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「一緒にいるから癒される」。夫婦で精神疾患と戦う障がい者サッカー日本代表の告白

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サッカーが縁で結ばれた竹田夫妻。同じポーズをとることが多い

 同じ境遇だからこそ、さりげなく助けられる。11月に行われた精神障がい者のフットサル(ソーシャルフットボール)の地域選抜選手権に関東選抜の一員として出場した竹田智哉コーチとFWで出場した竹田幸子が1日、所属するEspasioの納会に出席。昨年、フットサルが縁で結婚し、2人とも精神疾患と戦う夫婦だ。夫人の幸子が明かす。

「家に帰ると『今日は大丈夫だった?』と聞いてくれるし、私がタケさん(智哉さん)に気になったことも聞けます。出来事を素直に言ってくれるだけで安心します。今まで自分で抱え込んで苦労してきているので……。それが結婚してよかったことです」

 社会不安障害と診断された竹田智哉は11月の大会ではコーチ登録だったが、実際はソーシャルフットボールの日本代表選手。5月にイタリアで行われた国際試合にも出場した。幸子は中学時代から統合失調症を患い、デイ・ケアプログラムに組み込まれていたフットサルを2009年からはじめ、プレー歴はまもなく10年になる。

 2人は2013年、千葉県流山市の心療内科「ひだクリニック」のデイ・ケアプログラムの一環として組み込まれていた(ソーシャルフットボールの強豪)Espasioの練習で出会った。幸子が続ける。

「中学の時、陸上部にいて3年の夏に他の部員が引退する中、秋の駅伝に出たくて練習を続けました。高校受験に備えて塾にも入ったんですが、根を詰め過ぎたのか、めまいなどの体調異変がおきて駅伝を断念しました。同時に被害妄想が強く出はじめ、人と接することに恐怖心も芽生えました。症状がキツいときは病院の待合室にいられず、車の中で診察の順番を待ったこともあります」

 一方、夫の智哉はどうだったのだろうか。
「僕は高校までサッカーをやっていましたが、再開するつもりはありませんでした。というのは、中学のとき、クラスの子に『体が臭う』と言われたことを機に、必要以上に常に気を張るようになって、汗が止まらなくなった。高校には進めましたが、1年の中間試験で風邪をひいて休んだことがきっかけで不登校になり、2年にあがるときに退学してしまいました」

 相談できる家族はいたが、父は仕事が多忙で、母も先天性の心疾患を抱えて生まれてきた妹の看病で体調を崩した。自分のことであまり迷惑をかけたくないという思いが募り、病気については家族以外は本当に信頼できる人にしか話さなかった。中退後、大検に合格し、大学にも進学したが、2年間で再び休学。当時通った大学のカウンセラーにすすめられたのが、ひだクリニックだった。

 どうしてサッカーを再開できたのだろうか。
「当時、Espasioの主将で日本代表の松嵜さん(俊太郎)のおかげです。何度も『一緒にやりたいんだ』と言ってくれました。最初、何か理由をつけて断っていたんですが、それでもぐいぐい言われて…。こんな自分でも必要としてくれたことがうれしかったんです」

11月、関東選抜で出場した竹田コーチ(右)とFWの幸子(左)

チームに加入して半年後、うつ病と戦う松嵜や作業療法士をつとめる大角浩平監督のすすめで、どんなことで悩んでいるか、チームメートに初めて伝えた。ごく親しい人にしか話していなかった病気のことを初めて広く伝えることで、固く閉ざしていた心の扉が少しずつ開かれた。また、智哉がチームメートの幸子に一目ぼれしたのを察知した松嵜は、2人を結ぶ「愛のキューピット役」までつとめた。

 2人の症状は幸い、安定しているが、いい状態が必ずしも続かないのもこの病の特徴だ。2人が「共倒れ」する可能性もあるが、その不安は抱かなかったのだろうか。智哉は臆面もなくこう明かした。

「不安でしたけど、それ以上に一緒にいたい、と思ったんです。見るだけで癒されますから」。
 
 隣でほおをあからめた幸子はこう続けた。
「タケさんに対して勝手に安心感を抱いています。一緒にいたら何とかなるだろう、と」

 同じ境遇にいるパートナーを得たことで、何かあっても頼れる拠り所ができ、その心のゆとりが、必要以上に病気を意識することを軽減したに違いない。竹田智哉は最後にこう締めた。

「ソーシャルフットボールをプレーできている自分が、普及や競技レベルの向上に貢献したい。今回取材に答えさせていただいて、以前の自分のように今、暗闇にいる人やその方のご家族でもいいので、記事に気づいてもらって、『昔、サッカーやっていたけど、病院探してやってみようかな』とか考える橋渡しになるといいな、と。自分が話すことで、精神障害に対する偏見がなくなる手助けになればと願っています」

(取材・文 林健太郎)

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