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ネイマール見破った『ビデオ判定』。9回/26試合で示した真価…ロシアW杯VAR全事例集2

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ブラジル代表FWネイマールはファウルをアピールしたが、VARに見破られた

 ロシアW杯から新たに導入されている『ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)』制度は、現在開催中のグループリーグ第2節で新たな局面を迎えている。大会7日目はイランのノーゴール判定に力強い裏付けを下すと、同9日目にはブラジルに与えられたPKが取り消されて大きな話題に。賛否分かれる“新世代の審判”がいよいよ真価を示してきた。

 VARはビデオモニターを見ながら試合を追い、必要に応じて主審に助言を行う審判、またその制度のこと。一般には『ビデオ判定』とも呼ばれる。今大会では、モスクワの別会場に集まった国際主審4人が担当し、①得点②PK判定③一発退場④人違いの4要素に関して、「明白かつ確実な誤り」に介入することになっている。(詳しくはこちら)

 グループリーグ第1節においては、②PK判定3回、③一発退場に関わる判定1回の計4回でVARの介入が行われた(20日に既報)。第2節でもPK判定への介入が続発。だが、これまでのPK判定はいずれも『ノーファウルがPKに変更される』という流れだったが、初めてPK判定が取り消される事例が出てきた。

【事例1】大会6日目 ロシアエジプト
 日本がコロンビアに歴史的な勝利を挙げた数時間後、VARの利益を受けたのは、W杯デビューを飾ったエジプトFWモハメド・サラーだった。対象となったのは0-3で迎えた後半27分。パスを受けようとペナルティーエリアに進入したサラーがロシアMFロマン・ゾブニンに倒された場面だ。

 この時、主審はいったんFKの指示を出したが、両チームの選手たちとコミュニケーションを取っている間にVARの介入があった。すぐさま主審はペナルティースポットを指差し、PK判定に修正。このPKをサラーが自ら流し込み、“エジプト王”と称されるスター選手に、待望のW杯初ゴールが生まれた。

 ここで注目したいのは、主審が判定を修正する際にピッチ脇のモニターを参照しなかったという点だ。これまでの事例では、該当シーンをスローモーションで確認する主審の姿がテレビ中継でも確認されていたが、ここでは主審が選手たちに取り囲まれたまま、迅速に判断を下していた。

 この理由としては『ペナルティーエリアの外か中か』という単純な論点だったからだと推測できる。『ファウルか否か』という論点では、主審の目で見た細かい判断が要求されるが、『外か中か』は映像ならば一目瞭然の違いだ。VARはその点を通信機器を通じて主審に伝えたとみられ、ある意味ではVARが最も得意とする類いの介入だったと言えるだろう。

【事例2】大会7日目 デンマークオーストラリア
 大会7日目の21日には、VARと“2度目の再会”を果たした選手が出てきた。デンマークの1点リードで迎えた前半36分、オーストラリアMFアーロン・ムーイの右CKに対し、MFマシュー・レッキーが頭で合わせた場面だ。一度はプレーが流されたが、VARの連絡を受けた主審がピッチ脇のモニターに向かった。

 映像では、レッキーのヘディングシュートがMFユフス・ポウルセンの手に当たっていることが確認され、主審はPK判定を下した。実はこのポウルセン、大会3日目のペルー戦でもPA内で相手選手を倒し、VARの介入によってPKを与えていた。さらに、このプレーで大会2枚目のイエローカード。グループリーグ第3節は出場停止となってしまった。

 不思議な縁はこれだけではない。このPKを蹴ったのは、オーストラリアMFミル・ジェディナク。大会3日目のフランス戦でもPKを沈め、母国では“PK職人”として知られる名手だ。このキックも難なくゴールに蹴り込み、W杯通算3度目のPK得点。これは歴代最多記録というオマケ付きだ。

 なお、ここでは『ハンドは相当だったのか』という問題が巻き起こった。ポウルセンはジャンプの反動で手を挙げていたように思われ、ハンドリングの反則にはあたらないという声も出ている。ましてやVARは「明白かつ確実な誤審」だけを修正するのがルール。ブンデスリーガで活躍する23歳の俊英にとっては、不都合なテクノロジーに映っていることだろう。

【事例3】大会7日目 フランスペルー
 ともに第1戦でVARの恩恵に預かった両チームの対戦では、滅多に起こらない事例が発生した。それは④人違いによるVAR介入だ。国際サッカー評議会の調査によると、VARの介入は約3試合に1回の頻度。そのうち人違いの割合は1%程度だったため、単純計算で『300試合に1回』という“激レア”ケースだ。

