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松本監督が指揮官として“最後の選手権”。久御山は準々決勝敗退も、久御山らしくスタイル貫く

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久御山高の松本悟監督

[11.3 選手権京都府予選準々決勝 東山高 1-0 久御山高 京都府立山城総合運動公園陸上競技場]

 10年度の選手権準優勝など近年の久御山高の躍進は、この男抜きには語れない。『久御山サッカー部といえば松本監督』というイメージすらある。その松本悟監督が今年度で教員として定年を迎えることになり、「若い指導者が出てきている。彼らの芽を摘みたくない」と監督からも退くことを決意した。指揮官として挑む最後の選手権は3回戦と4回戦を順当に勝ち進み、準々決勝で東山高と対戦。敵将に「魂があった。後半はうちが圧倒された」(福重良一監督)というゲームを優勝候補相手に演じてみせたが、序盤の失点を取り返せずに惜しくもベスト8敗退となった。

 試合後、泣き崩れる選手たちとは対照的に、指揮官の目に涙はない。負けたら終わり、その覚悟はできていたからだ。取材対応でも「相手選手が痛んでいたので、カウンターに行ける場面でボールを外に出した場面があったでしょう。あいつらカッコええな、と思った。俺なら出さない(笑)」と松本節は全開だった。

「前半途中まではパスを送る先が“前か、後か”の選択で後を選びがちだった。後半は自分たちのやれるプレーを信じて、前向きの状況を作り出せた」。試合には負けたが、久御山スタイルを貫いた上での敗戦を、監督も選手もしっかり受け入れていた。主将のDF丸井秀道(3年)は「この試合が3年間で一番楽しかった。全国ベスト4を相手に先制されても立て直して、自分たちらしく攻めれた。ワクワクしながら戦えました」と悔しさの中に笑顔を見せている。

 久御山はひたむきに技術と駆け引きを磨いてきた。でこぼこの土のグラウンドでは、いつも選手が楽しそうにゲーム形式を繰り広げている。「サッカーとしては難しいことをやらせている。付き合う選手は大変かもしれないが、これからも粋に感じてやって欲しい」と今後に思いを馳せる。ショートパスとドリブルを駆使するスタイルに強いこだわりを持ちつつ、選手の個性によってはロングボールを容認した年もあった。共通して目指したのは止める・蹴る・動くのレベルを上げること、相手の逆を突く選択を持つことだ。

その指導で多くの選手が育ってきた。この日、対戦した東山高の福重良一監督が「いつも思うんです。どうすれば3年間であれだけ選手が成長するのか、って。森岡亮太(アンデルレヒト)をはじめ、相手にとって嫌な選手が、金太郎飴にならない選手が育ってくる」と語れば、これまで名勝負を演じてきた京都橘の米澤一成監督も「もし同じ選手、同じチームを持ったら勝てない。久御山が第89回大会で全国準優勝して『自分たちもやれる』と京都の指導者や選手は感じられた。歴史を変えた、ランドマークになってくれた存在」とその手腕を賞賛している。

 教職は今年度限りで退くが、チームには外部コーチとして残ることが濃厚だ。久御山は一般的な公立高校で、入部希望者を全員受け入れているサッカー部は部員数が150名を超える大所帯。それ故に「これまで全員をしっかり指導しきれていない部分があった。これからは主に1~2年生を教えて、いい選手を新しい監督やコーチに預けたい」(松本監督)と話す。長い年月をかけて築きあげてきたスタイルだけに、新体制となるチームが“松本コーチ”のサポートを必要とする状況はあるだろう。

「まだまだ勉強中です。来年からはチームの4番目か5番目のコーチとして、がんばります!」。老いてなお盛んとはこのことだ。指導者としての松本悟は、これからも続く。

(取材・文 雨堤俊祐)
●【特設】高校選手権2018

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