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[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:敗れざる者たちの明日(山口U-18・中山元気監督、福岡U-18・藤崎義孝監督、大宮ユース・村田耀)

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アビスパ福岡U-18の藤崎義孝監督

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

 勝者が勝者でいられるのは束の間であるように、敗者が敗者であるのもまた束の間のことだ。“束の間の敗者”は、次の“束の間の勝者”となるため、あるいは勝者以上に前を向き、力強い一歩を踏み出していく。

 7月23日。日本クラブユース選手権U-18大会グループステージ2日目。中国予選を勝ち抜き、初めて全国の舞台へ乗り込んできたレノファ山口U-18は大会2戦目に挑む。「1試合目はちょっと硬さがありましたけど、2試合目は硬さも取れて、最後まで判断して自分たちらしく攻められたのも良かったですね」と話したのは監督の中山元気。全国デビューとなったC大阪U-18戦の0-1という惜敗を経て、この三菱養和SCユース戦で選手たちは躍動する。

 後半9分に先制を許したものの、キャプテンの糸井岬を中心に時折カウンターから攻撃の芽を見せれば、ディフェンス陣もそれ以上の失点は許さない。ただ、1点のビハインドは重くのしかかり、終盤は追い付く気概を発しながら、そのまま0-1で試合終了のホイッスルを聞く。大会優勝経験を有する強豪に2試合続けて食い下がりながらも、共に最少得点差での敗戦。「やはりここで勝ち点を取る所の差があるとは思いますね。全体的にチャンスがない訳ではないけど、何かしらの違いがあるのかなと感じます」と中山。最終戦を待たずに、チームはグループステージでの敗退が決定した。

 試合後。グラウンド脇の駐車場に佇んでいた中山に声を掛けると、誠実な言葉でゲームを振り返っていく。「日頃できないような相手とシビアな真剣勝負の中で、自分たちの甘さや勝負の分かれ目を、選手たちには感じてもらえたかなと。最後の攻守の詰めの所。そこは勉強させてもらったかなと思います」。新たな手応えと新たな課題が交差する。

 もともと山口の出身。地元のチームを率いる意義は、間違いなく周囲も本人も感じている。「全国で戦う時に、やっぱり『関東や関西の強いヤツらと戦ってやる』という気持ちは自分が多々良(学園)にいた時もありましたし、そういう所でうまくクラブの良さと、自分が経験してきた高体連の良さも持ち合わせて、もっともっとやれたらいいですよね。僕はタレントっぽくなかったですけど(笑)、高松大樹のように根っからの点取り屋みたいなヤツもいるのでね。そういうヤツを生かすためにも、全体が守備とハードワークをするサッカーができたらなと思います」。自身より高校の同級生を立てるあたりに、中山の人柄が滲む。

 穏やかな口調が一気に熱を帯びたのは、高校年代を指導する意識を尋ねた時だった。「やっぱりもっと生徒たちを、メンタル的にも考え方的にも上に向かわせたいんです。トップチームが山口にできて、J2でああやって戦ってくれているだけに、『トップに入りたい』って思わせたいし、そこに入るためにはもっとこうならなきゃいけないということを、自分たちスタッフに言われるんじゃなくて、選手たちがもっと自分たちで思えるようにしていきたいなと思いますね」

 立ってみた晴れ舞台は、中山にとっても思う所が少なくなかったようだ。「やっぱりこういうのはいいです(笑) みんなで一生懸命準備してやってきているし、それは自分たちだけじゃなくて、相手チームも運営してくれる方もそうですし、ホテルの方もいろいろ協力してくださって、みんなで1つの大会に対して準備して戦うというのは重さが違いますよね。そこでやれるのは凄い経験だと思います」。そう話して笑ったかつてのJリーガーの精悍な顔は、明らかに指導者のそれであり、同時にサッカー少年のそれだった。

 2日後。グループステージ最終戦。山口U-18は徳島ユースに5失点を喫して敗れたものの、前半13分に下川哲矢がPKでゴールを記録した。全国大会の3試合で何とか手にした1つのゴール。この小さな一歩が、いつか振り返った時にどれだけ大きな一歩だったかを証明するため、中山と彼に率いられたチームは、維新の志士を数多く生み出した地で、既に新たなスタートを切っているはずだ。

