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帝京長岡が小中時代から一緒に磨いてきたサッカーで躍進。“サッカーのまち”長岡から日本一へ

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帝京長岡高が新潟県勢最高タイのベスト8進出

[1.3 選手権3回戦 帝京長岡高 2-1 長崎総合科学大附高 浦和駒場]

“サッカーのまち”長岡の代表、帝京長岡高が、幼い頃から積み上げてきたサッカーで新潟県勢最高タイのベスト8へ進出した。この日の帝京長岡の先発11人中6人は、帝京長岡のグラウンドで活動する長岡ジュニアユースFC(長岡JY FC)出身の選手だ。ジュニアの頃から同じグラウンドで練習する高校生たちの姿を見ながら成長してきた選手たちが今、テクニカルかつ連動した攻撃サッカーで全国の強豪を打ち倒している。

 この日は前へのパワーが特長の長崎総合科学大附高と対戦。古沢徹監督は「どんどん前から圧力をかけてくるスタイルに対して、ボールを握れるかがテーマだと思った。前半20分くらいから落ち着いてボールが横に動くようになった」と振り返る。

 序盤は相手の縦に速い攻撃に合わせてしまい、20分には湘南内定MF鈴木冬一(3年)のスピードとテクニックに屈して先制点を奪われてしまった。それでも、「(DF陣は)チームのために走ろうというのを掲げているので、気持ちの部分で負けないと、粘れたと思います。(鈴木は) 凄かったですけれども、勝ててよかった」とCB小泉善人主将(3年)が微笑んだように、失点後は相手の得意なスタイルに持ち込まれても懸命に身体を張ったディフェンス。指揮官も称賛したGK猪越優惟(2年)の活躍もあって2点目を許さず、逆転劇に繋げた。

 シュート数は相手の9本を大きく上回る16本。相手のプレッシャーを1タッチやドリブルで外しながら前進していった。前半39分に敵陣でボールを奪い返してからの速攻でFW小池晴輝(3年)がPKを獲得。MF谷内田哲平(2年)が決めて同点に追いつくと、後半も相手の圧力に怯むことなく繰り返し仕掛け続ける。ミスもあったが、攻め続けた帝京長岡は試合終了間際の38分、左SB手塚克志(3年)やFW晴山岬(2年)ら5人、6人が絡んでの攻撃からMF田中克幸(2年)が決勝点を奪い取った。

 帝京長岡が意識している1タッチと3人目の動きが噛み合って生まれた歓喜の決勝点。古沢監督は「普段やっている3対1や4対2とかのトレーニングと比べて相手との距離も遠いので、もっと自信を持ってやってほしい。落ち着いてやってほしい」と指摘するが、それでも、「先制されても逆転できる強み。耐えるところでしっかり耐えてキチッとものにできるのは成長かな」と目を細めていた。

 帝京長岡は谷内田や晴山らタレント揃いで注目集まる2年生の力と、「自分たちの代は中学校の時(長岡ジュニアユースFC時代)から弱いと言われていたので、それを何とか見返してやろうという思いが一人ひとり強いと思います」(小泉)という3年生の力が結集してチームを高めている。

 長岡JY FC時代から一緒にサッカーをしている選手たち中心に上下関係はなく、ほとんどがタメ口。長岡JY FCの後輩たち、周辺のまちの人たち含めてチームの“ファミリー感”が強い。小泉は「近所の人もボールがネットを越えて良く怒られるんですけれども……(苦笑)、それでも差し入れをくれたり、自分たちが挨拶すればニコニコ返してくれたりとか地域ぐるみで応援して頂いているという感覚が強い地域にあって、そういう人の支えもパワーになりますし、感謝を忘れてはいけないなと感じています」と語っていた。時に高校生は同じグラウンドで練習する小学生たちにアドバイス。そして小学生は“憧れの存在”である高校生を応援する。そのような絆もこのチームにはある。

 帝京長岡は10年ほど前から系列組織の長岡JY FCの中学生選手を高校生のトレーニングに加え、公式戦で起用してきた。中学生レベルで余裕のあるプレーをするよりも、高い壁を乗り越えさせることで成長を加速させる。高校生も刺激を受けて吸収しようとする。人口27万人ほどの地方都市、長岡から選手を輩出するために取り入れてきた育成方針だ。

 谷内田らは中学時代、学校の授業が終わると自転車で帝京長岡のグラウンドに駆けつけ、高校生たちとともにトレーニング。中学3年時にプリンスリーグ北信越メンバーとして登録され、高校生相手に2ケタ得点を叩き出した逸材・谷内田は卒業時にJクラブユースなどからの誘いがあったが、「この帝京長岡で、選手権で優勝したいという思いがあった」と帝京長岡の“家族”とともに日本一を目指す決断をした。

 そして今回、長岡JY FCでともにサッカーをしてきた仲間、高校から加入してきた新たな仲間とともに全国8強入り。谷内田は「もっとこの緑のユニフォームを全国の人に知ってもらいたい。もっと結果を残していければ、長岡という街も盛り上がると思うので、サッカーで街を盛り上げていきたい」。8強に満足することなく、日本一を目指す意気込みだ。

 20年かけて帝京長岡、長岡JY FCの礎を築いてきた谷口哲朗総監督や西田勝彦コーチ(ともに帝京高時代に全国制覇を経験)はかつて、「長岡にサッカー文化を根付かせたい」「選手権で日本一を取ると本気で思っています」と語っていた。学校の協力、地域の協力で高まってきたサッカー文化とその実力。ただし、頂点への道のりはまだ中間地点で本当の戦いはこれからだ。

 古沢監督は今後の戦いへ向けて「見てもらっている中学生、小学生に夢を与えるような戦いをしたい」とコメント。磨いてきたサッカーで全国トップを争う戦いを勝ち抜き、後輩たちや地域の人に勇気と夢をもたらす。

(取材・文 吉田太郎)

●【特設】高校選手権2018

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