beacon

誰も歩んだことのない道へ…永里優季の目指す『生き方』 #ファントムを探せ

このエントリーをはてなブックマークに追加

永里優季(シカゴ・レッドスターズ)

インタビューVOL.6 永里優季(シカゴ・レッドスターズ)

 ナイキフットボールから、新たなスパイク「PHANTOMVSN(ファントム ビジョン)」が登場した。「ファントム」とは決められた役割で動くのではなく、ゲームを掌握し、決定的な仕事をするプレーヤーのことだ。相対した選手には、まるでファントム(ゴースト)に襲われたかのような脱帽せざるをえないプレーを見せつける。そんな得体の知れない「ファントム」なプレーヤーは日本に存在するのか。はたまた現れるのか。世界の舞台を知る選手にインタビューし、「ファントムとは何か」に迫っていく。第6回はアメリカの地で戦い続ける永里優季(シカゴ・レッドスターズ)の今後について独占インタビュー。(取材日:8月22日)

――着用するスパイク「ファントム ビジョン」の印象を教えてほしい。
「正直、初めて一回も靴擦れをしなかったスパイクです。いつも何度も調整をしてもらっていたんですが、今回はすごくスムーズで、一番足にフィットしました。履いている感覚があまりなくて、軽いし、薄いし、足首の締め付けもありません」

――足首のニットが影響しているのか。
「そうですね。これまでのスパイクは足首がホールドされている感じが大きかったんですが、ファントム ビジョンはスパイクと足首が分離されていて、タイトすぎず、高さがそれほどないので違和感がありません。
また、紐が中に全部入っていることもフィット感を出してくれています。タイトなのが好きなので、紐が外にあるとついキツく絞ってしまうんですが、ファントムビジョンはそれがない。普段は足裏が疲れちゃうんですが、今回は軽減されている感じもあります」

――キックの時の感触も違う?
「違いますね。シュートは内側で蹴るので紐はあまり関係ないですが、無回転のボールが蹴りやすいと感じています」

――「無回転」は永里選手の代名詞だが、スパイクでどういった影響がある?
「グリップの感覚ですかね。ボールをキャッチするところの摩擦、抵抗があって、スパイクがキャッチしてくれる時間が長いんだと思います」

――色にもこだわりが?
「白があまり好きじゃないんです。明るい色だとどうしても気になっちゃうんですよ。何かチカチカしちゃって(笑)。今回はグレーと赤なので、気になりません。ダークな色が好きですね」

――「ファントム」には「試合の流れを変えるプレーヤー」というメッセージが込められているが、永里選手のイメージにピッタリでは?
「そう言われることは多いですが、自分自身で自覚しているかと言ったらそれは分かりません(笑)。ただ、途中から入って流れを変えるという点では、アメリカに来てからもよく「change the game(試合を一変させろる)」と言われます。流れを読んで流れを変えるというのは、自分の中でも特筆している部分でもありますね。
また、今年に入ってからは流れを意識的に感じ取れるようになってきました。それは良い意味でも、悪い意味でも。良い流れの時は得点しそう、悪い流れの時は失点しそうって、感覚的に感じられるようになっています。なので『ファントム』には合っているのかなって思います。自分で言っちゃいましたが(笑)」

――そんな永里選手から見て、今まで出会った最高の『ファントム』は?
「アメリカ代表のトビン・ヒース(ポートランド・ソーンズ)ですね。ナイキの契約選手です(笑)。主に左サイドが主戦場ですが、アメリカ人らしからぬボールタッチや持ち方をします。柔らかく、繊細かつダイナミックで、ドリブルでのしかけ方が男子の選手のようです。
アメリカ代表は彼女がいるかどうかで全然違います。でも、よく怪我をするので、代表には選ばれたり選ばれなかったりする状態です。彼女がいるときといないときではゲームの展開が違います」

――男子のW杯で気になった選手は?
「前回とは違ってセットプレーのカウンターで点を取る大会だったので、その点ではフランス代表のムバッペ(キリアン・ムバッペ)ですよね。ああいった選手がすごく気になりました。全体的に言っても、縦に速い選手がいないチームが負けていましたよね。スペインにしても、ドイツにしても、ブラジルにしても。アルゼンチンもそうでした。
その一方で、カウンターの強いチームが強かった印象があります。ベルギーにしても、クロアチアにしても。男子の試合を見る時は『チームとしてどういう試合をしていて、どういうチームが結果を出しているか』を見るのが好きなんですよ。選手個人を見ることはあまりありません」

