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ウエーブカップの復刻から紐解くミズノの革新スパイクの系譜とは…

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ミズノの革新性・テクノロジーによって生み出されたサッカーシューズ

 ミズノは、2001年発売スパイクの『ウエーブカップ リバウド 2002』を復刻したサッカーシューズ、『ウエーブカップ レジェンド』を今月3日より全国のミズノ品取扱店で発売中だ。『ウエーブカップ リバウド 2002』は2002年の日韓ワールドカップで元ブラジル代表のリバウドが着用したスパイクである。当時のスパイクとしては画期的な軽さ(片足200g)を実現し、ミズノウエーブというクッション機能も搭載した高機能スパイクで、瞬く間に人気を博し当時のサッカープレーヤーたちがこぞって着用したことでも知られている。そんな『ウエーブカップ リバウド 2002』がなぜ2018年の今になって復刻されたのか。『ウエーブカップ』というスパイクはミズノのサッカースパイク史においてどういう存在なのか。『ウエーブカップ』開発責任者の大禮剛(おおれい・たけし)氏に話を聞いた。


――ではまず、大禮さんの経歴をご説明していただけますか?
「私は小学生のころにサッカーをはじめて大学まで一貫してサッカーを続け、大学卒業後も社会人クラブでプレーしました。ミズノ株式会社には1990年に入社し、今年で勤続28年になります。入社1年目は営業の部署に配属され、2年目からは陸上競技のスパイク・シューズの企画と開発を担当しました。陸上競技のシューズ開発の最初の仕事は男子ハンマー投の室伏広治選手の競技用シューズを作ること。シューズ開発の部署に異動して最初から大仕事が待ち受けていましたが、それをうまくこなしながら陸上競技の各種目別のシューズ開発を約9年間経験しました。陸上競技のシューズ開発で培ったノウハウや知識、経験などを活かして2000年4月からいよいよサッカースパイクの企画・開発を任されることになり、そこからわずか2か月後の2000年6月にリバウド選手が来日した際に初対面。ミズノ大阪本社でリバウド選手の運動データや足圧・足型などを計測して本人とともに『ウエーブカップ』の開発に臨むことになったのです。

 当時、リバウド選手はバロンドールを受賞し、ブラジル代表でもバルセロナでも背番号10を背負っていた世界最高峰プレーヤーの一人。彼の動きや運動データを元に設計するサッカースパイクを完成させることができれば、履いてくれた人が必ず正しいプレー、いいプレーができるという確信があり、一緒に開発を進めていきました。このとき、彼は元々ミズノ『モレリア2』というスパイクを着用していましたが、モレリアシリーズはミズノの伝統やクラフトマンシップを象徴する存在で、当時からすでに定評を得ていました。その一方、ミズノのサッカースパイクがさらにステップアップしていくためには、革新さや新たなテクノロジーを採用したスパイクの開発、つまり新しいシリーズを生んでいかなければならないという課題がありました。世界最高峰プレーヤーであるリバウド選手との出会いや、2002年に日本でワールドカップが開催されるという千載一遇のチャンスが重なったことが『ウエーブカップ』という新たなシリーズを作るきっかけとなりました」


――リバウド選手と一緒に開発を進めていった中で印象に残っていることはありますか?
「まずオーラがすごかったです。私は今まで数々のトップアスリートと接してきましたが、リバウド選手は飛び抜けてすごいオーラを放っていました。もちろん小学校からずっとサッカーを続けていて、彼のすごさを理解しているということも作用していたと思いますが、とにかく本人にお会いしたときのインパクトは今でも鮮明に覚えています。目力の強さ、瞳の中の奥深さ、風貌、しぐさ、そのすべてから超一流のオーラが漂っていました。そして、2002年のワールドカップに向けて『あなたと一緒に新しいスパイクを開発していきたい』という旨を伝えると、リバウド選手は真っ先に『それは必要ない」と言いました。彼は当時履いていた『モレリア2』を相当気に入っていて、『モレリア2は申し分ない理想のスパイクです」と私に言ってきたのです。正直焦りましたよ、そのときは。しかし、必死に説得を試みて足型を計測したり、運動データを解析したり、『ウエーブカップ』の機能性やコンセプトなどをプレゼンして、なんとかリバウド選手に理解してもらって、『ウエーブカップ』の開発スタートにこぎつけました。

