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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:プレッシャー(前橋育英高・若月輝)

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前橋育英高の右SB若月輝主将

東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」

「全国優勝した後は嬉しい反面、やらなきゃいけないというプレッシャーも感じていました」「いろいろなプレッシャーがあったので、正直試合が終わった瞬間は『ああ、良かった』という感じでした」「自分の中ではプレッシャーを感じたりして、背負っていた部分があったので、1つ解放されたかなと思います」。振り返れば新人戦でも、総体予選でも、選手権予選でも、いつだって“プレッシャー”が容赦なく襲い掛かってきた。日本一を勝ち獲った次の代のキャプテン。若月輝の2018年は、その魔物と向き合い続ける日々の連続だった。

 1月8日。前回大会の準優勝からちょうど1年。“上州のタイガー軍団”として知られる前橋育英高は、1年前に悔し涙を流した埼玉スタジアム2002で歓喜の凱歌を上げる。2年連続で進出した3度目のファイナルで掴み取った悲願の日本一。2年生ながらメンバーに入っていた若月も、初戦と準決勝では途中出場でピッチを踏みしめ、全国制覇の一翼を担ったが、「先輩たちが3年間積み重ねてきた結果が日本一になったと思うので、自分たちが獲ったというよりは、ちょっと他人事のような感じでもあったのかなと思います」と正直な想いを明かす。

 その6日後。全国で最も遅く立ち上がった“新チーム”は、早くも新人戦に挑んでいた。「あの時はまだ自分たちが王者の気持ちでいたというか、『自分たちも強いんだ』と変な自信がありました」と若月も振り返ったように、“前チーム”の威光も借りながら、5-1、6-0と“王者”らしいスコアで準々決勝へと勝ち上がる。若月に話を聞いたのはそんなタイミングだった。

 健大高崎高とのゲームは2-0ではあったものの、得点差以上の完勝。ただ、試合後の若月は真剣な表情で気を引き締める。「全国優勝した後は嬉しい反面、やらなきゃいけないというプレッシャーも感じていました。でも、去年は去年で今年は今年ですし、自分たちはまだ何も結果を残していないので、もう1回イチからチャレンジャーの気持ちで、自分たちらしくやっていきたいです」「去年優勝している分だけ注目はされますけど、そのプレッシャーに負けずに活躍できればチャンスは広がると思うので、そこは良い意味に捉えて頑張っていきたいなと思います」。短い会話に2度も“プレッシャー”のフレーズが浮かんだあたりに、隠せない心情が滲む。

 この頃はまだ若月も仮のキャプテンを託されていた時期。「正式にキャプテンをやりたい気持ちはあります」と秘める決意に、「去年のキャプテンが凄すぎて、1個上の先輩には見えなかったですし、『人として尊敬する』感じなので、自分はそこを目標に頑張りたいと思っています」と言葉が続く。圧倒的なリーダーシップでチームを束ね、全国の頂点へと導いた田部井涼(現・法政大)の背中も思い浮かべつつ、既に重責を担う覚悟は整っていた。

 ところが、県内最大のライバルとして鎬を削っている桐生一高との決勝は、相手が開始早々に退場者を出したにもかかわらず、0-1で敗れてしまう。「新人戦で負けた時も『選手権優勝の前橋育英敗れる』みたいに書かれたので、『世間から見たらそう見られるんだろうな』と自覚しないといけない部分もありましたし、今年は今年で違うという部分も意識した上で、去年優勝したプレッシャーも抱えながらやっていかないといけないかなと思いました」と若月。ほとんど主力が入れ替わったことで、『今年の代は今年の代』と考えていたが、この新人戦の敗戦は、彼らが『日本一を勝ち獲った次の代』であることを改めて突き付けられる機会となった。

 4月。新入生も加わり、気持ちも新たに向かう新年度。プリンスリーグ関東がスタートすると、またもやタイガー軍団は逆境に立たされる。まさかの開幕2連敗。「メンタル的にもみんなやられてしまって、正直自信を失っていたというか、『どうやったらオレら勝てるんだ?』と落ち込んでいた時期でした」。若月もキャプテンといち選手としての狭間で揺れていた。「チームどうこうよりも、『自分はどうしたらいいんだろう?』とも感じていたんです」。ここでも“前チーム”の幻影が彼らを苦しめる。