 7月30日。日本クラブユース選手権U-18大会準決勝。クラブとしても、また九州勢としてもこの大会で初めてベスト4まで勝ち上がってきたアビスパ福岡U-18。監督の藤崎義孝も「当然目標は上位に置いていましたけど、ハッキリ言ってベスト4まで来るか、という感じでした」と表現したチームは、グループステージを堂々首位で通過すると、ラウンド16では大会2連覇中のFC東京U-18を、準々決勝では名古屋U-18をそれぞれ撃破し、西が丘の芝生を踏みしめる。

 ところが、その準決勝の前半は「まあ『ここまで硬くなるか』と。『ここまで受けに回っちゃうか』というぐらい」(藤崎)のパフォーマンスで清水ユースに押し込まれる。「ご想像通り“ゲキ”を飛ばしまして(笑)、『今までせっかくこうやって積み上げてきて、これだけみんなからも評価されているんだから、もう1回あのサッカーをやり切ろう』と話はした」指揮官の叱咤を受け、後半はペースを奪い返したものの、後半38分に背負った1点のビハインドを跳ね返せず、90分間に追加された4分も消える。未知の領域まで辿り着いた福岡U-18の冒険は、ファイナルを目前にして幕を下ろされる結果となった。

 悔しさと充実感の入り混じった表情で取材エリアに入ってきた藤崎は、「『非常にもったいなかったな』と思います」と口を開きつつ、「勝負所とかゲーム展開とかを読みながら、その時の状況に応じたプレーをちゃんとやればここまで来れることがわかったので、さらに決勝に行くとか、一番上に立つなら、もっと質を上げないといけないし、もっと武器になる要素を上げないと、とは感じました」とも続ける。この景色を体感したからこそ気付いた想いを、いつものように柔らかく、丁寧に話してくれた。

 大会序盤の話題をさらい、準々決勝まで進出した同じ九州勢の鳥栖U-18について問われても、やはり率直な表現が並ぶ。「鳥栖は個の力で一番でもおかしくないぐらいだったと思うんです。それはウチの選手自身が感じていたでしょうから、僕は必要以上にそこは煽っていないですけど、『やるなら一番上でやろうよ』『先に負けることだけはないよ』という話はしましたけどね」。

 近年における鳥栖のアカデミーの目覚ましい躍進は、福岡のアカデミーにも確実に好影響をもたらしている。「鳥栖がU-15で日本一に2回もなってくれて、僕らはどうしても“先に走っていた感”を選手たちもクラブも持っていたのが、『アレ?引っ繰り返っているぞ』と気付かされましたし、九州勢にとって経験を積みに行く場だった全国は、逆に『結果を出しに行く舞台なんだな』と僕らも選手たちも感じたので、凄く良いライバル関係になっているなとは感じますね」(藤崎)。それでも九州勢として、大会初のベスト4を福岡U-18が成し遂げたことは、『先に走っていた』彼らの意地を感じずにいられない。

「福岡に残っている他のカテゴリーのコーチたちが『U-15の選手たちが凄くこの結果に刺激を受けていますよ』と報告してくれていたので、『じゃあもっと上に行こうよ』という話にもなりましたし、実は今日社長も来ていて、『トップだけじゃなくて、アカデミーまで含めて全体で上に行くんだよ』という気概が今はクラブにあるので、それも感じてこういう結果に繋がったんじゃないかなと思いますけどね」と笑顔を見せた藤崎も、5シーズンに渡ってトップでプレーした経験を持ち、引退後もアカデミースタッフを務めてきただけに、このクラブを取り巻く環境に到来しつつある“流れ”を逃したくない雰囲気は、言葉の端々から窺えた。

 実は藤崎は鹿児島実高で名将・松澤隆司監督の薫陶を受けている。取材の終盤。そのことに水を向けられると、鍛え抜かれた薩摩隼人の顔が覗く。「その要素が僕に残っているんでしょうね。ゲームを見ていても、『もう一歩行けるだろ!』とか『最後の所は体張れるだろ!』というのはやっぱりあるので(笑) でも、本当にそういう部分じゃないかなと。1対1を剥がし切って、ちゃんと決め切った清水と、そこに付いていけなかったウチと、という所なので、そこは鍛えようと思っています」。記憶に残る“夏の始まり”を過ごした福岡U-18の選手たちが、藤崎にどこまで追い込まれて“夏の終わり”を迎えるのかは、きっと後半戦のプレミアのピッチへ如実に反映されていることだろう。