 彼からのリクエストとしては『モレリア2』よりもさらに軽くしてほしいということを言われていたので、まずは軽量性を最優先しました。そして、1997年にミズノ社が開発した”ミズノウエーブ”という機能をサッカースパイクに初搭載することにもチャレンジしました。90分以上に渡って激しく動き回るサッカーというスポーツにおいて、クッション性や足への負担軽減は重要な要素ですが、単純に足がフワフワするようなクッショニング性能ではプレー中に左右へのブレやグラつきが発生してしまいます。クッション性と安定性を同時に実現することを追い求めたとき、ミズノウエーブという機能が最適解だという結論に達しました。当初の構想からミズノウエーブありきで開発をスタートさせましたが、実際に開発を進めていく中で、当時のテクノロジーではミズノウエーブ以外でこのクッション性と安定性を同時に実現することは不可能だったのです。あとは出足の一歩のハイトラクション、あらゆる動作の中でも優れたグリップ性を発揮するということも重要視しました。“軽量”“ミズノウエーブ”“優れたグリップ”。この3つの要素をウエーブカップの主要ポイントとし、リバウド選手とともに開発を進めていきました。


 このとき、二人三脚での『ウエーブカップ』開発に用いた手法は“データシャワーコンセプト”です。1996年にミズノが採用した開発手法で、選手の運動データを計測し、その解析データをまるでシャワーのようにシューズに浴びせて何度も改良を施し、それらのデータを元にして選手に機能や設計を提案していきながら選手にヒアリングして何度も設計や機能を見直すことで製品化に繋げていく“実験、解析、設計”のプロセスが“データシャワーコンセプト”です。サッカースパイクでは『ウエーブカップ』で初めてこの“データシャワーコンセプト”という手法を採用しました。例えば、やり投げの競技用シューズを開発するときには、3つの動作がポイントになります。助走するとき、ステップを踏むとき、最後に踏ん張るとき。この3つの動作それぞれが大事で、3種類の動作すべてで高いパフォーマンスを発揮するシューズを作らなければいけません。助走をする動作のときだけ優れていて、踏ん張るときの動作はたいしたことないシューズではダメです。それはサッカーも一緒で、ボールを蹴る動作、走る動作、止まる動作、ステップの動作、ジャンプの動作など、さまざまな動きを高いレベルでこなすことができるスパイクを開発するために“データシャワーコンセプト”の手法を用います。サッカーのあらゆる動作における足の動き、足圧、どういう風に足が着地しているかなどの動作データを100分の1秒ごとに計測、そのデータを解析して、さまざまな動作のバランスや因果関係も加味しながらそのデータを設計に反映させていき、軽くてミズノウエーブ搭載で優れたグリップ性も発揮するという3つの要素をもたらす独自のソールプレート設計、スタッド形状、スタッドの位置、スタッドの向き、スタッドの本数を導き出していったのです」


――リバウド選手が『ウエーブカップ』を履いたときの感想は?
「プロトタイプ(試作品)をバルセロナへ持っていってリバウド選手に試してもらい、フィードバックをもらってさらに軽くしてほしいという無理難題をリクエストされました。耐久性を確保しながらさらに軽くするというのは非常に難しい作業でしたが、改めて一から各パーツを見直し、極限まで薄くして、徹底的に無駄を省いて最終的には27.5cmで片足200gの軽さを実現することができました。リバウド選手が完成品を手に持った瞬間、満面の笑みで「オッケー!」と言ってくれたときは安堵しましたよ。「小回りの利くフェラーリのようなスパイクだ」と表現してくれたときは嬉しかったです。


 プロトタイプは黒ベースのカラーリングでしたが、完成版では白ベースのカラーリングを採用しました。これは黒の塗料よりも白の塗料の方が軽いからです。そしてランバードラインの色はブルーとイエローの組み合わせ以外にグリーンやレッドなどいくつかのパターンを作製してリバウド選手に選んでもらったところ、白ベースに青と黄の組み合わせが一番気に入って頂けたので、最終的にこのカラーリングで製品化することになりました。リバウド選手が実際に着用した『ウエーブカップリバウド』にはかかと部分に娘さんと息子さんの名前が特別にマーキングされているのも特徴です。これは本人のリクエストによって別注対応しました。当時の『モレリア2』の重量は27cmで245g、『ウエーブカップリバウド』の重量は27.5cmで200g。リバウド選手の当初のリクエスト通り、『モレリア2』よりも断然軽いスパイクに仕上げることができました。さらにミズノウエーブ機能搭載で、独自のソール・スタッドを搭載することで優れたグリップ性も実現。“データシャワーコンセプト”という新たな手法を元にリバウド選手と共同開発を進め、“軽量”“ミズノウェーブ”“ハイトラクション”という3つの要素も取り入れた革新的なスパイク『ウエーブカップ』という新しいシリーズが完成したのです。


