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大ケガを経験して“支える側”へ…Jクラブも注目した絶対的エース、東邦高FW石川璃偉(3年)の場合

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試合中は松葉杖姿で声援を送る東邦高FW石川璃偉(3年)

 高校選手権愛知県予選の決勝(17日・パロ瑞穂)に進んだ名古屋高東邦高には、膝の大怪我で出場の目標を断たれ、チームを支える役目に回った選手がそれぞれ在籍している。物静かなサイドバックは分析スキルを生かして監督の右腕役となり、Jリーグのスカウトが注目した絶対的エースはチームの精神的支柱。彼らはどんな心境で試合を見つめているのか、そんな想いに迫った。(2/2)

「リイがいないおかげで勝てました」(GK木下堅登)。「エースがいないときに勝てたりするものだから、サッカーって計算どおりにいかないよね」(横井由弦監督)。2年前の全国出場時に比べ、力が落ちると思われていた今年の伝統校・東邦だが、冬の選手権予選は並み居る強豪に競り勝って決勝進出。躍進の要因を問えば、一人の男の存在が必ず挙がる。

 FW石川璃偉(3年)。今季の背番号10を任され、得点源を一手に担ってきた「大エース」(横井監督)の名前だ。スピードあふれるドリブル突破とアクロバティックなシュートを得意とし、夏までのチームは「頼り切り」(木下)とも言えるチーム。だが、およそ2か月前のトレーニング中、ドリブル突破を試みた際に左膝前十字靭帯断裂、左膝半月板損傷の大怪我に襲われた。

「やった時はめっちゃ痛くて、普通の怪我とは全く違うんだなと思った。それから病院に行って、“前十字”って言われて。選手生命にも関わるっていうし、『マジか……』って」。その翌日、学校に顔を出した石川は「悲しい表情でいるとみんなも落ち込む」と気丈に振舞おうとした。「でも、みんなに怪我のことを聞かれて……はい、泣いちゃいました」。

「少しでもディフェンスとの距離があったら、相手に触られる前にブチ抜けると思っていた」。そんな自信が示すように、Jクラブのスカウトも関心を寄せる逸材。負傷の直前には、あるJ2クラブのスカウトから「『もう1試合見たい』って言われていた」という。だが、高校生活で“もう1試合”は訪れる可能性がなくなり、「めっちゃ悔しいです」と本音は隠せない。

 だが、チームにとってはこれが思わぬ転機となった。「いつも監督から『このチームはいつ変われるのか』と言われていて、自分たちも変わらないと勝てないと思っていた。そこで、自分の怪我がチーム全体の責任感を生んだんだと思う」(石川)。得点力不足には直面したが、予選を通じた失点数はわずか1。厳しい指揮官も「結果として『みんながやんなきゃ』って結束したね」と驚くほどの成長だった。

 準々決勝ではインターハイ県代表の東海学園高にPK戦で競り勝ち、「ここで勝てば優勝いけるんじゃないかと思っていたところに勝てたのが大きい」とチームの勢いを語った石川。2年前の全国出場時は1年生ながらベンチで大舞台を経験。「自分が一番近くで2年前を見ていて、その悔しさを新チームで表現しないといけないと思ってやってきた。あの時の景色、緊張感を伝えながらやっていく」と気持ちを注入していく構えだ。

 その目線の先には、手が届きそうで届かなかったプロ入りの夢もある。「大学に行って『復帰できました』ってスカウトの人に言えば、また見てくれるだろうと思う」。ならば、まずは高校生活を悔いのない形で終えるしかない。「正直もちろん試合には出たいけど、こうなってしまったのでどうしようもない。選手たちが気持ちよくプレーできるように支えていきたいし、応援の力で選手が思い切ってプレーできるようにしたいです」。

(取材・文 竹内達也)
●【特設】高校選手権2018

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