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[スペシャルオリンピックス日本]「世界のトヨタ」の社長も観戦!心臓病と戦う北本の5発でSON・熊本が優勝 

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北本藍人(中央)は果敢にシュートを打った

[9.24 スペシャルオリンピックス愛知大会 決勝 熊本 14-0 愛知B トヨタスポーツセンター]
 パスを受け、チャンスと見たら、力いっぱい左足を振りぬいた。SON(スペシャルオリンピックス日本)・熊本の前線を担った北本藍人がチームの全14得点のうち、5発決め、優勝に大きく貢献。試合後、北本は全身を使って喜びを爆発させた。

「決められてうれしい。ゴールとれるように、パスをもらえる位置にいました。メダルですか? かなり重いです。家に飾っておきます」

 スタンドには、オフィシャルスポンサーのトヨタ自動車・豊田章男社長が、多忙の合間を縫って姿を見せた決戦。北本は前線の中央よりやや右サイドにいて、パスを受けたら中に切り込む。その鋭い動きに愛知Bの選手がついていけなくなった。後半になっても北本の切り返しは健在。スタンドに観戦に訪れた母・恵美子さんは息子の雄姿を見ながら、こう明かした。

「ああ見えても実は心臓病を抱えています。ただ運動制限はありません。今でも3か月に1度、薬をもらいに病院に行きます」

 生まれたときはわからなかったが、発達面で他の子たちより遅れをとった。2歳のときに心臓の異常がわかり、手術。幸い運動制限はなく、もし異常を感じたら自ら訴えるようにしているが、場合によっては再び治療を受けなければいけない。心臓病と知的障がいの直接的な因果関係は今でもわからないままで、そんな不安を常に抱えながら精いっぱい生きてきた。

「たとえば小、中学生が運動会で取り組む華のある団体競技も、はぐれてしまうかな、と思っていたら、周りの方のサポートもあって、はぐれずにできていた。そうやって頑張って成長する彼の姿を見ると、そのたびに励みになりました」(恵美子さん)

 息子の頑張りに母も刺激され、最近フルマラソンをはじめた。完走後、電話で話すと、北本は「大丈夫だった? 頑張ったね」と母をねぎらう。高校を卒業し、社会人3年目の21歳の北本は母の完走を祝って、その日の夕飯をご馳走してくれた。

「小さい頃から『周りのサポートがあって自分は大きくなっている』ということがわかっていると思う。だから他の人に対してもすごく優しい。今日は勝ったら私がご馳走する約束をしています」(恵美子さん)

 サッカーをはじめた当初は体力がなく、「ゴール前で待っていればいい」と言われた北本が、仕事をはじめ、体力を培い、自らゴールを奪うまでに成長した。表彰式後、スタンドで親子で金メダルの重みを感じた。一番輝き、一番重い金メダルは、不安と隣り合わせで奮闘してきた2人の生き様に対して与えられたに違いない。

(取材・文 林健太郎)

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