beacon

[MOM2548]市立船橋MF井上怜(3年)_出てきた瞬間に空気が一変…ナンバー10のショータイム

このエントリーをはてなブックマークに追加

ドリブルでしかける市立船橋高MF井上怜(3年)

[高校サッカー・マン・オブ・ザ・マッチ]
[6.16 総体千葉県予選準決勝 日体大柏高0-2市立船橋高 柏の葉]

 ピッチに出てきて1分間で1アシスト。そこからは“市船のナンバー10”のショータイムだった。全国大会への出場権が懸かった総体県予選準決勝、市立船橋高MF井上怜(3年)が登場したのは後半14分。相手の逆を取るドリブルと高精度クロスで存在感を示すと、チームの全2得点を自らのラストパスで導いた。

 春先の日本高校選抜に新高校3年生で唯一選ばれた実績が示しているように、同年代では出色のタレントであることには疑いはない。だが、今季のチームではスーパーサブとしての起用が続く。「キックがスムーズだし、軌道もきれい。だけど、闘えるかというところに課題がある」(朝岡隆蔵監督)。激しいポジション争いの中で、定位置をつかむのは簡単ではない。

 とはいえ、“ここぞ”という時の働きに関しては、指揮官の信頼をガッチリとつかんでいる。指揮官に「個で打開できるようなカードを持っているのは強み」と評されるように、スコアレスの時間帯が続いたこの日はFW鈴木唯人(2年)と一緒に投入。試合前の時点でゲームプランに入っていたという起用法は、相手に守備を固められた時間帯に焦らずいられることにもつながった。

 そして実際、期待に応えるプレーを見せた。投入されてわずか1分、鈴木のショートCKを受けると、鋭いターンでゴールライン付近を突破。「セットプレーは動きを出すのが狙い」(井上)という意表を突いたチップキックでファーサイドを狙い、DF畑大雅(2年)のヘディングシュートを呼び込んだ。

 さらに後半28分、今度は鈴木とのワンツーで再び左サイドを抜け出すと、ノールック気味の折り返しでゴール前に配球。後方から走り込んできた鈴木にピタリと合わせ、追加点もアシストした。いずれもプレーも相手のプレッシャーを受けていたが、ドリブルしながらも「相手がこっちに来ていたので……」と周りが見えていたというのが頼もしい。

 それ以外の場面でも、相手を右往左往させるクイックドリブル、一瞬でマーカーを置き去りにするヒールパス、的確なワンタッチパスで相対する守備陣を翻弄。2点ビハインドを負っていた日体大柏高が戦意を喪失するには十分な“無双”っぷりだった。もっとも、本人は「点が取れなかったので悔しかった」と満足した様子は見せなかったが。

 つまり、この程度の活躍で立ち止まるつもりはない。指揮官の突きつける課題も十分に自覚しており、「まだまだプロに入れるレベルにはない」と厳しく自己評価。抱えていた肉離れが完治に向かっていることもあり、ここからが本領発揮のステージと見定める。「全国大会を成長、そしてステップアップの機会にしたい」(井上)。小柄なテクニシャンは、1か月半後の大舞台をしっかりと見据えている。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校総体2018

TOP