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僕は“ここ”で勝負する…MF松本泰志の誓い、広島の絶対的存在として東京五輪へ

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サンフレッチェ広島MF松本泰志

 昌平高からサンフレッチェ広島に加入して2年目を迎えたMF松本泰志。所属クラブでは出場機会を得られない苦しい状況が続く中でも自らを磨き、U-21日本代表ではコンスタントにピッチに立って存在価値を証明し、自身の居場所を確保しつつある。20歳を迎えたばかりの若武者が東京五輪を1年半後に控えた今、胸の内を明かす――。

緊張した初代表
芽生え始めた自覚


――東京五輪世代の代表には、17年末に森保一監督が就任した直後の活動から招集されています。
「昨年12月にタイで行われたM-150杯(森保体制初陣)で年代別代表に初めて呼ばれた頃は緊張もありましたが、あの頃と比べると今年8月のアジア大会では持ち味も出せてきていると思う。環境にも慣れ、チームメイトの特長が分かってきたし、コミュニケーションの部分も深まってきているので、より自分らしさを出せてきた感触があります」

――初めて年代別代表に呼ばれたときは緊張もあったのですね。
「それまで選抜チームに入った経験はあったけど代表はなかったので、自分の背中に今までとは違う重いものが乗っかっている感じで本当に緊張しました。でも試合前にピッチ上で国歌が流れたときに、『これ、テレビで見ていたやつだなー』『自分もここまで来たかー』と気持ちが高まっていく感覚もありましたね。代表で初めて森保監督に会ったときですか? 特別な話は全然なかったですよ。『頼むぞ』『信頼しているぞ』という言葉を掛けられたことはありませんが、続けて代表に呼ばれているので、そこは感じ取ろうとしています」

――森保体制発足後、5度の活動の内、今年1月のAFC U-21選手権以外の活動には参加しています。より多くの試合に出ており、チームをけん引していく自覚も芽生えてきたのでは?
「森保監督からは広島で半年間ですけど指導を受けていて、3-4-2-1のシステムにも慣れているので、そういう面でもリードしていかないといけないと思っています。リーダーシップを取るわけではありませんが、アジア大会では試合中にポジションが近い選手と『ビルドアップのとき、こうしたらもっとうまく回せるんじゃないか』『守備でこういう場面のときは、ここに立ってほしい』と話し合いながら修正していくことは意識していました」

――チーム発足直後はビルドアップの判断が悪く、ゴール前でのミスから失点を招くこともありました。練習中には森保監督から「大きく蹴る必要があるときは蹴れ」との指示もありましたが、つなぐことに固執していた印象があります。
「練習のときもワンタッチでのつなぎが多く、つながないといけないという気持ちが皆、大き過ぎてミスからの失点が増えてしまったと思う。でも、アジア大会のベトナム戦(グループリーグ第3節●0-1)でミスから失点して、『本当につなげないと思ったらセーフティーで』と何回もそのときに言われたことが一つのきっかけとなり、つなげないと判断したらロングボールを使うようになりました」

――そのベトナム戦のハーフタイムに森保監督から激しい檄が飛んだようですね。
「そうらしいですね…。実は僕は後半から出るためにアップをしていて、知らないんですよ。ベンチに行ったら、ものすごい異様な雰囲気だったので、『これは何かあったな』と感じ取った。広島時代にもそういうことはなくて、僕にとっても初めてくらいの空気でしたが、それが一つのきっかけになってチームも変わっていったと思います」

――チームが変わっていく中で、松本選手自身も大会の中で変わっていったと思います。
「アジア大会では全試合に出させてもらったので自信はつきました。1、2戦目はずっと相手に引かれていたので、なかなか縦パスを打ち込むのが難しかったけど、大会が進むにつれて徐々に相手がプレスを掛けてくるチームになってきたこともあり、前を向いたら必ず縦パスを出そうと意識していました」

――縦パスだけでなく自分で持ち上がれるときはドリブルで運び、サイドチェンジなど大きな展開も増えたと思います。
「広島で2年目を迎えて、ボールを運ぶとかドリブルを使うというのは自分の中で今年の課題にしていたので、そういう面は結構出せたと思うし、確かにサイドチェンジも増えましたね。昌平高のスタイルが中で、中でという感じで、それが癖になっていた部分もありますが、広島での自主練でかなりサイドチェンジの練習をしていたこともあって、それを試合で出せたと感じています」