 こういう状況での特効薬は結果しかない。背水の陣で臨んだプリンス関東第3節。このゲームで山梨学院高相手に何とか白星を手にすると、続く川崎フロンターレU-18戦にも勝利を収めて2連勝。ようやく光が見えてくる。今から考えると、2018年でも一番苦しかったこの時期に、チームは2つのことを悟った。1つは「やっぱり去年と今年は違う」ということ。もう1つは「やっぱり今年の目標も日本一とプレミア参入だ」ということ。「結果としては良くなかったですけど、自分たちが成長するキッカケになったのかなと思います」。若月は“生みの苦しみ”だったと、その時をポジティブに思い出す。

「いろいろなプレッシャーがあったので、正直試合が終わった瞬間は『ああ、良かった』という感じでした」。総体予選の県決勝。相手はやはり桐生一。「新人戦で負けていた分、今度こそ負けられない気持ちで」向かったゲームは、前半11分、12分、13分の連続ゴールで3-0とリードを奪うと、以降はきっちりゲームをコントロールして、そのまま勝ち切ってみせる。タイムアップの瞬間。歓喜を爆発させるというよりも、心から安堵したような若月の表情が印象的だった。

 試合後に会話を交わしていても、少しだけ重圧から解き放たれた感情が随所に透けて見える。「なかなか結果が出ない中で『“去年”が凄く大きかったな』って改めて感じて、『ここで結果を出したら1つ先輩たちに近付けるかな』と思ったので、今日の試合も後半は本当に長く感じて、試合が終わって凄くホッとしました」「結果が出なくてチームも落ちていく中で、自分のプレーもちゃんと持続させながら、チームをしっかり支えていかないといけないので、キャプテンはやっぱり大変だなって思いました」。

 この頃のキャプテンを支えていた大きな要素として、“前キャプテン”からのアドバイスがある。「春先に勝てなかった時に相談していました。自分だけにできることや、誰でもできることとか、涼さんからいろいろ聞き出して、自分なりに工夫しました」。その中でも少し気が楽になった言葉があった。「自分は試合中に声を出したり、チームを鼓舞するのが得意ではないので、自分がやることで引っ張っていくようなタイプだと思うんですけど、涼さんに『キャプテンもそれぞれタイプが違うんだよ』って言われたので、そこは安心してやっています(笑)」。

 そのアドバイスの理由について、若月の性格を「超真面目ですね(笑) 2年生の頃は試合の荷物の準備など、テルがいれば何とかなってました。しっかり者です」と評する田部井涼はこう口にする。「テルは去年のチームを意識し過ぎているように感じました。ゴハンに行ったり、連絡を取ったりして、サッカーの話をしていても『涼さんの代なら』というフレーズが多く出てきて、今年のチームの色を引き出すことが二の次になっている気がしたんです」。“前キャプテン”からのメッセージほど、若月にとって“刺さる”ものは他にないだろう。

 それでも、物事はスムーズに運んでくれない。全国総体は初戦で大津高に0-3と完敗。「このチームで初めての全国大会で、いざやってみたら圧倒されたというか、自分たちは何もできなかったので、良くも悪くも全国のレベルを知ることができました」と夏の敗退を振り返る若月には、直後にプレーヤーとしての危機も訪れる。チームが再開したプリンス関東で連勝を続け、選手権に向けて再び上り調子に差し掛かっていた中で、スタメンから外されてしまったのだ。

「3試合くらいケガとか関係なく出られなくて、去年からメンバーに入っていましたし、自分の代でスタメンから外れること自体が今までのサッカー人生でなかったので、正直凄く悔しくて、監督にも『なんで出られないんですか?』と聞いたくらいでした」。焦りがなかったはずがない。新潟から単身で前橋育英の門を叩いたのも、自分の代の選手権で日本一を勝ち獲るという大きな目標があったからだ。だが、キャプテンとしての責任感が自我を抑制する。指揮官の「いつかチャンスが来るから」という言葉を信じ、今の自分にできることを1つ1つ探していく。

