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「ずっとサッカーを辞めようと思っていた」徳島DF井筒陸也の決断、24歳で会社員&アマ選手の道へ/ロングインタビュー第1回

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プロサッカー選手からの引退を決断した徳島ヴォルティスDF井筒陸也

 徳島ヴォルティスは7日、DF井筒陸也(24)がプロサッカー選手を引退すると発表した。関西学院大を主将として大学4冠に導いた後、徳島では3年間でJ2リーグ通算54試合に出場。ピッチ外でも精力的な発信活動を行ってきた男は今後、株式会社Criacao(クリアソン)の正社員となり、関東2部リーグ所属の同クラブでアマチュア選手生活をスタートさせるという。不思議な決断の背景に迫るべく、本人に話を聞いた。<第1回>

—引退を決めた経緯は何ですか?
「そもそも、小さい時からずっとサッカー辞めようと思ってたんですよね。中学から高校に上がる時は成績も上位だったんですけど、受験したくないからスポーツ推薦で行っただけですし、高校から大学に行く時も関学(関西学院大)にはスポーツ推薦じゃないと入れなかったので。ずっと前から辞めようと思っていたんですが、いろんなご縁でプロまで入れてもらいました

 ただ、プロに入ってからもその思いが消えなくて、契約は毎年できるだけ短くして、延長オファーをもらっても『1年でやらせてください』って話をしていました。その土壌があった上で、今年1年サッカーをやって、プロサッカーを計3年間やり終えたら、違う挑戦があるんじゃないかと思ってました。そこで回答する期限が来たので『引退します』と伝えた感じです」

—契約延長のオファーはあったんですね。
「実は昨年の秋も2年契約を提示してもらえたんですが『1年にして下さい』と言っていました。そして、今年も延長契約をもらいましたが『辞めます』と伝えました」

—つまり、この決断はサッカー選手を辞めたかったから。ですか?
「大学時代からいろんな人を通じていろんな人と繋がらせてもらって、サッカー以外でもめちゃくちゃ面白い世界があるんだなってずっと思ってました。あと中学、高校時代から音楽が好きだったり、本が好きだったり、また映画も好きなんです。これまでは自然にサッカーだけしてきましたけど、そこは常に自分の中で意識をしてきました」

—そこでCriacaoを選んだのはどうしてですか?
「率直に、マルさん(丸山和大CEO)が徳島まで来てくれたからです。しかも台風の日に(笑)。最初はお茶して話して、翌日に試合を見るはずだったんですが、試合が台風で流れてしまって。そこで夜も話をさせてもらって、チームのビジョンとかを聞いて共感して。それが一番でしたね。面白そうだなって」

—Jリーガーという立場を捨てるリスクは感じませんでしたか?
「やっぱり、Jリーガーって得だと思うんですよ。いろんな人に会えるし、金銭的にもサッカーだけでご飯が食べられるし、試合に足を運んでくれる方がたくさんいますし。ただ、リスクという話で言えば、そこにとどまっていることがリスクだって感覚がすごくありました。

 いろんな挑戦をしていく中でいろんな経験をして、その中で『自分が何なのか』を分かっている人間が一番強いと思ってます。なのに、ずっと同じ場所にいると『徳島ヴォルティスの井筒です』という肩書きになってしまう。徳島ヴォルティスでこういうプレーができます、こういう立場にあります、という話になると、外形的なものばかりに依存してしまいます。

 全然違う世界に飛び込む時って、『実際、井筒は何ができるのか』ってことが問われます。ビジネスの場でも『サッカーでやってきたものって何なのか』ってことが問われる。そこで『はい、左足でビルドアップできます』って言っても、じゃあそれが何なのか。積み上げてきた努力の質なのか、チーム内で必要とされていることをやってきた成果なのか。自分がサッカーでやってきたものはアイデンティティなので、それを他の分野にしっかり引き継いで…という作業を早くやってみたいと思いました」

—しかし、Jリーガーという肩書きのほうがメリットもあるのでは?
「『サッカー選手なのに考えているよね』というポジションは取れていて、それはかなり得でした。普通にやっていたら会えない人に会えたりしたし、それはサッカーという切り口を持って語れるから。でも、どこまで行っても『サッカーの中では』というポジションでしかないんです。実際に『井筒陸也がどうなのか』とはかけ離れていて、サッカー選手というラベルが取れた時にどうなるのかが問われると思っています。自分には『所詮サッカー界の中では…』という部分と、そうでない部分があると思うので、これから試していきたいです。