――成長を感じる一方で課題に感じた部分もあるのでは?
「守備のポジショニングは課題になりました。決勝で対戦した韓国には、僕らボランチとCBの間のスペースを使われてチャンスを作られていたので、そういう相手と対戦したときのポジショニングは意識しないといけないと感じた。あと、球際の勝負には行けていましたが、体をバチっと当てるところで当たり負けすることがあったので、やっぱり筋トレしないとダメですね。アジア大会前から筋トレはしていましたが、あの大会をきっかけにトレーニング量は増やすようにしました」

――守備面でのポジショニングは課題に感じたかもしれませんが、攻撃時は味方のサポートに入って、よくボールに絡んでいたと思います。
「攻撃のときのポジショニングは広島でもすごく言われていて、意識高く取り組めているし、カズさん(MF森崎和幸)やアオさん(MF青山敏弘)だったり、広島には良い見本がたくさんいます。3-4-2-1のボランチで見本になる存在がいるのは、僕にとって本当に大きいです」


見本となる広島の先輩
そして盟友・針谷岳晃


――森崎選手や青山選手のどういう部分を手本にしていますか。
「一緒にプレーするとすごく感じられるんですけど、ゲームコントロールが本当にうまくて、僕が前にポジションを取ったときに自由でいられる感じです。カズさんとはルヴァン杯で一緒にやらせてもらったときにプレーしやすかったので、そういう面でゲームをコントロールする力の違いを感じました。経験の差はもちろんありますが、常に頭を使ってプレーしていると思います。僕も使うように意識していますが、頭の回転の速さやセンスが違うんですよね。改めてヤバい存在だと感じました」

――森崎選手は今季限りでの現役引退を発表しており、ともにプレーする時間は残り少なくなっています。
「時間は本当に少ないので、吸収できるところは早く吸収したいし、どこまで吸収できるかが、今後の成長に影響を与えるとも思っています。盗めるなら全部盗みたいですが、今話したゲームをコントロールする力を一番に盗みたいし、攻守両面での細かい部分のテクニック、駆け引きも欲しいですね」

――攻守両面でのテクニックを具体的に教えてもらえますか。
「僕は守備のときに相手の動きに釣られたり、サイドに寄り過ぎてしまって縦パスを入れられることがありますが、カズさんはわざとスペースを空けて相手に狙わせて、縦パスが入った瞬間に奪うというテクニックを使う。それに攻撃では一つ“無駄な”パスを入れたりしてゲームをコントロールするんです。一度、中盤に当ててリターンパスを受けることで、相手を中に絞らせて戦況を変えたりするので、試合状況を見ながらすごく考えてプレーを選択していると感じています」

――“無駄な”パスも、周りのチームメイトが理解していないと成立しないプレーだと思います。
「カズさんがメッセージを込めたパスというのを、皆が感じていると思う。ここに出したら、そういう意味かみたいに。皆がメッセージを感じ取れるパスなので、僕もそういうパスを出せるようになりたいですね」

――プロ1年目の昨季はJ1リーグ戦でベンチ入りすることができませんでした。
「悔しい思いもしましたが、良い経験をさせてもらったと思います。中盤だけでなくフォワードやCB、SBもやらせてもらい、GK以外のポジションすべてでプレーさせてもらいました。練習や練習試合で多くのポジションを経験することで、リーグ戦に出れなくても成長できていると感じていて、それが2年目の今、出せている部分も多いと思います」

――多くのポジションでプレーする中で、自分の中でハマると思ったポジションは?
「それがボランチでした。最初はシャドーの位置でプレーしていましたが、ボランチに移って良い感触がありました。自分の中だけでなく、スタッフの方からも試合後に褒めて頂いたので、『ここのポジションじゃないか』という手応えがあります。昌平高時代はボランチにはタケ(MF針谷岳晃=現磐田)がいたし、前目の選手が少なかったこともあって、前目のポジションでプレーさせてもらいましたが、藤島崇之監督からは『多分、お前は将来ボランチだよ』と言われていた。正直、そのときは『それはないでしょう』と思っていましたが、気付けばしっくりくるポジションになっています。何でもできる選手になりたいとは思いますが、自分の中で『ここだ』というポジションはボランチで、そこで勝負したいと思っています」

――ボランチでプレーするようになって、昌平高の同級生である針谷選手に相談することはありましたか。
「それはありませんが、タケと一緒に代表に入ったときにタケがシャドーで僕がボランチに入った試合があって、僕が横を向いたままボールを受けたとき、サイドにパスを送った場面がありました。そうしたら『あのとき、お前出せたでしょ。何で出さないの』とタケに言われたんです。確かに縦に出せる間があったんですけど、『あー、タケならあのタイミングで出すんだ』と感じたことがあって、それが印象に残っています」

