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大怪我のエース、受け継いだリーダー…東邦を支えた2人の『10』

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10番を背負って戦った東邦高MF藤原颯(3年)(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[12.31 選手権1回戦 東邦高1-3大分高 等々力]

 絶対的エースから受け継いだ10番を背負って臨んだ“最後の冬”は、全国大会の1回戦で幕を閉じた。「未練も後悔もあまりないですね。今回の相手の10番だってうまかったし、やり切ったかな…というほうが大きいです」。東邦高MF藤原颯(3年)はそう語り、爽やかな笑顔とともにスタジアムを後にした。

愛知県予選ではゲームキャプテンを務めたMF藤原颯(3年)

 理想のスタイルは「相手のキーマンを潰せる選手。そして、ここで止めなきゃいけないというところで仕事ができる選手」。しかし、背中に着けている数字はエースナンバーの10番。今年10月、絶対的得点源のFW石川璃偉(3年)が全治約6か月の負傷をしたことを受け、やむなく引き継ぐ形となった番号だ。

「最初は点を取ったりしなきゃいけないのかな、と思っていました」。最後の県予選でゲームキャプテンも任され、チームへの貢献を第一に考えていた藤原。一人でカウンターを完結できるスピードを持ち、チームの攻撃を一手に担っていたエースが離脱するならば、穴を埋めようと考えるのは自然なことだった。

 だが、『6』か『8』だった数字が『10』になるという重みだけで、簡単に個性が変わるはずもない。「10番というタイプでは絶対にない。守備が8割、9割ってタイプですから」。そう迷う藤原に対してある時、横井由弦監督ら指導陣が声を掛けた。「自分ができることをやれば良いんだぞ」と。

「そこで意識を変えることができましたね。他のチームから『この10番、あんまりうまくないぞ』とか、どういうことを言われてでも、自分にしかできないプレーをすれば良いかなと思えるようになりました」。そんな新エースに支えられたチームは愛知県予選を僅差で突破し、全国大会への出場権を手にした。

スタンドから声援を送るFW石川璃偉(3年)(写真は愛知県予選)

 一方で、藤原が背負おうとしていたエースの重みはチーム全体に責任となって波及した。「リイが怪我をして、本当にどうなるんだろうと思っていました。ただ、守備陣は『失点しなければいいんだ』って、そして攻撃陣は『自分がやらないといけないんだ』って。良い意味の危機感を与えてくれたと思います」(藤原)。

 そうして迎えた全国初戦、Jリーグ王者の川崎Fが本拠地とする等々力陸上競技場が舞台だった。「緊張はありました。昨日はそれほどでしたけど、バスを降りて中に入ったくらいから、会場の雰囲気に圧されてしまって…」。パロマ瑞穂スタジアムでも2試合経験したが、全国の景色は一味違ったようだ。

 ベンチ入りのメンバーは外れたが、直前までロッカールームに帯同していた石川も違和感を覚えていた。「やるのは選手たちなので、全員で勝ってしっかり年越しをしようって伝えたんですけど、選手たちは緊張状態にあって…」。その不安は現実のものとなり、「フワッとした」(横井監督)まま試合に入った。

 藤原が担っていたのは大分高の10番MF山口卓己(3年)へのマンマーク。「なるべく10番を視界に入れる形にしつつ、近くにいるように言われていた」(藤原)。バイタルエリアを動き回る相手に対し、4-1-4-1のアンカー的な位置取りでしぶとい対応を続けていた。

 だが、やはり様子がおかしい。サイドから攻め込まれれば全体がズルズルと引いてしまい、前半8分にクロスを起点とした攻撃から失点。藤原自身はその後、絶好機のボレーシュートもあったが、「固くなっていてミートしなかった」と実らず。そして同19分には、警戒していたはずの山口に追加点を奪われた。

 チームは前半終了間際に1点を返し、追い上げムードで後半に臨んだが、相手のパスワークの的を絞れず、3失点目で万事休す。「完敗じゃないですかね……。まったく通用しなかった。相手の10番、本当にうまかったです」(藤原)。表情こそ明るくも、悔しさはにじみ出た。

 試合後、スタンドで声援を送り続けた石川からは「自分のスタイルを貫き通したな。お疲れ」という言葉をかけられたという藤原。一方、石川は「怪我はしたけど、3年間一緒でトータルで考えたら楽しかった。キツい練習を一緒に乗り越えてきて、みんなにも感謝しています」としんみりと語った。

 なお、2人のサッカー人生は試合終了とともに分岐点を迎えていた。

 藤原は卒業後に就職が決まっており、第一線での競技生活は終了。それでも「サッカーに関わることはやめたくない」と前向きに語る。週末に時間のあった小中学生時代は名古屋グランパスを応援していたそうで、「試合を見に行ったり、東邦のOB会に顔を出したりできれば」と素直な楽しみを口にした。

 一方、負傷前はプロの注目も集めていた石川は大学で競技を続ける予定だ。「まずは怪我をしっかり治して、大学で結果を出してプロにアピールするところから。そしてプロになって、またこういうピッチに戻ってきたいです」。悔しさを抱えながら眺めた等々力のピッチを、いつか自らの晴れ舞台とするつもりだ。

(取材・文 竹内達也)

●【特設】高校選手権2018

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