――チームの雰囲気が大事?
「チーム全体のことを把握していないと流れも分からないし、どういう選手が流れを変えているかも分からないと思います」

――これまでドイツ、イングランド、アメリカでプレーしてきたが、「流れを変える」秘訣はあるか?
「私が必要だと思うのは確率論です。『どれくらいの頻度でどこにボールが来そうか』というのを見ています。試合によって流れがあるし、選手のコンディションはバラバラです。そこでどの選手が調子が良くて、どの選手がフィニッシュに絡み、どの選手がラストパスを出せるかというのを見て、そういう選手に対してアプローチをかけていく、引き出す、そうして信頼関係をつくることですね。あとは不規則なボール、予測できない五分五分のボールやクリアボールをマイボールにしていくこと。そうすれば自然に流れが変わっていくものだと思います」

――マイボールにするのは永里選手の強みだが。
「あとはワンタッチのプレーですね。女子はワンタッチでプレーする選手が少ないんですよ。特にファイナルサードでは次のプレーを考えている選手が少なくて、ワンタッチ目で考えてツータッチ目でパスを出すような選手が多いので、そこで変化をつけられるのが自分の特長だと思います」

――そこで永里選手がいると、流れが変えられると。
「ワンタッチで危険なエリアに入れたりとか、味方の動きを見ないで入れたりとかは考えたりしています。あとは適応力ですよね(笑)」

――チームにはどう適応していくタイプ?
「言葉はある程度使って、それ以外でピッチの上で信頼関係を築いて適応していくタイプです。言葉で説明したところで実際には動けないというパターンが結構あるので、味方が動ける範囲の中で自分がスタイルを変えていきます。味方ができることやできないことはプレーしていれば分かるので、味方に要求していくというより、できるところを見つけて自分を変化させて、合わせていくほうが、適応スピードは早いですよね」

――そういった適応力こそ、現在のなでしこジャパンに必要なものでは?
「2年前は自分からクラブチームに集中したいと言ったんですが、いまは自分が入れば変化をつけられるかもしれないし、選手の良さをもっと生かしてあげられるかもしれないという思いはあります。みんなもっと自分のプレーを出したい、点を取りたいという思いはあって、誰かに生かされるタイプの選手が多いので、生かしてあげられる選手が少ない。そういったプレーをしてあげる選手が増えればもっと良くなるのではと思っています」

――2016年に代表入りを辞退した時とはコンディションもメンタリティーも異なるだろうが、代表への思いは変化したか?
「代表でやっていた時に一緒に戦っていた仲間がまだやっているし、そういった選手たちともコンタクトを取っているけど、以前とは代表への思いが180度と言って良いくらい変わっていると思います。もちろん、国を代表して戦えるのは誇りに思うし、素晴らしいと思う。ただ、自分に必要なのは『チームや仲間の為に力になりたい』というところ。人が環境をつくるので、共通の思い、共通の目的を持って戦っている仲間が必要としてくれていて、その力になれるなら、なりたいという思いはあります」

――自らの“チーム観”とも共通している?
「そうですね。自分がオリンピックに出たいとか、W杯で優勝したいとかはぶっちゃけどうでも良くって、そういう思いを持った人たちの力になりたいというのが戦う理由になっているなと思います」

――2011年のW杯制覇はそんな思いを共有していた印象があった。
「それは大きかったと思います。その後も『女子サッカーを大きくするためにやろう』という人たちがたくさんいましたし、危機感というか『負けられない』『勝ち続けないといけない』という思いを持ってやってきたからこそ、ギリギリ次のW杯でもなんとか決勝まで行けたんだと思います」

――“ヤングなでしこ”がU-20W杯で初めて決勝に進んだ。それはどういう見方をしている? ※8月24日に優勝を決めた
「実は全試合観ているんですが、成熟度の高いチームになっている印象が強いです。各ポジションの選手が役割を把握しているし、監督のマネジメントがいいのか、選手の能力が高いのか、持ち場で自分の仕事ができるような組織の作り方をしている。それぞれがそれぞれの良さを出せていて、そのバランスがすごく良いんですよ。
 もちろんフィジカルの面では差はあって、アメリカ戦では押し込まれていたけど、ミラクルなゴールが決まって勝った部分はあった。その部分での差はやっぱりあると思います。ただ、U-20だとそこまでは差が出ない。技術と賢さとチームとしての戦略、戦術は日本が上回っていた。技術のレベル、「止める・蹴る」の技術も高いので、他の国とは全然違ったと思います。優勝してほしいですね」

