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「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第73回:引力(佐賀東高、宮崎健成)

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PK戦勝利を喜ぶ佐賀東高GK宮崎健成

“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」

 手に汗握るPK戦が始まろうとしていた。高まる緊迫感が応援団をざわつかせる。

「いける、大丈夫だ」、「勝つぞ、絶対勝つ」

 インターハイの佐賀県予選準決勝、佐賀東高の応援団は、望む未来を引き寄せようと叫んだが、視線の先に変化を見つけて静まった。

「あっ、健成が集中しとる。静かにしよう」

 GK宮崎健成がグローブで顔を覆っていた。しかし、仲間の視線を集めた男は、突然、応援団に小走りで近寄って来た。そして、何人かと握手を交わすと、ベンチ前に戻った。宮崎の行動は、興味深い。なぜか、強い関心を抱かせる。試合中も、空中戦で跳ばずに相手を倒した味方を「跳べよ(相手が)危ないだろ」と注意し、ハーフタイムには「相手をけなすのは、やめてくれ」と応援団に言いに行った。

 宮崎は「普段は自分も熱くなって相手や審判に文句を言ってしまうけど、相手もサッカーをやっている。ケガで後悔なんてしてもらいたくない。どうせなら、正々堂々とやって勝ちたい。あのときは自分が冷静だったから、言おうと思って」と、自身の行動を振り返った。

 佐賀北高とのPK戦は、互いにキックミスがなく進んだ。早くリードをして楽になりたいと誰もが思い、キッカーとGKへ交互に視線を送った。

「ん? 健成、新しいルーティンか」

 応援団の視線を集めた守護神は、自チームの攻撃時、地面に突っ伏していた。そして、そのまま腰を少し上げた。でんぐり返しの途中のような格好で、尻の下に逆さまの顔が見える状態になった。

「なんや、あれ。健成、大丈夫か……」

 変な格好だ。緊迫感の中で見ると、余計に異様だ。確かに、ちょっと心配になる。それでも、なぜか彼から目を離せない。佐賀東は、先攻。キックが成功した後、止めれば勝ちだ。サドンデス、7人目。宮崎が左へ鋭く跳んで、シュートをセーブした。両手を大きく広げ、応援団のところへ走る宮崎を迎える応援団の中から「やっぱ、オレ、健成、大好きや」と笑う声が聞こえた。

 自分の世界を持つGKは多いが、宮崎は自分の世界に周りを引き込む力も強い。そう言えば、PK戦の前の行動は、何だったのか。

「3年生のGKが3人いるんですけど、メンバーに入っているのは自分だけ。PK戦の前にパワーをもらおうと思って、その2人と握手をしに行ったんです。3人の代表としてやろうと思ったから」

 佐賀東は、翌日の決勝も勝って全国大会出場を決めた。大舞台でもきっと、宮崎は多くの視線と声を集めるだろう。

■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」

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