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[スペシャルオリンピックス]「頑張りましょう!」。埼玉・小野寺が敵味方関係なく手を差し伸べた、本当の理由

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小野寺陽成(左)は負傷した相手選手のもとに駆け寄り、肩を貸した

[9.24 スペシャルオリンピックス愛知大会 3位決定戦 埼玉 14-0 愛知A トヨタスポーツセンター]

 ゴールをするたびに、空に向かって両手をつきあげた。6ゴールをあげたSON(スペシャルオリンピックス日本)埼玉の小野寺陽成(あきなり)は試合後、声を上ずらせた。

「今大会の目標は30ゴール。そのぐらいの気持ちでした。でも昨日(23日)は決められなくて。今朝(24日)、ヘッドコーチ(久保昌隆氏)に聞かれたので『6ゴールする』と言ったら、本当にその通りになりました」

 チームの半分近いゴールを奪った小野寺のハートは、とてもやさしい。SON・埼玉は前半だけで8得点。大差がつき、試合中から悔しくて泣き崩れる相手選手を見るとすぐに駆け寄った。さらに後半、ある相手選手が負傷すると、小野寺は味方選手のように小走りで近づき、ピッチ外に一時退場するまで肩を貸した。スタンドで観戦していた母・千絵さんはこう明かす。

「もともとの性格もあると思います。泣いている子をみていると放っておけない子なんです。ただ自分も小さい頃は周りの方からやっていただいた立場にいたので、今は恩返しの気持ちもこめて、助けるようにしているんじゃないかなと思います」

6得点あげた小野寺(左端)

 小野寺が苦しんでいる人にさりげなく手を差し伸べられるようになるまで、千絵さんは苦労が絶えなかった。小さい頃は体が弱く、「『息が止まっちゃったらいやだ』と考えて、ずっと電気をつけて寝ていた時期もあります」(千絵さん)。

 小野寺が好きなサッカーをやらせたいと考え、健常者と同じチームに入れてはみたが、レベルの差を痛感し、面白さを感じられなくなる息子を見ることがつらかった。そこでネット検索で探し当てたのが、スペシャルオリンピックス(SO)だった。

「一番よかったのは、チーム内での規律を覚え、先輩の存在も意識し、社会性が身についたことです。SOは年齢層の幅が広く、年上の方が多いので『この時期にどんなことをしましたか?』という質問もできる。将来像が見えやすいのがよかったです」(千絵さん)

 チーム最年少の17歳の小野寺は、上尾市かしの木特別支援学校の2年生。今まさに、将来の進路に頭を悩ませている。チームにいる最年長の30歳の社会人も、きっとよき相談相手になる。それは学校単位の部活や、年齢層が近いクラブでは実現しづらい。知的障がいを持つ人が「社会で生きていけるだろうか」という不安より、「こんなことができるかもしれない」という希望を心に灯せることも、SOの存在意義のひとつなのかもしれない。

(取材・文 林健太郎)

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