 そんな場面が見られたのは、後半36分ごろ。ペルーMFペドロ・アキノが相手選手を倒し、ファウルを告げるホイッスルが吹かれた。だが、イエローカードが提示されたのはMFエディソン・フローレス。すぐに選手が抗議を行い、VARとの確認で『人違い』は訂正されたが、ビデオ判定がなければ後味悪い結果となっていただろう。

【事例4】大会9日目 ブラジルコスタリカ
 初戦を勝ち点1で終えた“カナリア軍団”に全世界から視線が送られていた一戦では、W杯史上初めてPK判定が取り消されるという事態が起きた。その対象は世界有数の大スターであるFWネイマール。後半34分までスコアレスという緊迫した試合展開だったこともあり、PKを告げるホイッスルが吹かれた時点で、その後の行方には大きな注目が集まっていた。

 その場面を描写すると、ネイマールがPA左をドリブルで駆け上がり、ゴール方向に向かって足裏ターンで切り返す。それに対応したコスタリカDFジャンカルロ・ゴンザレスが手をかけながら足を伸ばすと、ファウルをアピールするネイマールが、大きく手を広げながら後方に倒れるという形だった。

 いったんはPK判定を下した主審だったが、VARからの連絡を受けてピッチ脇のモニターへ赴き、スローモーションで映し出される該当シーンを入念に確認した。その後、VARの介入を示す『両手の指先で四角を描く』ジェスチャーで最終判断が出たことをアピールすると、プレーが行われた場所に戻り、プレーを続けるためボールを受け取った。そのまま試合再開。ファウルは認められなかったのだ。

 ここであらためて強調しておくべきは、VARが「明白かつ確実な誤審」でのみ判定に介入するという点。G・ゴンザレスの手はたしかにネイマールに掛かっていたが、ファウルに値する接触ではなかったと自信を持って判断した形となる。なお、接触事態は認められたのか、ネイマールのシミュレーションはお咎めなし。プレーが継続しているという扱いになるため、主審がボールを設置する『ドロップボール』で試合が続けられた。

 なお、試合は終盤に猛攻を見せたブラジルが2-0で劇的な勝利。アディショナルタイムにゴールを決めたネイマールの目には涙も見られた。VARによる判定取り消しに気落ちすることなく、高い集中力で試合に向き合った結果であろう。あるいは、リプレイ映像によって判定の裏付けが得られたため、不信感なく気持ちを切り替えられたのかもしれない。

【事例5】大会9日目 ナイジェリアアイスランド
 結果的にグループリーグ第2節最後の介入となったのは、ネイマール騒動の次に行われた一戦。ナイジェリアの2点リードで迎えた後半35分、バックパスに反応したアイスランドFWアルフレズ・フィンボガソンがPA内でボールを追うと、後方からDFティロネ・エブエヒに引っかけられたような形になった場面だ。

 主審はいったんプレーを流したが、すぐにモニター確認を実施。判定を修正し、PK判定を下した。だが、これをキッカーのMFギルフィ・シグルズソンが大きく枠を外し、1点を返すことはできず。VARの恩恵を生かすことはできなかった。ここでは大きな騒動はなく、久しぶりに通常どおりの運用が行われたと言える。

【※例外事例6】大会7日目 イランスペイン
 なお大会7日目には、VARの介入には至らなかったが、得点に関わる大きな貢献があった場面もあった。スペインの1点リードで迎えた後半20分、イランのFKからMFバヒド・アミリのヘディングシュートがネットを揺らしたシーンだ。一方的に攻め込まれていたイランにとって、絶望的な失点直後だったこともあり、一度は“起死回生の同点弾”に大いに沸き立った。

 だが、主審は迷わずオフサイドを宣言した。このシーンの状況を整理すると、キッカーのフェイクでPA内の選手が動いた後、DFラミン・レザイアンがFKのボールをキック。ファーサイドのアミリがワントラップでシュートを決めたが、FKフェイクがあった時点で、オフサイドラインを大幅にオーバーしていた。

 主審はゴールを認めず、当初からオフサイド宣告を行っていたため、これは判定が修正されたという事例ではない。だが、副審・VARとの対話の末に正しい判定が提示されており、VARの活躍あってこその判断だったといえる。また、『オフサイドか否か』といった点も画面で一目瞭然のため、これは事例1と同じくVARの得意分野だと言うことができそうだ。

 ここまでロシアW杯は26試合(大会9日目終了時点)が行われ、合計9回のVAR介入で徐々に運用実態が見えてきているところである。とはいえ、まだまだグループリーグの段階。決勝トーナメントにもなれば、一つの判定が今より大きな影響力を持つことが考えられる。『ゲキサカ』では今後も、VARについて特集的に報じていく予定だ。

(※グループリーグ第2節終了時点で事例を追加し、一部改稿しました)

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