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伝統校の意地…岐阜工が元Jリーガー監督のもと『堅守速攻』に磨きかけて4年ぶりV:岐阜

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岐阜工高が4年ぶり全国へ

[11.10 選手権岐阜県予選決勝 中京学院大中京高1-2岐阜工高 長良川]

 やはり伝統校の意地は凄まじかった。第97回全国高校サッカー選手岐阜県予選決勝は、岐阜工高が昨年度王者であり、今年のインターハイ出場校でもある中京学院大中京高を2-1で下し、4年ぶり26回目の選手権出場を決めた。

 かつて岐阜県の盟主として君臨し、選手権準優勝1回、インハイ準優勝1回を誇る名門・岐阜工は近年、帝京大可児高、中京学院大中京など私立校の台頭により、苦難の時代を過ごしていた。2015年度のインハイを最後に全国大会から遠ざかり、今年のインハイ予選でも準決勝で中京学院大中京に敗れるなど、今年も苦戦を強いられていた。

 しかし、今大会はそれを跳ね返す戦いぶりを見せた。準々決勝の帝京大可児戦は、後半立ち上がり早々にエース・FW森龍が2枚目のイエローカードで退場をするが、10人で相手の猛攻を耐え凌いで1-0で勝利。準決勝では森を出場停止で欠く中、長年のライバルである各務原高に1-0といずれも接戦を制して勝ち上がってきた。

「退場した後は『このまま自分の高校サッカーが終わってしまったら…』と思って見ていた。でも、10人になってからのみんなの気迫が凄まじかったし、勝った時は感謝の気持ちと、この仲間なら(自分が居ない)準決勝も勝てると確信できた。みんなが(決勝まで)繋いでくれたからこそ、ここで僕がやらないといけないと思っていた」(森)。

 決勝では2トップの一角に戻ってきた森が前線から鬼気迫る表情で猛プレスを見せるなど、技術レベルの高い中京学院大中京の攻撃に対し、前線からの連動した守備で応戦。前半は国民体育大会でも活躍した2年生ストライカー・FW近藤慶一のパワー、2シャドーの一角のMF伊藤寿莞と左MF澤木祐哉のテクニックを融合させた中京学院大中京のリズミカルな攻撃に押し込まれたが、初戦の高山工高戦から4試合連続無失点のDF陣が要所で身体を張ってゴールを割らせなかった。

 そして後半に入ると、岐阜工の伝統である『堅守速攻』が試合を動かした。後半7分、CB太田侑作のフィードを左サイドでMF熊澤瑞希が鮮やかなトラップで収めると、得意のドリブルでカットイン。この動きに逆サイドにいたMF羽鳥大貴が反応し、「試合前から『クロスやシュートのこぼれを狙って行け』と言われていましたし、熊澤はドリブルからシュートまで持ってくると思ったので飛び込みました」と、一気にゴール前へ加速。熊澤の強烈なシュートはGK中野翔太に弾かれたが、思惑通り羽鳥の目の前にボールが転がり、これを思い切り蹴り込んで岐阜工が先制点を挙げた。

 得意のロングカウンターを成功させて、さらに勢いに乗った岐阜工は、後半14分に羽鳥の突破からPKを獲得すると、森が真っ先にボールに駆け寄った。「自分が決めて、勝利に導きたかった」。ゆっくりとペナルティースポットにボールを置くと、冷静にGKの逆を突くシュートを決めて、2-0と貴重な追加点を奪った。

 2点のリードは堅守・岐阜工にとっては十分なリードだった。太田と山本勇翔のCBコンビが中央に堅い壁を築き、彼らが弾いたボールを準決勝からレギュラーに抜擢されたボランチの林大成が回収。この試合で林の運動量とボールへの寄せ、そしてボール奪取力は際立っていた。彼のプレーのキレが最後まで落ちなかったことも、岐阜工の堅守をより盤石なものにした。

 それでも2連覇を狙う中京学院大中京は終了間際に猛攻を仕掛け、後半アディショナルタイム4分にMF伊藤好輝のヘッドのこぼれ球をFW名取龍矢が押し込んで1点を返した。だが、反撃は届かなかった。

 タイムアップの瞬間、岐阜工の森は両膝をついてガッツポーズ。ピッチ上の選手、ベンチ、スタンドから大きな歓声が上がった。「ゲーム体力は伝統として積み上がっていたので、羽鳥は縦のスピード、熊澤はバイタルエリアに入ったら自由になど、個々の良さを生かす方向に仕向けました。それにプラスして全体の守備への意識付けをして、特に前線からの守備のポジショニングを意識させました」。今年から就任した元Jリーガーでもある米澤剛志監督が語ったように、伝統に新たなカラーが加わって、今年最後の大会で見事にそれが結果に繋がった。

 米澤監督は優勝した瞬間、喜びのあまりアキレス腱を切り、直後に病院に運ばれてしまうアクシデント。表彰式が終わった後に松葉杖姿で戻ってから、喜びを分かち合う形になったが、4年ぶりの歓喜はチームとしての一体感をさらに強めた。

「僕自身、高校で初の全国大会。それが高校最後の大会になってしまったけど、最後の最後で掴み取れて嬉しい」(森)。

 レギュラーは全員3年生。彼らは岐阜工に入学しながらも、一度も全国に出られなかった屈辱をようやくラストチャンスで晴らした。次は悲願の選手権本戦。「ずっと『岐阜工の時代は終わった』と周りから言われていた分、全国大会でこれまでの想いをぶつけたい」と森が続けたように、名門復活の本番はこれから。『堅守速攻』にさらに磨きをかけ、冬の大舞台で名門の誇りを示さんとする――。

(取材・文 安藤隆人)
●【特設】高校選手権2018

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