦になるため、いい施設を確保することはむずかしくなります。そのため、抽選会の前にルビン・カザンの施設はおさえていました。

 日本が初めて決勝トーナメントに進出した2002年日韓大会のグループリーグの会場は、初戦のベルギー戦が埼玉、2戦目のロシア戦が横浜、最後のチュニジア戦が大阪でした。3都市の真ん中にあって、アクセスが便利だった静岡県の北の丸にベースを置きました。

 W杯期間中はどんな練習をやるのか、FIFAへの提出が義務付けられていて、15分はメディアへ公開練習を行わなければなりません。北の丸では、施設内のゴルフ場に練習場を特設して、ケガ人のチェックなど本当に“見られたくない”練習をやっていましたのですが、ロシアでも敷地を全部貸し切っているので同じことができると思います。

 また、今大会は、トレーニングマッチの相手としてU-19日本代表もロシア入りし、同じ敷地内に宿泊することになっています。世代別代表が帯同するのはW杯6大会目にして初の試みで、対戦国の対策を講じるための練習相手としてはうってつけです。U-19の選手たちもW杯の空気を知ることができるので、日本サッカー界としては未来の投資にもなります。

 トレーニングはもちろんですが、長い大会を集団で戦い抜くには、“栄養”と“休養”とのバランスをうまくとることがポイント。

 食事は、日本代表専属シェフの西芳照さんがロシアでも腕をふるってくれます。2006年のドイツ大会から数えて4大会目。信頼できる経験豊富なシェフがいるので、栄養の面ではまず不安はありません。

 トップレベルの選手といえども、ずっと気持ちが張りつめていたら疲れてしまいますからガス抜きは必要です。選手が散歩できるような環境を用意したり。クラブでは家から通っている選手が、毎日共同生活をすることを余儀なくされるわけですから、いかに休養がとれるかも重要なんです。先ほどの食事の話ともリンクしますが、ドイツ大会のときは食事会場が地下にあり、それが選手のストレスになっていたという話も聞きました。それでは選手の休養になりません。

 毎日顔を合わせることのデメリットもある一方で、メリットもあります。選手同士だけでなく、監督やコーチとコミュニケーションをとることがたやすくなります。練習は1日2時間くらいで、選手たちは時間がわりとあるので、談笑したり、ゲームをしたり、マッサージを受けたりと、自由に過ごせることが望ましいですね。

 よくメディアを賑わせている“選手ミーティング”は、監督が意図的にやらせることもありますし、選手から要望があるときもあります。決定事項がチームに反映されるかどうかも、やはり監督次第になりますね。

30日のキリンチャレンジ杯・ガーナ戦、31日のW杯メンバー発表(予定)を経て、日本代表は6月上旬からオーストリアで直前合宿を行う。そこで、本大会での成績を左右するほど重要だという、ラスト2週間の準備期間に入る――。

 大会中の宿泊施設はもちろん重要なのですが、直前キャンプの環境もいい準備ができるかのカギを握ります。

 前回ブラジル大会のときはアメリカ・フロリダで直前合宿を行いました。“ブラジルの暑さ対策”で選んだ場所なのですが、ブラジルとは異なるカラッとした暑さでした。その後、ベースキャンプのブラジル・イトゥに入ったら寒かった。初戦となるコートジボワール戦が行われるレシフェに入ったら、今度は高温多湿……。これではコンディション調整がうまくいかなくてもムリはありません。その点、ロシアは地域による寒暖差が少ないこともあって、前回のような調整不足で本番に臨むことはないはずです。

 直前合宿については見逃せない視点がもうひとつあります。それは直前のキャンプ地をオーストリアの“高地”に設定していることです。“高地トレーニング”といえば、マラソン選手のトレーニング法として有名ですよね。標高1500メートルくらいの酸素濃度が薄い場所でトレーニングすると、環境に適応しようと血中のヘモグロビンが増加します。すると、平地に戻ったときに酸素の運搬機能がアップするので、持久力の向上が期待されるのです。

“高地トレーニングを経てからベースキャンプに入る”、そして“大会中のベースキャンプは施設を貸し切る”、この2点は過去の成功体験に基づいたもの。日本が2度目の決勝トーナメント進出をはたした、2010年南アフリカ大会。日本は標高1500メートルのスイスで事前合宿をはってから南アフリカに入り、ベースキャンプはジョージのリゾート施設を借り切った。

 過去の5大会を経て、選手だけでなくサポーティングスタッフにも経験のある人間が育ってきている。それが日本サッカー界の財産になっているのは、間違いないでしょう。

オーストリアでの直前合宿、スイスとパラグアイとの強化試合を経て、6月19日にはコロンビアとの初戦を戦う日本代表。コロンビア、セネガル、ポーランドというライバルを出し抜くために必要なこととは――?

 チームとしての実力の差をうめられるとしたら、いかにいいコンディションで臨めるか。これにつきるでしょう。

 2010年南アフリカ大会のチームが16強入りという結果を残せたのは、もちろん戦術的な部分が奏功したことも要因のひとつですが、前線からプレスをかけられるようなコンディションをキープできたいたことが大きい。少なくともコンディションで相手より劣るようなことはありませんでした。

 その次のブラジル大会は、移動距離は長いし、会場間で気温や湿度、気候が異なるしで、一戦一戦に順応することが求められてしまった。

 それでも、アメリカ代表は移動距離がほかのチームより長く、条件的に不利だったにもかかわらず、決勝トーナメントに進出しました。彼らは必ず3日前には現地に入って、体を慣らしてから試合に臨んでいたんです。一方、日本が試合会場に入ったのは1日前でした。

 自分たちが最高のパフォーマンスを求めるのではなく、相手よりもコンディションで上回ることがW杯では重要なんです。要は相手より動ければいい。準備力の差は、間違いなくW杯の結果と関係してきます。ドイツが4年前にチャンピオンになったのは、もともとの実力もさることながら、最高の準備ができたからにほかなりません。

 選手の持っているものを最大限引き出せる準備ができるかは、スタッフの手腕によるもの。言ってみれば“トレーニング”、“栄養”、“休養”で最高のものを提供するのは当たり前なんです。この20年で日本人のスタッフは着実に育ってきています。緻密な準備をして今できる最高のパフォーマンスを引き出した後に、本当に足りないものが見えてきます。パスの成功率が低い、ゴール前でのアイディアが足りない、足が遅い、といったことはその先に見るべきことなんだと思っています。力を出し切って勝てなかったのなら、納得はできます。

 W杯で優勝した監督はすべて自国の監督であり、決勝で敗れたチームの監督もまた自国の人です。彼らは経験したことを自分たちの国で蓄積している。期せずして、本大会2か月前に日本代表には日本人監督が就任しました。どんなサッカーをやるかは西野監督に委ねるとして、“日本らしいサッカー”を見せてくれることを期待したいですね。

(取材・文 奥山典幸)

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