――海外の国々でプレーしていると、日本の課題にも気がつくのでは?
「アメリカに来て感じたんですが、カウンターサッカーに適応できないと自分のポジションは確保できないと思います。攻撃でも守備でも縦に速いので、ほぼトランジションゲームになります。毎週インターナショナルマッチをしている感じなんですよ。
ヨーロッパにいた時とも全然違うというか、ヨーロッパは上と下がハッキリしていたんですが、アメリカだとどのチームも同じようなレベルです。どのチームとやっても僅差のゲームになるし、バチバチ当たり合って、スピードもついていかないといけないので、3日間くらい疲れが取れません(笑)。ただ、フルシーズン戦うのは今年が1年目なので、やっと慣れてきたかなとは思います。
日本の女子の弱点は、U-20年代を見ていても思ったんですが、特に低い位置からのカウンターがあまりうまくできないところですね。ボールを持って崩して……というのはすごくいいけど、奪ってからのカウンターはほとんど見ていない。世界のサッカーは男子を見ていてもそういうふうになっていて、それが今後の日本の課題だと思います」

――そういった実感は永里選手がなでしこジャパンに入れば伝えられる点だと思うが。
「ただ、自分の思いがちゃんとなかったらそこに戻る権利もないし、もちろんチームでの結果も関係あるけど、もう一度監督から選んでもらえる立場になりたいと伝えることもできないと思う。そこは自分との折り合いの付け方、自分自身の問題ですね。自分が目的、目標、思いを見つけられないとそこに戻る権利はない。ですが、最近になってそれが見つかったような気がしています。この2年間で、心理的にもの凄く変化しました」

――では、現在の目標はどういったものか?
「まだいろんな国でサッカーをしたいという思いがあります。いろんなサッカーを見たいし、吸収したい。環境を変えないと自分の成長は止まってしまうし、同じサッカーに慣れてしまうと、そこでのやり方がしみついてしまう。そのスタイルでしかプレーできなくなって、制限されてしまう部分がある。
たとえば今のチームはカウンターと連続した攻撃を重視するチームで、やっとその中で自分の力を発揮する方法がわかってきて、結果にも結びついてきている。ですが、どうしても結果が出てしまうと、安定が出てしまう。それが自分の中で嫌な感覚なんですよ。結果が出てしまうと」

――結果が出ることでは満足ができない?
「難しいんですけど、結果が出ちゃうと、『次に行かないと』と思ってしまうんですね。正解を出してしまったわけですから。次なる問いを求めて、違う環境に行って、違う答えを求めるという作業が自分のサッカー人生での唯一の楽しみでもあります。
結果を出すまでの過程が一番面白いんです。私は圧倒的な身体能力があるわけじゃないので、いかにチームに自分をフィットさせて、チームを機能させて、周りの選手の能力を生かして、自分が点を取るという方向に持っていかないといけない。そこが自分がサッカーをしていくための目標であって、課題にしているところです。
なので、いろんなスタイルを経験したいというのを目標にしています。いろんな世界のサッカーを経験すれば、伝えられることも広がってくるし、(自分の能力の)分母を広げたいという思いもあります。分母が増えれば起こってくる現象も違うし、目の前の情報も増えるし、伝えられるものも増えるし、分析も細かくできると思う。その辺が自分のサッカー人生の生き方かなと思います」

――となると、指導者が次なるステージなのか?
「指導者はまだ考えていないですね。パフォーマンスをすること、表現することが好きなので、今後何になるかは今はちょっと見えてこないです」

――目指す道はハッキリしているが、それを指す職業がないという心境か。
「そうだと思います。パフォーマンスができて、分析もできる、その職業が見当たらないですよね。また、何かを通して自分を表現できればいいと思っているので、パフォーマンスをする手段もサッカーにこだわっているわけではないんです。表現すること辞退が言語を超えて世界と自分とをつなぐ手段になりますから。そこに魅力を感じているので、何かを通して表現し続けたいと思っています」

――そういった今までにロールモデルがいないことをやっていくのも『ファントム』ということですね。
「全部つながっていくと思います」

 現在、ナイキジャパンフットボールTwitter公式アカウントにて「ファントム」プレーヤーの目撃情報を集めている。「こいつはファントムだ!」と思う近くのプレーヤーがいれば、ぜひ推薦してほしい。ゲキサカでは今後も様々なプレーヤーにインタビューし、「ファントムとは何か」に迫っていく。

★ナイキ公式「#ファントムを探せ」の詳細はこちら
http://gonike.me/phantom_vol6


▼VOL.7 東海学園大FW榎本大輝インタビュー近日公開予定
▼VOL.5 川端暁彦氏コラム「昌平高FW須藤直輝(1年)」
▼VOL.4 吉田太郎コラム「山梨学院高FW宮崎純真(3年)」
▼VOL.3 鹿島アントラーズFW安部裕葵 インタビュー
▼VOL.2 市立船橋高FW井上怜(3年)インタビュー
▼VOL.1 桐光学園高FW西川潤(2年)インタビュー

TOP