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播戸竜二がもたらした“化学反応”…FC琉球を栄冠へと導いた功績

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FC琉球に意識改革をもたらしたFW播戸竜二

[11.3 J3第30節 琉球4-2群馬 タピスタ]

 第17節の藤枝戦以降、首位の座は揺るぐことがなかった。3日の群馬戦で4-2で勝利し勝ち点を63に伸ばしたFC琉球は、残り3試合を残してJ3リーグ史上最速優勝、そして創設15年で初となるJ2昇格を決めた。

 金鍾成監督が2016年就任当時から掲げていたコンセプトは「3-1で勝つサッカー」。失点を覚悟してでも前がかりな姿勢で得点を奪いにいくというそのスタイルは他のチームの驚異となり、総得点数(11月4日時点)64は2位の鳥取に11点差をつけている。

 また今節の群馬戦を含め、琉球が1試合で4ゴール以上をマークしたのは7試合にのぼり、その中には鹿児島や沼津といったJ3リーグ上位に名を連ねるチームも含まれている。昇格と優勝を争う相手の勢いを削ぐ攻撃力は、J3リーグ最強の矛と言う名にふさわしい形を示した。

 『95年組』と呼ばれる今年Jデビューした大卒ルーキーと、J3リーグが導入された2014年からプレーするGK朴一圭、MF富所悠、MF枝本雄一郎といった経験値豊かな選手が融合した琉球だが、その上で大きな存在となったのがFW播戸竜二である。

 『黄金世代』と呼ばれた79年組の一人として実績を残す播戸は、G大阪を皮切りに札幌、神戸、C大阪、鳥栖と渡り歩き、2015年には大宮のJ1復帰に貢献する。しかし昨シーズンは負傷の影響でルヴァン杯3試合の出場に留まり、昨年末に契約満了で退団。一時は引退の方向に気持ちが傾きかけていたが、琉球の倉林啓士郎社長から「力を貸してほしい」と直々の願いを受け取ったことで、選手として戦い続けることを決めた。

 チームをJ2に上げる使命を託された播戸は、選手との初めての顔合わせの時「チームの目標としてJ2昇格というものがあると思うが、ここにいるみんなとJ3リーグ優勝という経験を味わいたい」という強い意志を伝えた。優勝経験の少ない選手が揃う琉球においてこの播戸の言葉は初めこそ実感が持てなかったものの、長年培ってきた経験と技術を若い選手たちに惜しげもなく伝え続ける播戸の姿に次第に心を引き寄せられ自信も植え付けられていき、昇格という妥協点から優勝という強い意識が、チーム全体に広がっていくようになった。

「自分ができることをしっかりしようと思ったし、プレーという意味では若手もベテランも関係ない。怪我なく一年間を通して戦えることを意識し、自分ができることをしっかりやって示すことが重要だと思った。若い選手にはJ3というステージで結果を残していけばさらに上を目指せるんだということを伝えてきたし、だからこそ優勝を達成してJ3チャンピオンとしてJ2に行こうと話しをしてきた」

「その中で選手全員が目標を持ちレベルアップしていると実感していますし、それが結果にも繋がっている。自分のキャリアがあとどのくらいあるか分からないですが、優勝という経験は人生で何度も経験できるものではない。一瞬一瞬を楽しんでいこうという気持ちでプレーしてきたつもりです」

 播戸の加入がチームに化学変化を起こさせたことは間違いない。絶対に妥協しない真面目な性格だからこそ飛ばし続けた強い檄。播戸はプロとしての姿勢を常に選手の間近で示してきた。抱えていた怪我も回復し、チーム専属のフィジカルコーチの指導により体にキレも徐々に取り戻してきた播戸は、これまで先発5試合を含む24試合に出場。2ゴールをマークし存在感を示している。

J3優勝シャーレを掲げる播戸竜二


 チームが強くなっていく一方で播戸にはもうひとつの使命が与えられていた。それは倉林社長も常に口にする「地域密着」を植え付けるということだった。

「今年の1月に沖縄に来たとき、地元の人や僕の知り合いにFC琉球について聞くと、名前は聞いたことあるが試合は見たことがないという人がたくさんいた。そういう中で僕に課せられたチャレンジは沖縄を盛り上げるということでした。そうなるために僕が思ったのは、一つひとつの試合を勝ち続け、沖縄県民と一緒に優勝という物語を見ようというものでした。今後、沖縄のサッカーを根付かせるためには勝つことが絶対重要だと思ってましたし、その積み重ねでJ3優勝ができた」

「おかげでメディアの方々もたくさん来るようになって、みなさんが見ている前で良いプレーをし、勝った試合が情報として流れていけばチームはもっと応援してくれる存在になると思う。J3優勝は沖縄のサッカーが根付く上での始まりであり、その後J2でどれだけできるか、そしてJ1に行けるチームとなれるか。J1で優勝できるクラブを作り上げるという気持ちを強く持ち続けて、沖縄県民の誇りとなるチームになってほしいですし、そうなるように僕らはこれからも走り続けていかなければと思っています」

「プロとは」という形を示し続けた播戸は、選手と沖縄に不足していたサッカーのエネルギーを注入し続けたことで大きな相乗効果をもたらした。闘争心と骨太の精神力を植え付けられた琉球の選手たちは2019年、いよいよJ2の舞台に立つ。

(取材・文 仲本兼進)
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