 結果的に若月はスタメンを再び取り戻した。「監督もたぶん意図して出さなかったと思うんですけど」、詳しいことは聞いていない。「いろいろ想うことはあった中で、逆に試合に出れないことでチームを客観視できましたし、今自分にできることを考えたりする時間ができたので、今となってはその時間が良い時間だったかなと思っています」。決して順風満帆なことばかりではなかった日々を経て、いよいよ高校最後の大会がやってくる。

 11月18日。選手権予選群馬県大会決勝。相手はやはり因縁の桐生一。舞台の重みは、そのまま襲い掛かるプレッシャーの重みに比例する。「いつも基本的に1人でストレッチとかしているんですけど、もう気持ちが緊張とプレッシャーでいっぱいいっぱいになっちゃって。『みんなと同じ空気にいるとダメだな』と思って、なるべく心を落ち着かせようと30分くらいみんなから1人だけ離れて、歩いたりストレッチしたりいろいろやっていたんですけど、それでもなかなかいつも通りに戻らなくて、そのまま試合に入って、という感じでした」。押し潰されそうな重圧を抱えたまま、若月はキックオフの時を迎えた。

その刹那。「自分が良いボールを入れれば、絶対に決めてくれると思っていた」という。1-1で突入した後半アディショナルタイム。若月の足元へボールが入る。「『当たり損ねたな』という感じ」のクロスを室井彗佑が収め、渾身のシュートはゴールネットを揺らす。それから残されたわずかな時間を慎重に、慎重に潰していくと、待ち侘びたホイッスルの音が耳に届いた。「力が抜けたというか、この試合に本当に懸けていましたし、いろいろな人の想いを背負って戦った試合だったので、本当に嬉しくて泣いちゃいました」。涙でチームメイトの喜ぶ姿が曇って見える。想いを託された様々な人たちの顔が脳裏に浮かぶ。「周りには言ってないですけど」と前置きしながら、「自分の中ではプレッシャーを感じたりして、背負っていた部分があったので、1つ解放されたかなと思います」とキャプテンは晴れやかな笑顔を浮かべた。

 選手権予選の県内制覇は達成したものの、これからも気の抜けない試合が続く。プリンス関東。その先にあるプレミアリーグ参入戦。そして、年が明けて1月2日から始まる冬の全国。いずれも彼らが負ければ、それだけで小さくない話題になる大一番ばかりだ。だが、もうそんなことは重々承知している。その上で全部勝ちに行く覚悟なんて、とっくに定まっている。“前キャプテン”の田部井涼は、高校最後の冬へ向かう後輩へこうエールを送る。「それまでの積み重ねが顕著に出るのが選手権。どんな試合もそうだけど、準備が非常に大切です。特に前橋育英のような強豪チームこそ、サッカーはもちろん、私生活でさえも最高の準備ができれば、どんなチームに対しても、自信を持って楽しみながら自分たちのサッカーができると思います。ということは、自ずと勝てます(笑) あとは自分たちのやってきたことを信じて、選手権のピッチで躍動してください。楽しんでください。そして、連覇期待してます!」

 2019年1月14日。高校選手権の決勝は1年前と同様に、埼玉スタジアム2002で行われる。連覇を期待される上州のタイガー軍団は、どういう立場で“その日”を迎えることになるのだろうか。「僕たちは『自分たちの代で初優勝』という意識で選手権に挑んでいるので、王者として挑むのではなく、優勝を目指す挑戦者として、1試合1試合戦っていくような気持ちの方が自分たちの良さが出せると思います」。ここまで来たら、もう迷っている時間なんてない。日本一を勝ち獲った次の代のキャプテンは、“プレッシャー”と向き合い続ける日々の連続だった2018年を乗り越え、2019年になったばかりの“その日” のピッチへ立つために、少しだけ付き合い方を覚えた魔物と、これからも格闘していくに違いない。

選手権出場決定の瞬間、若月はピッチに倒れ込んだあと、一人で喜びを噛み締めていた


■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」

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