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日本の躍進のヒケツ、ベルギーの本当のスゴさとは? 山本昌邦氏が徹底解説

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本田のFKの時に見せたクルトワのビッグプレー

日本対ベルギーをNHKで解説を務めた山本昌邦氏が、日本サッカー史に残る激闘を振り返り、そのポイントを分析。大会前のゲキサカでのインタビューで“西野ジャパン”の躍進を予期していた山本氏が見た、日本の課題とはーー?

“オールジャパン”が
見せた底力


 西野朗監督をはじめ、スタッフもすべて日本人でそろえて、文字通り“オールジャパン”で臨んだロシアW杯。代表監督が交代したのが、いまからわずか3か月前ということを考えると、素晴らしいリカバリーをしたと思います。「やれることはすべてやった」4試合。ベスト16は称賛すべき結果だと思います。

 日本代表の強みであるテクニカルスタッフの分析も、今大会の躍進を語るうえで欠かすことはできません。日本の選手の良さを活かしつつ、相手のストロングポイントをいかに打ち消すか、という戦いを徹底していました。

 決勝トーナメント1回戦のベルギー戦、日本は立ち上がりに香川真司がシュートまで持ち込むなど、落ち着いてゲームに入れたと思います。その後徐々にベルギー代表がポゼッションを高めていくわけですが、彼らの“強み”を出させない戦いをすることができました。

 ベルギーの攻撃パターンのひとつが、エデン・アザールドリース・メルテンスケビン・デ・ブライネがドリブルでアタッキングサードやペナルティエリアに進入し、相手の守備のバランスが崩れたところでフィニッシュに持ち込むこと。結果的に日本戦のゴールもそうですが、ベルギーの12得点はすべてペナルティエリア内でのシュートから生まれています(※うち1ゴールはPK)。加えてスルーパスで相手の裏をとるのも得意なのですが、前半の日本はドリブルもスルーパスもほとんどやらせませんでした。ベルギーの持つ個の力に対して、日本はグループでうまく対応。縦をおさえる、戻ってきてプレスバックする、内から外に追い出す守備をする、などベルギーを分析して、うまく守れていたと思います。

 攻撃面でも日本は“らしさ”を示せました。狭いエリアで複数の選手が絡んで崩すのは日本の十八番で、前半31分の乾貴士のヘディングシュートまでの流れは、完璧な崩しでした。また、スルーパスを得意とするのは日本も同様で、後半3分の原口元気の先制点は柴崎岳のスルーパスでベルギー守備陣を切り裂きました。そして、この原口の得点の背景には、グループリーグ第3戦のポーランド戦の戦い方が関係していると思っています。

余力を残さずして
“世界制覇”は無し


 グループリーグ1戦目のコロンビア戦と2戦目のセネガル戦で同じ11人を先発させていた日本は、続くポーランド戦で一気に6選手を入れ替え、特に疲労が蓄積しやすい攻撃陣は総入れ替えしました。

 原口は豊富な運動量で献身的な働きをしてチームへの貢献度は高かったのですが、グループリーグの2試合で放ったシュートは1本だけ。しかし、キレを取り戻したベルギー戦では今大会はじめてシュートを枠に飛ばすと、見事ゴールを陥れました。ベルギー戦で2点目を入れた乾、香川もポーランド戦を回避したため体は軽そうでした。

 グループリーグ突破が決まっていない中で先発を入れ替える。ポーランド戦での西野監督の大胆な采配が、続くベルギー戦に活きたわけです。これはプレースタイルや疲労度を科学的に考慮できていた結果だと思います。

 たとえば、五輪の100メートル走でメダルを狙う選手は予選では流して走っていますよね。W杯でも同じことが言えて、グループリーグ3試合で余力を残さないと決勝トーナメントで良い試合をすることが難しくなります。

 ポーランド戦のラスト10分は、決勝トーナメント進出に向けては日本がリードしていたわけですから、西野監督は極めて冷静に一番確率が高い選択肢を選んだだけだと思います。大事なのは、つねに良い試合をすることではなくて、ひとつでも上にステージに進むことですから。

交代策が突き動かした
ゲームの流れ


 後半に入って2点を先行した日本。2点を追いかけるベルギーはマルアン・フェライニナセル・シャドリを同時に投入、ポジションも動かしてきたことで日本の守備に若干のズレが生じてきます。グループで捕まえきれなくなり、ドリブルで1対1の対応を強いられる場面が増えてきてしまったんです。

 そんな中、後半24分にはヤン・フェルトンヘンに1点を返されてしまう。崩されたわけではないですが、1点差にされたことで日本の選手はどうしても精神的にネガティブになってしまいます。あと10分遅い時間ならまだしも、残り20分以上ある中で、「もう1点取りに行くのか」「1点差を守り切るのか」という混乱もあったと思います。

 2-2となった後に日本も本田圭佑山口蛍を投入するわけですが、ここから流れをもう一度引き寄せることに成功します。大迫勇也への対応をベルギーが強めたことで日本は前線でボールをおさめることが難しくなっていましたが、本田が入ったことでタメをつくれたことが要因です。

 そして、最後に本田がキッカーを務めたFKとCK。この2つのシーンに、世界トップレベルのチームの真髄を見ることができます。

GKクルトワに見た
世界最高峰


 後半アディショナルタイムに迎えたFK、本田が放った渾身のブレ球は、ゴールになっていてもおかしくない素晴らしいシュートでした。さらに、「GKがここにこぼすだろう」というところに日本の3選手がつめていて、ベルギーの選手は反応しきれていませんでしたから、日本は練習通りの得点パターンだったはず。しかし、ベルギーの守護神ティボー・クルトワはボールをゴールラインに弾いてCKにしました。前に弾いていたら日本に押し込まれていた状況で、クルトワはきちんとCKに逃れた。そこが世界トップクラスのGKたる所以だと思います。

 前回大会で優勝したドイツにはマヌエル・ノイアーがいたように、頂点に立つにはGKのビッグセーブが欠かせません。日本はクルトワから2ゴールを奪うことができたのですが、勝負を分けた3ゴール目は奪うことができませんでした。

 ベルギーの3点目は、自陣からの世界基準のカウンターを見せつけられました。GKのクルトワがキャッチしてから、わずか10秒足らず。カウンターに持ちこんだクルトワの判断もさることながら、彼がボールをつかんだ瞬間、ベルギーは5選手が日本ゴールに向けて走り出していたんです。チームとしての共通認識、それを可能にする個人の走力。忘れてはならないのは、実践したのが94分だということです。開始1分だったら、どのチームでもできます。ラストワンプレーでゴールまで結びつけたベルギーに、世界の、W杯の恐ろしさを感じました。

 日本代表が持てる力を出しきったロシアW杯。彼らの戦いぶりに拍手を送りたいと思います。しかしながら、今大会の成績に目を向けると、1勝2分1敗。その1勝はほぼ90分間10人の相手から奪ったものであることを忘れてはなりません。4試合6得点7失点。この失点数では、W杯での優勝は望めないのです。

 では、この差をどう埋めるかと言ったら、選手を育てるしかない。たとえば、クルトワのような190センチ以上の上背があって技術と判断力も兼ね備えたGK。高さのあるセンターバックも必要ですし、センターフォワードの選手層も厚くしないといけません。これは育成年代から意識してやっていかなければならないでしょう。それぞれが成長することで、日本が誇る組織力を活かした戦いもレベルアップすることができるのです。

(取材・文 奥山典幸)
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