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望まぬ改革迫られたレアル・マドリー…ロペテギを襲う“CL4連覇”の重圧

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望まぬ改革迫られたレアル・マドリー

 勝利のサイクルの頂点にいる巨大なスポーツクラブは、通常改革を苦にしないものである。しかし、レアル・マドリーはそういったクラブとも一線を画す。ロス・ブランコス(レアルの愛称)は世界最大で最高のフットボールクラブであり、凄まじい速さでチームを再編成できるという特権を持つのである。

 それゆえ、5月26日に3年連続でヨーロッパチャンピオンに輝いたチームと、2018-19シーズンを戦うチームを並列で語るべきではない。ジネディーヌ・ジダン前監督が突然チームに「アディオス(さよならの意)」を告げたことで緊急の後任探しを余儀なくされたクラブは、ワールドカップが開幕する1週間前というタイミングで当時代表を率いていたフレン・ロペテギにオファーを出し、それによってスペインサッカー連盟と対立した。また、通常チャンピオンズリーグ(CL)の栄光がビッグネームを引きつけるのにも関わらず、これまでチームを支えてきたスターが次々と退団を希望するという、過去にもほとんど聞いたことがない事態に巻き込まれた。

 皮切りはFWクリスティアーノ・ロナウドで、それにMFルカ・モドリッチ、MFマテオ・コバチッチが続いた。C・ロナウドはリバプールとのCL決勝の後にレアルでのサイクルが終焉したことを仄めかしていたが、それは例年のようなハッタリではなく、現実となった。2年間溜めてきた退団の意思をついに実行に移したといえる。モドリッチはワールドカップでMVPを受賞したことを武器に報酬アップを望み、スペイン国外での巨額契約にも関心を示した。インテルへの移籍が噂される中、アメリカにいたフロレンティーノ・ペレス会長はモドリッチの退団はないと毎日のように主張し、今夏の残留は決定した。しかし、マドリディスタの間に生まれた不信感が完全に消え去ることはないだろう。

 W杯が終われば素早くスターを獲得するのがレアルの常だったが、今年はFWネイマールのような目玉補強(マドリー側はネイマールのことを今も忘れてはいないだろうが)もなく、フロレンティーノ・ペレスが好む選手を加入させてもいない。2014年にはMFハメス・ロドリゲスを獲得したが、今年はFWキリアン・ムバッペの獲得を試みることすらできなかった。ネイマールもムバッペもパリSGの船を下りることはなく、FWエデン・アザールやFWハリー・ケインも、この白いクラブを強く動かすことはなかったようだ。唯一、この夏加入したGKティボー・クルトワだけが、2015年のGKダビド・デ・ヘアや半年前のGKケパ・アリサバルガといったGK獲得騒動を生き延びてきたGKケイラー・ナバスの立場を複雑なものにしている。ナバスがプレシーズンのマイアミで見せた悲しげな表情は、ポジションを失いかけていることへの失望を物語っていた。

 一般的に考えれば、レアルはリーガのタイトルを捨ててCLにすべてを賭けるという戦い方を脱したいはずである。昨シーズンのラ・リーガではバルセロナに0-3で敗れた12月の時点で、前年のタイトルを守る責務を早々に放棄せざるをえなくなった。この事態はまずジダンにダメージを与え、続いてコパ・デル・レイでの失態をもたらした。ブタルケ(レガネスとの準々決勝ファーストレグが行われた街)の地で、ジダンはレアルの監督として初めて苦い顔でメディア対応に臨んだ。それは、キエフでチャンピオンズリーグを制覇したものの、その後退団を決意した後に見せた表情と同じだった。ジダンは記者会見の席で「我々には新たな秩序が必要だ」と、がっくりと肩を落とすペレス会長を横目に述べている。

 ロペテギのもと、新たなチーム像は徐々に見えてきている。

 タッチプレーや激しいプレッシングがレアルを魅力的で効果的なチームにしている。2017-18シーズンに44得点を挙げたC・ロナウドの代役として、FWガレス・ベイルが新プロジェクトのリーダー役を務めているが、2週間のプレシーズン中、ベイルは過去4年間のうちで見せたことのないほど多くの笑顔を浮かべていた。ロペテギはアメリカでの最初のトレーニングからベイルに前線で完全なる自由を与えてテストにかけたが、この新リーダーはインターナショナルコンチネンタルカップのユベントス戦とローマ戦で、ゴールという形で監督の期待に応えてみせた。さらに、ここまでリーガ第3節終了時点で3ゴールを記録。早くも今夏去っていったエースを忘れさせる存在感を放っている。

 MFマルコ・アセンシオが新たに偽9番の役割に就く一方で、監督は若きタレントのFWビニシウス・ジュニオールに喜びを感じている。「将来スターになる雰囲気を備えている」とクラブから評されるこのブラジル人は、まだ18歳になったばかりにも関わらず素晴らしいテクニックを持ち、4500万ユーロという移籍金でクラブに加入した。MFイスコとMFダニ・セバージョスも新監督の下では重要な選手となるだろうし、DFアルバロ・オドリオソラ(移籍金4000万ユーロ)は、ドイツへと送り出したいDFアクラフ・ハキミに代わって、DFダニエル・カルバハルとポジションを争うことになるだろう。さらにロペテギは、ソシエダにレンタルで放出したDFテオ・エルナンデスの代役として、カンテラーノであるセルヒオ・レギロンを昇格させている。

 だが、ロペテギはシーズン序盤で好印象を残すことには失敗した。8月15日のUEFAスーパーカップで同都市のライバル、アトレティコ・マドリーに延長戦の末2-4と敗戦。さらにリーガ第2節で、後半開始15分で途中交代を告げられたチームの重鎮マルセロは「びっくりした。理解できるかと言われたら理解できない」と不満を表明。クラブ幹部、指揮官、そしてチームの非スペイン組の歯車はすでに軋んでいるとも言われている。絶対的なカリスマを持っていた前任者、ジダンとは“違う”という感覚が選手たちの頭から離れていないのだろう。

 就任に半信半疑だったマドリディスタの心は、直近のプレー内容から徐々に掴みつつある。しかし、欧州王者から陥落するようなことがれば、そのファンも離れていってしまうだろう。

 ヨーロッパ、そしてクラブワールドカップの王者であるレアルは、歴史に残る点取り屋とCL3連覇を達成した監督を同時に失うというトラウマ的な経験を乗り越えなくてはならない状況にある。しかし、チームに与えた変化はほんの僅か。気が短いペレスのことだ。今季リーガのタイトルを逃し、欧州王者からも陥落すれば、容赦なくロペテギをクビにする可能性も高い。

 ロペテギは、かつてロス・ブランコスの指揮官が味わったことのない重圧にさらされている。ここまで3年連続でビッグイヤーを掲げており、もはやシーズン終了後に本拠地サンチャゴ・ベルナベウでセレモニーを行うのは恒例となった。しかし、その“当たり前”がロペテギを苦しめる。世界中の誰もが羨むビッグイヤー。しかし、彼にとっては人生で最も巨大なプレッシャーを感じるものとなった。

文=フォルハネス・フェルナンデス(Forjanes Fernandez)、『アス』レアル・マドリー番
協力=江間慎一郎

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