 8月1日。日本クラブユース選手権U-18大会決勝。準々決勝の鳥栖U-18戦では2点差を引っ繰り返して、準決勝の広島ユース戦でも後半アディショナルタイムに追い付き、延長後半アディショナルタイムに勝ち越して、ドラマチックにファイナルまで駆け上がってきた大宮ユース。しかし、初の日本一を目指すチームは決勝の前半、守護神の村田耀も「自分たちの入りが本当にひどかったです」と悔やんだようにギアが上がらず、12分で早くも清水ユースに先制されてしまう。

 さらに、前半終了間際にも2失点目。「ハーフタイムに自分たちで喝を入れたんですけど、その時では遅かったなと思います」とは村田。後半は惜しいシーンも創り出したものの、最後まで相手のゴールを陥れることはできず、0-2でタイムアップを迎える。準々決勝、準決勝に続く3度目の“奇跡”には手の届かなかったオレンジ軍団。ミックスゾーンに現れた村田も、「自分があのピンチを止めていれば、チームの流れは変わっていたんじゃないかなと思うし、このトーナメントは1回戦以外の試合で全部2失点して、結局フィールドのみんなに助けてもらっていたので、本当に悔しいです」と唇を噛んだ。

 その村田が大いに脚光を浴びたのは準決勝の広島ユース戦。前述した後半のアディショナルタイム。1点をリードされた状況でのラストプレー。その直前にもあったコーナーキックを「少しでも上がりたくて1回コーチに聞いたんですけど、ちょっと… 拒否られちゃって(笑)」と苦笑して明かしたゴールキーパーは、2度目のコーナーキックのチャンスで上がっていくことを許される。

 すると、高柳郁弥の蹴ったボールはバウンドして村田の足元へ。放ったシュートは相手のゴールキーパーに弾かれたものの、再び戻ってきたボールを夢中で蹴り込むと、目の前のゴールネットが揺れる。「1回シュートを放って、正面で弾かれた時に『持ってないな』と思ったんですけど、最終的に持ってましたね」と笑う村田の“左足”による劇的な同点弾。あまりのことに自らもゴール直後は「もう興奮しちゃって、『どこ回ってるんだろう?』って思っちゃって(笑)」と誰もいない方向をフラフラ彷徨ったのはご愛敬。歴史に残るゴールキーパーの“左足”による得点は、多くの人の記憶にも残るスーパーな一撃だった。

 それから2日後。改めてそのことを聞いてみると、「自分でも『本当に自分が決めたのか』という想いがありますし、『少しでもチームを救いたい』という気持ちが繋がったのかなと思っています。でも、やっぱり決められるとは思わなかったですね」。話していく内に少しずつであるが、表情に明るさが戻ってくる。

 今年の大宮ユースはキャプテンの吉永昇偉を中心に、特にチームの一体感を重視してきた。この大会は3人の3年生が負傷もあってメンバー外となったが、「その3人も含めてみんなが素晴らしい応援をしてくれたので、その人々の分まで頑張りたかったんです」と村田は話す。あの衝撃的な同点ゴールのシーン。彼が一番強く想っていたのは「3年生の最後の夏を終わらせたくない」ということだった。また、決勝進出を手繰り寄せる延長後半の勝ち越し弾をFKで叩き込んだ五百藏悠は、半年近い負傷離脱から戻ってきたばかりの3年生。タイトルには一歩及ばなかったものの、おそらくこの準優勝は彼らの一体感をより強固なものにしたはずだ。

 村田に聞いてみた。「この夏は良い思い出になるかな?」と。得点を決めたゴールキーパーとして大会の歴史にその名を刻んだ17歳は、胸を張って答えてくれた。「中学3年の時の全国大会は1回戦負けで終わってしまって、自分はピッチに立てなかったんです。だから、個人でもあのゴールがありましたし、それも含めてこの準優勝は、たぶん10年後でも、20年後でも思い出したくなるような、凄く良い思い出になったと思っています」。

 勝者が勝者でいられるのは束の間であるように、敗者が敗者であるのもまた束の間のことだ。“束の間の敗者”は、次の“束の間の勝者”となるため、あるいは勝者以上に前を向き、力強い一歩を踏み出していく。中山元気は、藤崎義孝は、村田耀は、そして彼らの選手たちや仲間たちは、明日の勝者となるために、きっと今日も夏空の下でサッカーボールと真摯に向き合っているに違いない。

■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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