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ロシアW杯終了。大会を2つの意味で象徴していたクロアチアのハンド

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主審が目立たないことが良い試合の条件のひとつだ

1か月およんだロシアW杯も終了、フランスとクロアチアによる決勝は、多くのゴールシーンに彩られた。決勝で現地解説を務めた山本昌邦氏が、今大会の象徴的なシーンとして挙げたのは、クロアチアが犯したハンドのシーンだった。

カンテを“消した”
モドリッチの働き


 フランス代表の2度目の優勝をもって幕を閉じたロシアW杯。老練なクロアチア代表の粘りもすばらしかったですが、若きフランスの勢いが勝った形になりました。

 決勝戦では6つのゴールが生まれましたが、特に目を引いたのは、ディディエ・デシャンフランス代表監督による流れを変える大胆な采配です。

 後半10分、ここまで全試合にフル出場、MVP級の活躍を見せていたエンゴロ・カンテをあっさりと交代。今回のフランスのストロングポイントは堅守にあって、最終ラインの前で網を張ってボールを奪える、カンテとポール・ポグバの両ボランチが果たす役割は非常に大きかった。その自分たちの良さを捨ててまで行った采配に、少なからず驚かされました。一方で、クロアチア戦でのカンテは、これまでの6試合で見せていたような働きができなかったことも否めません。彼の動きに制限をかけていたのは、マッチアップしていたクロアチアのルカ・モドリッチです。

 カンテは世界トップレベルのボール奪取能力を持っていますが、奪った後は近くにいるポグバやアントワーヌ・グリーズマンらにショートパスで預けていて、ロングパスが出てくることはほとんどありません。そこをついたのがクロアチアで、カンテをポグバから引き離すべく、モドリッチは右サイドに張り出すことが多かった。クロアチアとしては、カンテに奪われたとしても、パスの出しどころがなくなったカンテから再びボールを奪い返すという展開を描いたのだと思います。こうすることによって、モドリッチをゴールから遠ざけることにもなるのですが、それを差し引いてもこの作戦は奏功しました。実際、カンテからポグバへ通ったパスはわずかに1本。カンテのパス成功率を見ても、過去6試合の平均で90%を超えていたところが、決勝に限っては50%でした。

 クロアチアの巧みな戦術で長所を出せなくなったフランスですが、シュート1本で2点を奪い、カンテが退いた4分後に3点目、10分後に4点目を挙げた。デシャン監督のマネージメント力が、流れを引き寄せたのは間違いないでしょう。

セットプレーが
勝敗を分けたロシア大会


 フランスが2点目となるPKを獲得したCKは、2つの意味でロシアW杯を象徴するシーンでした。

 まずは、今大会はセットプレーが得点の大部分を占めていたこと。セットプレーの流れからの得点を含めると、全ゴールの半数を越えていたほど、セットプレーが今大会のトレンドでした。逆を言えば、セットプレーをいかにしのぐかが、勝利へのカギを握るわけです。

 クロアチアは驚異的な粘り強さを見せられるチームですが、唯一とも言える弱点がセットプレーの守備の甘さにあります。決勝トーナメント1回戦から決勝までの全4試合で、セットプレーから失点しています。PKの判定となった場面では、イバン・ペリシッチの対応が遅れていることが、ハンドの要因となっているんです。

 ペリシッチのハンドは故意ではなかったように見えたが、手に当たったことでボールの軌道が変わり、手でプレーを妨げた。主審はそういう解釈をしたのだと思います。

 クロアチアには確かにスキがあった。W杯で頂点に立つようなチームには、あってはならない“甘さ”が存在していたことは、見逃せません。

VAR導入で
“最善の方向”へ


 そして、ロシア大会を象徴するトピックと言えば、VARの導入です。ゴールラインテクノロジーは、前回ブラジル大会から使用されていましたが、判定の助けとなる新たなテクノロジーが採用されました。VAR判定の末にPKが与えられた場面が大会中に何度もあり、フランスの今大会初ゴールはVAR判定の末に獲得したPKからでした。

 ゴールの有無、PK判定、一発退場の判定、警告や退場の人違い、この4つのシーンで適用されているわけですが、重要なのはVARが決定しているわけではなく、あくまでジャッジは主審に委ねられるわけです。映像を確認して、主審が最終的な判定に至る。

 決勝でいえば、クロアチアが同点に追いついてから数分後にフランスにPKが与えられました。クロアチアからすれば、自分たちに流れがきた後でのPKの判定になったわけですが、クロアチアの対応は見習うべきものでした。

 サッカーには、W杯のような世界大会から小さな街で開催されている大会まで、同じ競技規則に則ってルールが適用されています。監督やキャプテンは、審判と審判が下した判定をリスペクトする責任があるわけです。フランスの1点目のきっかけとなったFK、そして2点目のPKの判定。クロアチアのズラトコ・ダリッチ監督とキャプテンのモドリッチは、執拗に抗議をすることなく、素直に認めて試合を円滑に進めるという競技規則の精神に則ったわけです。

 監督や選手の心理を察すると、「あれだけいろいろな角度から検証されているのなら」と納得できた部分はあると思います。それは、ハンドだと主張するフランスにとっても、ハンドだと判定されたクロアチアにとっても、です。

 VARの導入によってベストではないが、最善の方向に近づいている。そう感じさせられたロシアW杯でした。

(取材・文 奥山典幸)
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