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子供を守り、ニッポンも守る。ブラサカ日本代表の最後の砦、GK佐藤が死守したいもの

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佐藤大介は身長170㎝。他のGKより体が小さくても俊敏性が抜群だ

ブラサカ日本代表合宿が9日まで2日間、千葉県内で行われた。8月の南米遠征では世界ランク1、2位のブラジル、アルゼンチン代表に4試合して2敗2分け。勝利できない厳しい現実を痛感しながらも、今までは必ず失点していた難敵を2度完封した。GK佐藤大介は、ある特別な思いを秘めて合宿にのぞんでいた。

「僕は2年後の東京五輪パラリンピックで、この人たち(自分以外のフィールドプレーヤー)を表彰台にあげてあげたい。それは、『自分が表彰台にあがりたい』という気持ち以上のものです。これまで、パラリンピックに行けなかった悔しいときを一緒に過ごしてきました。目が悪かったり、いろんな苦労を抱えてそれでも自分で努力をして、職場の理解を得ながら頑張ってきてますから」

 2009年から日本代表に選ばれた佐藤は、2012年のロンドン五輪、2016年のリオデジャネイロ五輪と2度、涙を飲んだ。リオ五輪の出場権がかかった2015年のアジア選手権で、当時の代表チームの最終戦となった3-4位決定戦で、韓国にPKで敗れた。「せめて勝って終わりたい」という気持ちが強かった佐藤はチームを勝利に導けなかったふがいなさから、芝生に突っ伏して泣き続けたという。当時からFP川村怜黒田智成など主力の大半が残っており、8月の南米遠征での日本代表の戦いぶりは大きな進歩だが、当時の悔しさを知る佐藤は今回の合宿がはじまる前に「チーム内で楽しくやろうではなく、いい意味の競争しよう」と選手の気持ちを鼓舞した。

 佐藤が他人を深く思いやれるのは、普段の仕事内容と無関係ではない。知的障がい児と7年間向き合った後、3年前から横浜市内の児童相談所で働いている。

「結局、ここ(ピッチ)でやっていることとリンクしています。子供たちに何を伝えるか。どう接すれば子供たちに理解するように伝えられるか。子供たちの様子を見て察することは、『今、この選手、こういう気持ちなんだろうな』と考えて指示を出すことに通じる部分がある。仕事から得られるものは、大きいですね」

 晴眼者の佐藤は、日本代表の高田敏志監督から「GKはピッチの中の監督にならないといけない」と言われている。佐藤の声で、選手が自分の位置や状況を把握し、次のプレーを起こす判断材料になる。子供に接するような繊細さと気配りが行き届いた指示が、ブラインドサッカーのGKには不可欠なのだ。

 16日には東日本リーグ第2節がある。所属するたまハッサーズはDerroto Saber茨城と対戦するが、「まだ(試合に)出られる、とは言えません。今の仕事は土曜日、日曜日は関係ありませんし、この合宿も職場の許可をいただけたから来ることができたんです」

 どこにいようが、目の前の人間を守るために求められる役割に全力を尽くす。佐藤が死守したいのは、その熱い使命感に他ならない。

(取材・文 林健太郎) 

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