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[EAWFC予選日記]島が抱えるサッカーの課題

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[東アジア女子サッカー選手権(EAWFC)予選大会(7月1日~5日) グアム]
・大会開催地・グアム日記(1)

 来年2月に行われる東アジア女子サッカー選手権(中国)の出場権を懸けた予選大会が、東京から南東へ約2500kmに位置する「常夏」の島・グアムで幕を開けた。アメリカ合衆国の自治属領・グアム。面積は、約549kmと日本の淡路島とほぼ同じ広さで約16万人の人口は先住民のチャモロ人、フィリピン人、中国人、韓国人、日本人など多彩な民族によって占められている。

 そのグアムを訪れてまだ2、3日を過ごしただけだが、異国という感じが全くしない。なぜか? とにかく日本人の数が多いからだ。宿泊しているタモン地区の通りを少し歩けば、早朝でも深夜でもすぐに日本人とすれ違うことができる。そして飲食店に入っても必ず日本人の姿。食事のメニューには日本語が並び、見上げれば看板の文字も日本語だらけ、タクシーに乗れば現地の運転手さんから「どこ行きますか? 」だ。ホテルのテレビでは日本の国営放送まで流れている。日本人観光客による収入が島の収入の大部分を占めていることが影響しているからだろうが、街には「これでもか」というほど日本語があふれている。

 観光面ほどではないかもしれないが、グアムのサッカーも日本とのつながりは深い。今年も1、2月にはJ数クラブが温暖な気候を求めて当地へキャンプに訪れた。また現在、男子のグアム代表を率いているのは日本人の築館範男氏。名古屋のヘッドコーチや清水ユースの監督を歴任してきた指導者から、グアムは日本的な色を少しずつ刷り込まれていっている。女子予選大会の開幕試合が行われた1日の午前に同監督が指導するU-19グアム男子代表の練習を取材したが、英語と日本語とを交えた情熱的な指導が行われていた。
 いっぱいに広がった青空の下でテンポ良くボールを蹴っていく選手たちには厳しい指示が飛ぶ一方で「グッジョブ! ビューティフル! 」といった選手を称える声も響いていた。そして選手たちは日本からの来訪者が気になる様子。「コンニチワ」とか「アリガトウ」、さらにはチームメートに対して「シズカニ」「ウルサイ」などと笑顔で声を張り上げている。技術はまだまだ未熟だが練習はハード。でも選手たちも指揮官の声に押されて頑張る、とてもいい光景だった。

 先月、マカオで行われた男子の東アジア選手権予選大会では、グアム代表の先発のうち8、9人が高校生によって占められていた。その高校生軍団が準優勝した香港から得点を奪うなど健闘。強い相手に立ち向かう姿勢が光っていた。今回取材したU-19代表のほとんどが東アジア選手権予選大会の経験者。フル代表のメンバーのほとんどが10代の選手で固められているために、近い将来の希望は大きいと思われるかもしれない。だが、グアムを取り巻く現実は簡単なものではないという。築館監督は「グアムの高校生は大学進学するときにほとんどが(アメリカ大陸へ向けて)海を渡ってしまう」と首を振る。一度グアムを出てしまうと代表の練習のためだけに島へ戻ってくることは困難。そのため、地元に残る一部の選手を除くと継続的な指導は絶たれてしまうのだ。グアムにも社会人のクラブチームは存在するが、「サッカーへの意識は高校生の方がはるかに高いから彼らを起用している。ただ高校を卒業する選手たちが将来のためにアメリカへ行ってしまうことを止めることはできない」(築館監督)。そのために高校生たちが代表メンバーの主力を占めてしまう苦しさがグアムにはある。

 女子代表にも同じ問題があるというグアム。サッカー競技人口の底辺を増やすことが必要、また現代表選手でも「パーティーがあるから」とか「歯医者を予約したから」という日本では考えられないような理由で練習を休むこともしばしばで、意識の面でもまだまだ課題がある。「彼らにとってはサッカーの存在はまだ5番目か6番目くらい。でも2年前に比べれば確実に良くなっているんです」と築館監督。変え様のない地域の「文化」、「環境」のなかでこれからどのようにしてサッカーの地位を上げていくのか。地元・グアムで始まった東アジア女子選手権予選大会の初戦で香港と大接戦を演じた女子代表を地元紙は約1ページ割いて紹介していた。彼女らの活躍も「変化」をもたらす一端になればいいのだが、と思った。

<写真はいっぱいに広がった青空の下で練習に取り組むU-19グアム代表イレブン>
(取材・文 吉田太郎)

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