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PKやり直し…そのとき選手は? 奈良クラブ「審判を攻撃するつもりはない」

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会見を行った矢部理事長

 JFLの奈良クラブは15日、今月6日にパロマ瑞穂スタジアムで行われた天皇杯2回戦で、名古屋グランパスに1-1(PK5-4)で勝利した。しかし、同11日に日本サッカー協会(JFA)はこの試合で競技規則の適用ミスがあったとし、PK戦のやり直しを決定。Jクラブを下した喜びから一転、まさかの展開。奈良クラブの選手たちは一連の件をどのように受け止め、受け入れたのか。

 天皇杯2回戦の2日後、8日21時に選手やスタッフがクラブハウスへ集められ、JFAの須原清貴天皇杯実施委員長や審判委員長ら3名から「主審による競技規則の運用の誤りにより、奈良クラブを敗戦とする」ことについて、直接謝罪と説明を受けた。勝ったはずの奈良クラブとしては、受け入れがたいものだった。

 矢部次郎理事長が事前に「言いたいことがあるならば、その場で言いなさいと。協会の方にもあえて(選手たちを)コントロールしないので、とは伝えていました」と話していたこともあり、協会幹部を前に選手たちはそれぞれが思いをぶつけた。

 まさかの“敗戦”を告げられ、困惑している選手がほとんど。涙を流す者や凄まじい剣幕で抗議する人、ルールの説明に納得がいかない人、「どうにか違う方法はないのか」と問いかける選手もいた。紛糾するなか、翌9日が公式戦前日の移動日だったため、開始から約2時間で選手たちは解散。フロントと協会幹部らは「余地はないのか探ってほしい」と25時過ぎまで話し合いを続けた。

 複雑な思いを抱えたまま、10日にはJFL青森戦を戦った。試合は0-2の敗戦。オフサイドを巡る微妙な判定があったこともあり、いつも以上に憤る選手やスタッフが多く、矢部理事長も「(判定に)過敏に反応してしまっていましたし、僕自身もそうだった。皆が普通の精神状態ではなかったかもしれない」と振り返る。

 微妙な空気がクラブを包むなか、11日にまたも状況は変わった。JFAが国際サッカー評議会(IFAB)と確認作業を行う中で、「PK戦のやり直し」という選択肢があることが判明。11日の臨時天皇杯実施委員会で「PK戦のやり直し」が決定。奈良クラブに再び“勝者”となる可能性が出てきたのだ。

 敗退と思っていたはずが与えられたチャンス。チーム内では「次に進むのがベストなのか、(協会へ)抗議するのか」と話し合った末、15日に会見を行い、PK戦のやり直しに挑むことを表明した。

 振り回される格好になった選手たちだが、すでに切り替えているようだ。「PKばっかり練習しようぜ!」などと冗談が出るまでになってきた。「心の底から受け入れているというわけではないと思います」と選手の思いを代弁する理事長だが、「過敏になってピリピリなっているわけではく、本心は別にあったとしても、チーム全体で前を向いて、時にはネタにしながらやってくれているのは助かっています」と微笑むとおりだ。

 また、今回の一件で奈良クラブがその矛先をどこかへ向けることはない。「僕らは『勝ち負けよりも大切なものがある』というコンセプトでやっています。それは今後、彼ら選手が人生をどう生きていくかの上で重要なこと」と語る矢部理事長は言葉を続けた。

「これで誰かを恨んだり、憎んだり、誰かを疑ったり……ましてやサッカーを嫌いになったりはしたくないし、してほしくない。みんな何かしらのミスはしますから。互いにフォローしあって、補い合ってこそのサッカーだと思うんです」

「ミスをした審判の方を攻撃するつもりはありません。今回を機に初めて知りましたが、審判員になる人は少ないそうなんです。そういう人たちも増やしていきたいなという思いもありますから」

「今のスポーツ界では、いろいろな競技でいろいろな問題がありますけど、W杯を前にサッカー界はひとつになっていきたいなと。W杯へ向けて日本代表を応援していきたいですし、自分たちはこの結果を受け入れて、前を向いていこうと。それをクラブとして示していきたいと思っています」

 今後行われるPK戦の日程は現時点では未定。「些細な部分の会議が行われていて、誰が出場するのか、それこそレガース(脛当て)は必要なのかなどを詰めている段階」だという。

 JFLを戦う奈良クラブに対しては、PK戦のみとはいえ“再試合”になったことで遠方の試合会場への交通費を含む様々な出費を心配する声もある。実際には天皇杯の交通費は協会から支給されるため問題はないが、その他の部分でいくらかの負担はあるようだ。

 理事長は「軽食や氷、テーピングは必要になりますが、そこは問題視していません。次の試合のため押さえていたホテルのキャンセル料が発生する可能性がありますが、それについては協会の方からも『提案してください』と言って下さっているので協議していければ」と説明した。

 様々な不運が重なり合った末のPKのやり直し。注目の“再試合”はどのような結果になるのか。

(取材・文 片岡涼)

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