 その後、ミズノでは『ウエーブカップ』の誕生を機に、現在までさまざまな革新スパイクを生み出してきました。2006年にはスピードとキックに特化した『ウエーブブレード』を発売。ミズノウエーブを搭載しながらグラスファイバープレートと独自のL字型ブレードスタッドが組み合わさることでダッシュ時に優れたグリップ性と反発性を発揮し、アッパーに搭載したバイオコントロールパネルがインフロントキック時のパワーとスピン性をサポートする高機能スパイクです。


 2010年には『ウエーブイグニタス』が登場。アッパー甲部に搭載した無回転パネルによって無回転シュートの蹴りやすさをアシストする革新的なスパイクです。前足部からインフロントには分割したバイオコントロールパネルを搭載し、ミズノウエーブやL字型ブレードスタッドなど『ウエーブブレード』で培ったテクノロジーも継承しています。2010年の南アフリカワールドカップで本田圭佑選手がFKから無回転シュートを決めたことで話題になりました。


 トッププレーヤーのドリブルを分析し、 素早い動きとボールの扱いやすさをコンセプトにした『スーパーソニックウエーブ』。ドリブルする際、最もボールに触れやすい前足部に低反発スポンジを埋め込むことでボールが足に吸い付くようなコントロールを可能にしています。スタッドにはボールの扱いやすさと走りやすさを両立させた独自の形状を採用することで緩急をつけたドリブルをサポートするという、通称“ドリブルを科学したスパイク”です。


 直線方向への加速をサポートするだけでなく、スピードを保ったまま高速ターンがしやすい設計を採用した『バサラ001 MD』。シューズ名の“BASARA(バサラ)”には暴れ回る、派手に振る舞うといった意味があり、『バサラ001』を着用した岡崎慎司選手のプレースタイルを思い起こさせるネーミングです。『バサラ』シリーズではミズノウェーブ機能を搭載していませんが、“D-フレックスグルーブ”という独自の屈曲溝を採用することでキレのあるターンをサポートする新テクノロジーを採用しました。


 そして、現在の最新テクノロジースパイクの『レビュラ2 V1 JAPAN』。スピードとボールタッチの両方をコントロールし、決定的なプレーを生み出すことをコンセプトにしたスパイクです。カンガルーレザーの内部に低反発スポンジのフレームを内蔵することで繊細なボールタッチに貢献し、伸縮性に優れたタングバンド構造がフィット性を向上させ、D-フレックスグルーブの屈曲溝と、スタッドに芯を採用してたわみにくさを確保したスタビライザースタッドによって高速ターンやスピードをアシスト。試合を決定付けるプレーが起こる場所にいち早く到達することを可能にする機能性を盛り込んでいます。ミズノフットボールの現代フットボールに対する最新の答えの一つがこの『レビュラ2 V1 JAPAN』になります。ミズノの伝統とクラフトマンシップを体現したスパイクが『モレリア』シリーズであるなら、ミズノの革新とテクノロジーをコンセプトにしたスパイクが『レビュラ』です。


そして『レビュラ2 V1 JAPAN』の起源にあたるスパイクが『ウエーブカップ』です。当時、世界最高峰のプレーヤーであるリバウド選手と一緒に開発し、革新的なテクノロジーを盛り込んで完成させた象徴的なスパイクである『ウエーブカップ』を2018年の現代に復刻することで、ミズノのモノづくりの魂や情熱、革新性やテクノロジーの歴史、系譜を現代のサッカープレーヤーに今一度知ってもらい、『レビュラ2 V1 JAPAN』に対する知識や理解をより一層深めてほしいというメッセージが込められています。過去の『ウエーブカップ』に学び、未来の『レビュラ』につなげていくという明確な理由付けがあったからこそ、『ウエーブカップ』の復刻が実現しました。


 『ウエーブカップ』の復刻に合わせて、カラーリングも『レビュラ2 V1 JAPAN』に継承し、『モレリアNEO2』や『モレリア2』でも同じカラーリングを採用して同日に発売する“レジェンドブルーパック”というパッケージを銘打ちました。故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る、まさに温故知新のプロジェクトの完成です。


 ミズノフットボールではクラフトマンシップ・伝統、革新・テクノロジーという2つのコンセプトを軸に、それを体現するためのJAPANSPIRIT(ジャパンスピリット)を大事にしています。それは常にプレーヤーのため、お客様のためになるモノづくりに誠心誠意取り組むこと、そして最後まで諦めずにやりきる情熱を持つこと、そういうスピリットです。我々はチャレンジをやめることなく、伝統を引き継ぎ、さらなる革新を追い求めながらこれからも常に進化し、今よりもさらに良いものを作っていきたいと考えています。是非ご期待下さい」

★ミズノ『レビュラ2』の詳細はこちら

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