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サッカーは精神病患者をどう救うのか?

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2009年からソーシャルフットボールに関わる佐々毅理事長

 精神疾患や精神障害のため、医療機関で継続的に治療を受けている人が行うソーシャルフットボールの「第1回地域選抜選手権」が11日、終了した。チーム数は160と日本障がい者サッカー連盟に所属する他の6競技団体と比べて圧倒的に多く、病に対してリハビリ的要素が強い。サッカーが精神疾患を持つ患者にどんな役割を果たしているのだろうか。

 10月に日本ソーシャルフットボール協会の理事長に就任した佐々毅氏は、新検見川メンタルクリニック院長である。現役の精神科医はこう明かす。

「精神科に通う人にとってサッカーがどんな治療効果をもたらすかについて書かれた論文が、国内や世界であるかと聞かれると、それほど多いとはいえません。ただサッカーは、体に負荷がかかった状態で物事を知覚して、判断する。しかも高速にやる。すごい脳トレをしているとも言えます」

 過去に佐々氏が見ていた患者の例を示してくれた。

「その方は曲がったことが嫌いで融通がきかない人で、他人とのトラブルに発展したこともあります。統合失調症の症状を持っていたその方がサッカーをはじめた当初、ドリブルも直線的でした。しかしサッカーをはじめて何年かすると、フェイントを覚え、人をかわす快感を覚えたのか、不思議と日常でも他人に対してそれほどつっかからなくなってきた。”かわす”ことも生きる上での選択肢に入ったのかもしれません。サッカーで自然と学んだことが日常生活の行動様式をも変化させるケースを見て衝撃を受けました。これは日常の診療では見ることができないと思います」

 どんな理由が考えられるのだろうか。佐々氏が続ける。

「たとえば統合失調症には認知機能障害というものがあり、その中に遂行機能障害といって、突発的な状況の変化に対応できずに混乱し、病状の悪化を招きやすい特徴があります。しかし、サッカーの場合、相手選手や地面にも対応しなければいけない。そもそも『うまくいかないことが当たり前』の状況下でいつもプレーする必要があるんです。したがって、不確定要素に対する”免疫”のようなものがサッカーを通してできるのかもしれません」

地域選抜選手権の一コマ。楽しいと感じながらプレーすることが大切だという

 ソーシャルフットボール強豪・Espacioの監督をつとめる大角浩平氏は、普段は千葉県流山市の精神科クリニック「ひだクリニック」に勤務する。日々、精神疾患の患者と向き合う現役の作業療法士はサッカーの治療効果をどう見ているのだろうか。

「大会があればコンディション調整が必要だし、会場に遅刻もせずに行かないといけない。チームなので報告したり、連携とらないといけないので個人行動はできない。訓練ではなく、サッカーが楽しいから続ける、ということによって、結果的に仕事に役に立つのだと思います」

 Espacioの練習は、ひだクリニックのデイケアプログラムの一環なので、通院している人でないと入会できない。今いる15人のうち、通院当初に仕事上の所属があった人はゼロ。症状が思わしくない中、同クリニックに助けを求め、症状が改善し、15人中12人が何かしらの仕事につくことができた。うち6人はフルタイムの仕事。サッカーの力を借りて社会に巣立っていったいい例だ。最終的には、ソーシャルフットボールの出場資格を失う選手を一人でも多く増やすことが究極の目標になる。大角氏が続ける。

「サッカーがなぜ精神疾患を持つ患者さんのリハビリに役立っているか、医学的根拠はまだ深く示せていません。これからは、なぜサッカーを通して元気になったのかを具体的に示す作業もやっていきたいですね」

(取材・文 林健太郎)

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