――森崎選手や青山選手という広島の先輩だけでなく、ボランチでプレーするには針谷選手から得るものも多いということですね。
「タケの高校時代のプレーを結構思い出すときがあって、『タケだったら、こうしてるかな』とか『あいつだったら、ここに出すかな』と思うことはあります。タケは選手として本当にすごいと思うし、スルーパスとかは天才に近いと感じていて、メッチャ好きなんですよね、タケのパスって。高校のときは、僕の動きを見ていなくても出してくれる信頼関係があって、あのパスを受けられるのは最高だったと思っているので、そのイメージは生かしていきたい」


チームの根本にあるのは
球際で戦って走ること


――東京五輪はいつから現実的な目標として捉えていましたか。
「年齢が一つ上の選手が東京五輪にドンピシャの代で、僕たちは一つ下の年齢になります。プロになったときから『五輪世代』と言われることが多くなったけど、その時は代表に入ったこともなかったので、最初は出れないだろうと思っていたし、その感覚をなかなか持てなかった。でも、タイで初めて年代別代表に呼ばれて、3月のパラグアイ遠征で呼ばれたときにはパフォーマンスを上げられている感覚があって、少しずつ道が開けていると感じた。僕は五輪世代なんだと実感できたことで、本気で目指そうと思えるようになりました」

――森保監督が率いるチームでボランチに求められる部分をどう感じていますか。
「一番大事なのは球際の勝負で戦えるかどうかだと思っています。森保監督は球際のことを厳しく言う方なので、球際で戦って走れるかどうか。これはボランチだけではなく、森保監督のチームの根本にあると思っています」

――五輪の登録メンバーは18人の狭き門で、ボランチ以外のポジションをプレーできた方が、監督の選択の幅も広がると思います。
「それこそ、広島での1年目の経験が生きると嬉しいなという思いがあります。日本で開催される五輪だと、普段サッカーを見ない方も見てくれると思うので、そこでピッチに立ちたいという思いは強い。あと1年半ですもんね、五輪まで。時間は全然ないと思っているし、自分自身がやらなければいけないことは多いですが、限られた時間の中で意識高く練習から取り組み、成長させていかないといけません」

――ニューバランスのニュースパイク「442(フォーフォートゥー)」の印象を教えて下さい。
「『442』のようなカンガルーレザーのスパイクの方が自分は好きだし、履き心地もすごく良いです。幅が広すぎず、狭すぎずに足にフィットする感じで、スパイクを履くと足が包まれているような感覚になります。あくまで僕の場合ですが、人工皮革だと滑る感じがしてボールタッチにどうしても違和感がありますが、カンガルーレザーだとボールタッチが柔らかくなってコントロールしやすいので、これからもカンガルーレザーのスパイクを履き続けたい思いはあります」

――ボールタッチに違和感があるとプレーにも影響が?
「僕の一番の持ち味はトラップやパス、ボールタッチの部分だと思っています。やっぱりそこの感覚が少しでもブレてしまうと、気持ち的にも『今日は違う』と感じてしまうので、そういう不安を取り除いてくれる『442』はすごく好きですね」

――スパイクのカラーにこだわりはありますか。
「そこまでこだわっていませんが、黒が大好きなんですよ。渋くないですか? カラフルなスパイクは本当に履かないし、白を履いていた時期もありましたが、黒の方が自分の中ではしっくりくる。今は派手なスパイクが増えて、同世代の選手や年下の選手はそういうスパイクが好きな選手が多いと思います。でも『黒は渋い』というイメージが自分の中にはあり、渋いのにサッカーがうまいって格好良いいなと思っているし、そういう選手にすごく憧れているので、黒いスパイクを履いて活躍していきたいと思っています」

――松本選手にとって、スパイクとはどういう存在ですか。
「サッカーをするにあたっての、命だと思っています。スパイクがなければサッカーはできませんからね。スパイクによって自分のプレーも変わってくると思うし、そういうことを考えても、自分に合うスパイクを見つけることは本当に重要だと思います」

――最後にお伺いします。以前、堂安律選手は「A代表の選手として東京五輪に出たい」と話していて、すでにA代表の選手としてプレーしています。松本選手はどういう選手、存在になって東京五輪に臨みたいか教えて下さい。
「もちろん僕もA代表の選手になって東京五輪を迎えたいという思いはありますが、まずは広島で試合に絡めるようになっていかなければいけない。そして試合に出ているだけでなく、五輪までに代えの利かない選手に成長していたいです。カズさんに追い付いて、追い越せるような、広島の絶対的な存在となって五輪を迎えられるようにこれからも頑張っていきます」


(取材・文 折戸岳彦)
Sponsered by ニューバランスジャパン

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