 また、サッカー選手としてのメリットは、いま作っているオンラインコミュニティの中にJリーガーもいるので、そっちに任せればそのメリットは担保できるかなとか思っています。これから僕がビジネスで得ることはそっちに還元できるし、逆にサッカー界が今どうなっているのという話はそっちからもらえる。自分はこれからJリーグを離れるけど、Jリーグのことが分からなくなるということにはならないと思うし、もしJリーグの力を使いたかったらそっちにお願いできればと思っています」

—Jリーガーというブランドを捨てることに迷いはなかったんですか?
「そういう意味では、ツイッターを見るのが好きだったので、練習から家に帰った後、ずっと更新されないのにシュパシュパやって時間を過ごしていたんです。でも、ずっとこんなふうにやってたらダメになるなと思って、ツイッターのアプリとか全部消して、スマフォでは見られないようにしました。

 そうしたら、それまでスゴいとかイケてるとか思っていた某インフルエンサーの人とか、そういった存在への執着がまったくなくなって、そんなことよりツイッターやってないけどめちゃくちゃ面白い人とか、めちゃくちゃ本質的なものを持っている人への出会いとかが、かなり際立つようになってきて、そこの大事さを感じるようになりました。

 あと『Jリーガーが関東2部に行くのはどうなんだ』とか、『わざわざベンチャー企業に行くのはどうなんだ』とか、『サッカー選手として名前が売れてきたタイミングなのに早いんじゃないか』とか、『もうちょっと長くやったほうがいいんじゃないか』とか、そんな話はめちゃくちゃされたんです。ただ、そういう声って、もうどうでもいいなと思って。本当に面白い人はツイッターとかやってなくても面白いし、人からめちゃくちゃ必要とされています。かたや、うまくSNSマーケティングとか言って違いを作ってフォロワーを集めて…って人もいるんですけど、魅力的かって言われると別に魅力的じゃない。

 自分は本当の部分を突き詰めていきたい。そうすれば、影響力は後からついてくるんじゃないかと思っています。SNSとかそういった分かりやすいものから離れてみて、何が大事なのかはだんだん見えてきて、そこをやっと振り切れたんですよね。あと、いったんサッカー選手をやめて外資系の企業に行って…みたいなストーリーにも面白くはあるんですけど、それも違うなという」

—自身のブランド力を活用する「インフルエンサー」に対し、「本質的に面白い人」には具体的にどういった人を挙げますか。
「一番おもしろいのはCriacaoの監督(成山一郎監督)ですね。ナリさんは大学(関西学院大)の監督でもあったんですが」

—具体的にはどういったところですか?
「たとえばさっき『どういう選手と一緒にサッカーをしたいか』って話をしていた時に、僕とかマルさんは『こういう能力や特性がある人がいいよね』って話をしていたんです。だけど、ナリさんは『誰でもいいよ』と言っていて。『人としての可能性を信じているし、可能性を信じていれば、その人をいい方向に変えられるはずだし、現時点の能力はどうでもいいんだ』って。

 この前、とあるセミナーで「競争のあるスポーツ組織で、構成員が心理的な安全性を持つことは可能か」という話題になったんですが、そこでも「何事もコミットすれば全て可能で…』ということをさらっと言ってしまって(笑)。大学の時も、僕が『これはOBとの関係が…』『いまのチームはそういう雰囲気じゃないんで…』とか言ってたら、『本当にそうか?やったらできるだろ?』とあっさり言われて。僕は頭でっかちになったり、先走ってしまうので、すごいなって思いますね。ああいう感じになりたいなって思います」

—成山監督の存在が大きいんだろうな、とは思っていました。
「ただ、ナリさんがいるから行くとか、ナリさんに引っ張ってもらったとか、あまりそこは意識していなくて、純粋に決断したってのは声を大にして言いたいです。素晴らしい人間と一つの目標に向かえるってことは大きいですけどね」

 Jリーガーとしての立場を捨て、「サッカーの外」の世界に挑んでいく覚悟を固めた井筒陸也。とはいえ、これまでサッカー界で培ってきたモノが大きな武器となるはずだ。第2回では井筒の過去を振り返っていくことで、独特の歩みを続けようとするメンタリティーの源を掘り下げたい。

(インタビュー・文 竹内達也)
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