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「冷や飯を食って」掴んだ初出場、佐賀・龍谷の冬は16強終幕…黒木主将はもう一つの“決戦”へ

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PK戦で敗れた龍谷高。左から3番目がDF黒木主将(写真協力『高校サッカー年鑑』)

[1.3 選手権3回戦 龍谷高1-1(PK2-4)秋田商高 フクアリ]

 初出場で8強進出という大きな夢は、あとわずか数分のところで断たれた。龍谷高(佐賀)は1点リードの後半40分、秋田商高DF山本翔太(3年)に同点ゴールを献上。そのまま入ったPK戦に2-4で敗れ、勝利目前の状況から大会を去ることになった。DF黒木聖也(3年)主将は「ベスト8がちらついてしまった」と悔やんだ。

 龍谷は初めて佐賀県大会を制し、全国高校選手権に初出場。初戦の羽黒高戦で3-0の圧勝劇を演じ、ベスト16入りを果たした。この勢いは3回戦でも止まらず、前半17分にDF今村慎二(3年)のゴールで勝ち越すと、アディショナルタイムを守り切ればベスト8進出というところまで辿り着いた。

 だが、結果は望んだものではなかった。「少し油断があったかもしれないし、自分たちが勝てるんだとベスト8がちらついてしまった。流れが相手のほうに行っていたのに、そこを流してしまった。もっとはっきりやっていれば…」(黒木)。同点ゴールの後に迎えたPK戦、龍谷は2人のキッカーが止められ、終幕となった。

 それでも、史上初出場の偉業は色あせない。龍谷は本格強化5年目。かつて清水商高で高校選手権を目指し、強豪の壁に跳ね返されてきた元Jリーガーの太田恵介監督は「これまで冷や飯を食ってきた」と振り返る。ノウハウの蓄積がない中で、スカウト、体制づくり、チームづくりなど、全国に向かう歩みを一つ一つ進めてきた。

 その中でも効力を発揮したのは、今季から部員たちを“部署”化したことだったという。「それぞれの役割を明確にして、責任を与えて、部署のリーダーに発信させるようにした」(太田監督)。寮の当番、駐輪場の管理、下級生の指導、補食用のおにぎり作り——。それまでは指揮官が指示を出していた仕事だったが、それぞれに担当者を任命し、部員に管理させる形にしたのだ。

「それまで大人に怒られるだけで成長しなかったのが、やりながら成長するようになった」(太田監督)。主将の黒木もこの仕組みの効果を実感していた様子。「前は自分一人でやろうとしていて、周りも自分任せだった。でも、自分も人に頼るようになったので、全員がそれぞれのリーダーになっていったと思う」。

 そういった「サッカー以外の成長」を積み重ねたことでピッチ内の成績も向上し、初めて全国大会への扉が開いた。「この3週間、楽しいことしかなかった。選手たちがノビノビと成長しているのを感じた。全国に出て得るものはすごいと感じた」(太田監督)。あとは、この財産を次の世代に受け継ぐ構えだ。

「自分たちも最弱世代と呼ばれた」という黒木は後輩たちに思いを受け継ぐ。「次の2年生たちは氷河期とか呼ばれているけど、最弱から一番良い結果を残せた。まずはそれぞれが自分に打ち勝つこと。全員がチームのことを考えて、全国を目指していけば、結果は掴めるんだということを伝えたい」と力を込める。

 また、太田監督も「いきなり全国ベスト8に入るより、まだ成長できるほうが良い」とさらりと述べ、今後の戦いに闘志を燃やす。「僕は全国制覇を目指しているので、ここでは満足していない。でも、ここまでの年代はよくやってくれた。朝から晩まで、本当によくやってくれた」と選手たちを称えた。

 なお、黒木にはこれからもう一つのビッグイベントが待っている。「自分はプロサッカー選手になりたいので、強豪校に入るために大学の一般入試があるんです」。選手権期間中は勉強が手つかずのため「いや、ヤバいっすね」と本音もこぼしたが、徐々に学業と向き合う覚悟をつくろうとしている。

 太田監督は九州各地から集まった選手たちを評した際に「親元を離れてきた子の覚悟がないと成長はない。龍谷が強いから龍谷に行くという感覚で来た子はあまり伸びない。俺は何がなんでも上手くなるぞ、成長するぞという子は成長が早い。その覚悟が中途半端な子は選手権登録の30人に入っていませんよ」と述べていた。

 沖縄からやってきた黒木は新チームの主将に選ばれ、左サイドバックの主力を担った存在。30人の中でも精鋭中の精鋭だ。「責任感が強い子なのでキャプテンになってさらに成長してくれた。キャプテンに僕の仕事を与えたことがチームが成長した一番の要因だった」(太田監督)。そう評される男ならば、目の前の大きな試練も乗り越えられるはずだ。

(取材・文 竹内達也)

●【特設】高校選手権2018

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